AVALON DESIGNのプリアンプU5 & 真空管チャンネルストリップVT-737SPをレビュー

AVALON DESIGNの真空管チャンネルストリップU5 & プリアンプVT-737SPをレビュー

積極的な音作りが可能なDIと真空管チャンネルストリップがついに復活

アメリカの音響機器メーカーAVALON DESIGNが誇るDI/プリアンプのU5と、真空管搭載チャンネルストリップのVT-737SP。いずれもプロの間で長年にわたり親しまれているレコーディング機器だが、実はここ数年、入手困難となっていた。しかし、現在は供給が安定して、誰でも高品質なAVALONサウンドを堪能できる状況が整っている。そこで本稿では両機のユーザーである音楽プロデューサー/コンポーザー/ギタリストのZENTAに、その魅力について伺った。

AVALON DESIGN U5 & VT-737SP

写真上:U5(173,800円)、写真下:VT-737SP(599,500円)

写真上:U5(173,800円)、写真下:VT-737SP(599,500円)

リアパネル。U5(上)には左から、グランドリフト・スイッチ、アウトプット(マイクレベル/XLR、ラインレベル/XLR)、ヘッドホン、スピーカー入力(接続には別途ロードボックスが必要)を装備。VT-737SP(下)は、コンプレッサーをもう1台のVT-737SPとリンクするLINK端子、アウトプット(XLR)、インプット(ライン/XLR、マイク/XLR)が用意されている。なお、現行のVT-737SPのライン入力端子はXLRではなく、XLR/TRSフォーンコンボとなっている

リアパネル。U5(上)には左から、グランドリフト・スイッチ、アウトプット(マイクレベル/XLR、ラインレベル/XLR)、ヘッドホン、スピーカー入力(接続には別途ロードボックスが必要)を装備。VT-737SP(下)は、コンプレッサーをもう1台のVT-737SPとリンクするLINK端子、アウトプット(XLR)、インプット(ライン/XLR、マイク/XLR)が用意されている。なお、現行のVT-737SPのライン入力端子はXLRではなく、XLR/TRSフォーンコンボとなっている

 SPECIFICATIONS 

U5
●作動回路:100%ディスクリート高電圧クラスA ●ゲイン:3dBステップ/最大ゲイン+30dB ●入力インピーダンス:3MΩ ●入力端子:INPUT(フォーン)、SPEAKER IN(フォーン) ●出力端子:MIC LEVEL(XLR)、LINE LEVEL(XLR)、THRU(フォーン)、ヘッドホン ●外形寸法:216(W)×88(H)×305(D)mm ●重量:5.4kg

VT-737SP
●作動回路:双三極管×4本/高電圧クラスAディスクリート ●コンプレッサータイプ:オプティカル・パッシブアッテネーター(双三極管2本による駆動、ステレオリンク可能) ●EQ:ディスクリートクラスA回路、4バンド ●入力端子:MICROPHONE(XLR)、LINE(※右の写真とは異なり、現在はXLR/TRSフォーンコンボ)、INSTRUMENT(フォーン) ●出力端子:LINE(XLR) ●外形寸法:482(W)×89(H)×305(D)mm ●重量:10kg

太く芯のある音になるU5

 U5は10年以上前からベース録音には必ず使っている機材です。その存在は、2000年代前半ごろに見たレコーディングドキュメンタリー映像などで知っていました。いろんなミュージシャンとともにU5が映っていたんです。だから、“みんな使っている名機なんだな”と。その後、自分もレコーディング機材のクオリティを気にするようになって、“どうしたらベースをもっと良い音で録れるだろう”と考えていたところ、友人の作曲家がU5を使っていて、それで試してみたら、“やっぱり、これいいね!”ということで購入しました。

 U5のサウンドを一言で表すと“とにかく太い”。例えば、オーディオインターフェースのHi-Z入力の多くは、良くも悪くもさっぱりしています。でも、U5を使うと芯のある音になるんです。100%ディスクリートの高電圧クラスA回路を採用しているとのことで、パッシブとアクティブどちらのベースにも使えますし、BOOSTノブで3dBごとに10段階でゲインを調節できます。そのガチッガチッという操作感もいいんですよ。

