ハイエンドなオーディオ製品ブランド、DELAを展開するメルコシンクレッツは、パソコン周辺機器で知られるBUFFALOなどを子会社に持つメルコグループの一員だ。そのラインナップはネットワーク・オーディオに軸足を置いた製品が充実しており、特にネットワーク配信や楽曲管理/再生機能を有するミュージックライブラリーと呼ばれる製品でオーディオ・ファンから10年にわたり音質面での高い評価と信頼を得ている。そんなDELAが、新たな取り組みとしてハード・ディスク・ドライブ“DELA DRIVE”を音楽制作者向けに提供している。本稿では、アルバム制作にDELA DRIVEを活用したアーティスト、★STAR GUiTARのプライベート・スタジオを訪れ、このハード・ディスク製品がほかのストレージと何が違うか、どんなメリットがあるのかについてお話を伺った。
Photo:Takashi Yashima
DELA DRIVEとは?
音楽制作のために開発されたUSBハード・ディスク・ドライブ、DELA DRIVE(オープン・プライス:市場予想価格100,000円前後)。外形寸法:215(W)×61(H)×269(D)mm、重量:約4kg。4TBの3.5インチ・ハード・ディスク・ドライブとUSBハブを内蔵(8TBモデルも選択可能)。
ハード・ディスク・ドライブは、2mm厚と3mm厚のステレンレス板に制振素材を組み合わせた構造物に収められ、さらにそれを2mm厚の鋼板製シャシーに搭載することで安定した動作環境を確保している。またUSBハブは、USBオーディオ・インターフェースとの接続を前提に開発されており、高品質なクロックを搭載することで、コンピューター本体と直接接続するよりも良い結果を期待できるという。
さらに、SATA基板も高品質クロックを搭載、アクセス・ランプの影響を排除するLED制御ロジックが採用されている。なお、ハード・ディスク・ドライブの電源を落としても、USBハブ部分は動作を継続する。Type-C Type-A両方のUSBケーブルが付属する。
[購入方法について]
DELA DRIVEは現在、事前試聴されたプロの制作者の方への販売に限定。より詳しい製品情報や無料試聴の申し込みについては下記のURLからアクセス。
空間の広がりが全く違う
★STAR GUiTARは、SiZKあるいはAkiyoshi Yasuda名義でも活動する音楽家。SiZKとしてはポップス系楽曲のプロデューサー/コンポーザー/アレンジャーとして活動しており、映像音楽やアンビエント/ノイズ系作品を手掛ける際はAkiyoshi Yasudaの名が使用されている。そしてダンス・ミュージックに軸足をおいたアーティスト活動を行う際の名義が★STAR GUiTARだ。去る6月28日には4年ぶりのアルバム『Veil』の配信がスタート。全収録楽曲でDELA DRIVEが使用されており、ミックスやマスタリングまで自ら手掛けている。その詳細を伺う前に、まずはハード・ディスクに注目するようになったきっかけを尋ねてみた。
「もともと電源ケーブルなども好きで、“音が変わる”と言われるものはいろいろ試してきていたんです。ですから、USBケーブルやハード・ディスクの電源ケーブルは変えてみたりもしていましたが、正直に言うとハード・ディスクで音が変わるとは思っていませんでした。でも、音楽制作向けのハード・ディスクがあると知って面白そうだなと思い、まずは試させてもらうことにしたんです」
最初に使用したのはAkiyoshi Yasuda名義で編曲やミックスを手掛けた森山直太朗の「素晴らしい世界」だったそう。
「アレンジの段階ではまだDELA DRIVEを導入していなかったのですが、ミックスで初めて試作機を使わせてもらったところ空間の広がりが全く違ったので感動しました」
「素晴らしい世界」は深い音色のピアノにグリッチ・ノイズが折り重なるアンビエントな作風で、森山直太朗の新境地として話題となった。その静かでありながらも広大なサウンドスケープの構築にDELA DRIVEは一役買っていたわけだ。
「DELA DRIVEを使うと音の伸びやテールの切れ際が如実に分かるようになり、奥行きも見えやすくなります。ですから、音の長さのコントロールにはシビアになりました」
その後、ソフト音源のライブラリーもDELA DRIVEにコピーして使ってみたところ、やはり音色が変わったそう。
「ソリッドになりました。ただ楽曲のデータとライブラリーのデータを1つのハード・ディスクに収めるのは容量的に難しかったんです。当時は3TBの試作機だったので。なお今回のアルバムでも楽曲データのみを収めています」
