テキサス州オースティンに本拠を置くWARM AUDIOは、ハイエンドな製品をリーズナブルな価格で提供することをモットーに2011年に創業。コストを抑えつつ、往年の名機を忠実に再現した高品質な製品を数多く生み出しているオーディオメーカーである。そんなWARM AUDIOから、真空管オプトコンプWA-1Bがリリースされた。スタジオで必ずと言っていいほどよく見かける名機、TUBE-TECH CL-1Bを再現したと思われる本機。早速レビューしていこう。
クリック式のノブで容易にリコール可能 CL-1A/Bにはないメーターキャリブレーションを搭載
WA-1Bのルックスは、ブルーのパネルに配列されたビンテージノブやスイッチ、VUメーターなどまさにCL-1Bそのものである。しかし、それらを奇麗に2Uのユニットに収めていてコンパクトで好印象。
フロントパネル上段左からoff〜+30dBのゲイン、2:1〜10:1の連続可変のレシオ、off〜−40dBのスレッショルド、インプット/リダクション(コンプレッション)/アウトプットのメーター切り替え、大型で視認性の良いVUメーターと並ぶ。下段は、電源スイッチ、アタックタイム、リリースタイム、アタック/リリースタイムの動作モードを切り替えるためのスイッチ、サイドチェインスイッチ、メーターキャリブレーション、電源ランプ、電源スイッチといった配列だ。
アタック/リリースタイムの動作モードは、fixed(アタックタイム:1ms、リリースタイム:50ms)、manual(アタックタイム:0.5〜300ms、リリースタイム:0.5〜10s)、fixed/man.(固定されたアタックタイムに任意でリリースタイムが設定可能)の3モードから選ぶことが可能。リアパネルは、IEC電源インレット、電圧切り替えスイッチ、サイドチェインコネクター、入力/出力端子(共にXLRとTRSフォーン)と至ってシンプルだ。筆者は、発売当時からCL-1A/Bを購入して使っているヘビーユーザーなので、これらの配置にはなじみがあってとても使いやすく感じる。
電源を入れてみると、ブルーのパネルに一際目立つ赤いランプとVUメーターが点灯。実際に操作してみると、ノブのトルク感、スイッチの感触がとてもスムーズで心地良い。そして、ノブにクリックが付いていることに感心した。クリックがない場合、規定値に束縛されない自由なセッティングをすることができるとも言えるのだが、再現性に乏しくなる。ゲインやスレッショルド値を次々に細かく変える必要がある場合など、素早く対応できるのでとても便利だと思った。
また、WA-1BにはCL-1A/Bにはなかったメーターキャリブレーションが追加されている。正確なメーターで入力レベルの状態やリダクションの具合が確認できることは安心感につながるので、このように簡単にキャリブレーションが取れるのはとても良いと思う。
厳選された内部パーツについても見ていこう。インプットトランスにスウェーデンのLUNDAHL LL7908、アウトプットトランスも同社のLL1970を使用。大型の電源トランスはMianyang Yingtian Electronic製のものが採用されている。これらのパーツはすべて丁寧なハンドワイヤード・スルーホール回路。100%ディスクリートのアナログ信号経路を持つ270V回路である。
滑らかで自然なゲインリダクション さまざまなソースにおいて心地良い倍音を付加
早速、スタジオでテストしてみよう。まずは、ボーカルでのテスト。普段のレコーディングでは自前のCL-1Bを使っているのだが、正直操作感が全く変わらなかった。これはお見事! リダクションされたときの音色がとてもスムーズで、不自然なコンプ感がない。それゆえ、気を付けてVUメーターを監視していないとオーバーリダクションしてしまう。アタック/リリースタイムの動作もとてもナチュラルで、聴いた印象と各ノブの位置が一致するような設計は素晴らしいと感じる。普段、ボーカルレコーディングの場合CL-1Bのfixedモードをよく使うので今回も使ってみたが、ピークも程良く抑えられて、レベリングアンプのような扱いやすさだった。
続いては、エレキギター。GIBSON ES-335を使ったジャジーなギターソロに、アタックタイムをやや短めに設定。スピードのある奏法では程良くアタック感が残り、スムーズにコンプレッションされる。強いアタックには心地良いひずみが付加され、耳あたりの良いサウンドが得られた。
今回、テナーサックスのソロパートでも試すことができた。とても自然な音調で、低域から高域まで実に滑らかにリダクションされた。大活躍したのはfixed/man.モード。音楽的にアタックがコントロールされるので、フレーズに合わせたリリースタイムを設定すれば、全面にしっかりと音像を存在させることができる。アドリブでの突然のブロー奏法でも、レベルオーバーすることなく奇麗にコンプレッション。心地良い倍音と共に収録することができた。
以上のように、WA-1Bはさまざまな楽器において、とても自然なゲインリダクションで心地良い倍音を与えてくれる製品だ。また、音域による不自然なリダクション感が一切ない。音色に関しては、若干線が細く感じる部分もあるが、輪郭がはっきりとしていて、LUNDAHL製トランスのおかげでCL-1B同様に落ち着きがあり安定した印象である。倍音の付加による全体の音調は真空管にもよるので、さまざまな真空管で自分の好みの感じを探るのも悪くないだろう。fixed、fixed/man.、manualの各モードもとてもスムーズで音楽的なので、初めての真空管のコンプレッサーの導入には打って付けの一台だと思う。また、これだけのクオリティを有する機材の本体価格が178,000円という部分にも驚いた。本国での販売価格が$1,199だから、相変わらず代理店は頑張ってくれていると感じる。
WA-1Bはうたい文句の通り、CL-1Bを正確に再現し、そのサウンドが得られる頼もしい機材だと感じた。ただ、一言付け加えるとするならば、“温かみのあるサウンド”というよりも、“とても自然で耳あたりの良いサウンド”が得られる、という表現の方が適しているのではないかと思う。
山内"Dr."隆義(gogomix@)
【Profile】竹内まりや、鈴木雅之、布袋寅泰、福山雅治、吉田兄弟、在日ファンク、降幡愛などを手掛けるベテラン・エンジニア。近年流行の“シティポップ”は最も得意とするサウンド。
WARM AUDIO WA-1B
178,000円
SPECIFICATIONS
▪周波数特性:5Hz〜25kHz(−3dB) ▪セルフノイズ:−75dBu以下(@30dB) ▪出力ゲイン:off~+30 dBu ▪スレッショルド:off〜−40dBu ▪レシオ:2:1〜10:1 ▪入力インピーダンス:600Ω ▪外形寸法:482(W)×85(H)×254(D)mm(突起物含む/実測値) ▪重量:4.45kg(実測値)