 またパッシブEQが内蔵されていて、TONEスイッチをオンにすると、TONEノブで6種類のEQカーブを選べます。僕は低域感が豊かな“1”が気に入っているのですが、ここの選び方でキャラクターがかなり変わります。もしベースを何本か持っている場合は、各ベースの個性に合わせて選ぶことができます。しかも、キーボード、アコースティックギター、エレキギターなど、ベース以外の楽器を想定したEQカーブも用意されているので、いろいろ試してみると面白いでしょう。

 僕がベースを録音する場合は、ベースアンプも併用します。ですから、フロントのHi-Z入力にベースを接続して、リアのラインアウトから卓とオーディオインターフェースを経由してDAWへ入力しています。同時にフロントのTHRUアウトからはベースアンプにつないで、1本もしくは2本のマイクで録音するという方法です。ミックスでは2本もしくは3本のトラックでバランスを取ります。ただ最近は、SNSに投稿する動画用にU5のみで録ることも多いのですが、サウンド的には全く問題ありません。

 そのほか、リアには+4dBのマイクレベル・アウトやグラウンドリフト・スイッチ、そしてロードボックスが別途必要ですがスピーカー入力もあります。さらに、ヘッドフォンアウトもあるので練習にも便利です。フロントにはハイカットのほか、THRUアウトからBOOSTとTONEを通したサウンドを出力するACTIVE to THRUスイッチなどが用意されています。DIというと、入出力端子だけというイメージを持つ方も多いと思いますが、U5は全く異なるとても多機能な仕様です。

声に明るさをもたらすVT-737SP

 VT-737SPは、U5よりも後に購入しました。僕はそれまで単体のマイクプリやEQ、コンプレッサーなどは持っていたのですが、いわゆるチャンネルストリップは持っていなかったんです。でも、海外のアーティストが使っているのを見て気になり導入してみたところ、やっぱりいいですね。

 VST-737SPは、2つの三極真空管をカスケード接続したクラスA回路採用のマイクプリと双三極真空管を使ったクラスA回路によるオプティカルコンプ、それに100%ディスクリートの高電圧トランジスターを使用したクラスAの4バンドEQで構成されています。僕は主に歌録りで使用していますが、声を張ったときのレベルを調整するためにコンプで少しだけ抑えたり、声質的に低域や高域が欲しいときにEQを利用していて、いずれも深くかけるわけではないものの、それでもあるとないとでは便利さが全く違います。コンプはナチュラルなかかり方で、EQは効きがよく使いやすいです。

 サウンド的には、真空管らしい温かさや柔らかさがありつつ、高域が伸びてブライトになるという印象。歌声の重心が低いボーカリストにVT-737SPを使うと、自然と高域が伸びるんです。しかも、マイクを選びません。クリアな音色のマイクを使えば真空管らしい味付けが加わりますし、真空管マイクでも良い感じに調和します。真空管マイクと真空管マイクプリだと、やり過ぎな感じになるのかなと思ったんですけど、そんなことはなかったですね。

 そのほか、+48Vファンタム電源付きのマイク入力に加えてライン入力とHi-Z入力もあり、−6dB/octのハイパスフィルターは30~140Hzまで周波数を選べます。位相反転スイッチやゲインをブーストするハイゲインスイッチも搭載し、コンプとEQの接続順はスイッチで入れ替え可能です。さらに、EQのローミッドとハイミッドはコンプのサイドチェインコントロール用に切り替えて、ディエッサーのような使い方もできます。

 あらためて振り返ってみると、両機とも非常に多機能な点が特徴です。サウンド的には、スタイリッシュな見た目から受けるイメージ通りのハイファイさがあり、明るい音という共通点があります。今後もベース録りにはU5が手放せませんし、歌録りでも引き続き、VT-737SPを活用していきたいですね。

 

ZENTA
【Profile】ギタリスト/作曲家。アーティストへの楽曲提供やゲーム、アニメの音楽も手掛けるほか、ギタリストとしての参加作品も多数。近年では自社のZENTA STUDIOでのレーベル事業も行い、精力的に活動している。

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