USBハブで低域の見え方が変わった
『Veil』は、ラテン・ハウスやドラムンベース、エレクトロニカ、ラウンジなど、バリエーション豊かな曲調を楽しめる作品だ。ピアノやストリングスの音色、それに生ドラムが多用され、オーガニックな質感に仕上げられている。残念ながらドラムはリモート録音で、直接DELA DRIVEにレコーディングされたものではないが、MIDI打ち込みの音源もミックスの際にはすべてオーディオ化しているため、全パートがDELA DRIVE上に存在しているとのこと。
「僕の場合、MIDIで打ち込みをしているときは、自分で分かればいいという感じでバランスもバラバラだし、EQやコンプレッサーなどのエフェクトもほとんどかけないという作り方です。頭の中で想像しているだけで、音楽としてのアンサンブルを作っていくほうを優先しています。そして全パートをオーディオ化してからミックスしていくのですが、DELA DRIVE上で作業すると音がよく見えるので音数が少なくて済むんです。また“この音色は何か違うな”と思ったときにコンプやEQで何とかしようというよりも、元の音色自体を変えるようになりました。ダメな音を選んでしまったときには、すぐに“これは違う”ということが如実に分かるんです。逆に“これでいい”と思える音色を選べば、あとはバランスを取るだけで楽曲が成立します。これはDELA DRIVEのメリットです」
その実例としてアルバム収録曲の「One way feat.Joey Sachi」のDAW画面を見せてもらった。使用しているのはMOTU Digital Performerだ。
「トラック数は20もないし、各トラックにはほとんど何もインサートされていません。例えば、ソフト音源のピアノもローカットして痛い部分を少し削るだけで事足りてしまう。あとはセンドでリバーブをかけている程度。楽曲に合う音色を選べば余計なことはしなくていいんです」
『Veil』は低域の気持ち良さも印象的。特にベースは音量が大きいわけではないが量感たっぷりに響いている。これはDELA DRIVEのUSBハブによるところが大きいとのこと。
「もともとUSBハブを使うことには疑問があって、これまでコンピューターとUSBオーディオ・インターフェースのPRISM SOUND Atlasはダイレクトに接続していたんです。ところがDELA DRIVEのUSBハブを介してAtlasを接続すると、低域がものすごく見えやすくなりました。『Veil』の低域処理で特別なことはしていないのですが、ほかのパートが邪魔をしないから、ベースがきちんと聴こえるんだと思います」
一方、DELA DRIVEのハード・ディスク自体は中域や高域がソリッドになる傾向があるとのこと。
「高域はシルキーで痛い方向にはならず、音楽的に仕上がります。今作の空気感やミッドハイにおけるアンビエンスの澄んだ感じはDELA DRIVEの影響だと思います」
今作はマスタリングも手掛けているが、その際のDAWはPRESONUS Studio Oneを用いており、DELA DRIVEも楽曲制作&ミックスとは別の個体を使用しているとのこと。
「マスタリングでは、どこを直せばいいのか分かるので、めちゃくちゃ楽でした。僕は基本的にミックスしたものを奇麗に並べていくタイプで過剰な処理はしないんです。軽くEQとコンプ、それにリミッターをかけるくらいで、音圧もそれほど上げません。その作業の中で、どこが足りないかとか、どこを削ればいいかが分かりやすかったです」
『Veil』以外にも、SiZK名義で作曲(ucioと共作)/編曲/ミックス/マスタリングを手掛けた柴咲コウの「TRUST」やAkiyoshi Yasuda名義で手掛けたフジテレビのTVドラマ『バイバイ、マイフレンド』の劇伴など、多くの制作でDELA DRIVEは活躍しているという。今後について伺ってみると、「DELA DRIVEで鳴らした音が基準になっているので、それがなくなるともう大変だと思います(笑)」とのこと。
「DELA DRIVEはすごく面白い発見でした。これまでいろんなことを試してきたつもりでしたが、まだまだ音を変えていく余地があるんだなということが分かってよかったです。このハード・ディスクを使うことで判断スピードも速くなりましたし、自分のリファレンスとなる音のレベルも上がってしまったので、もうDELA DRIVEがないと無理ですね(笑)」