皆さん、こんにちは。作編曲家の小林洋平です。連載2回目は、映像音楽を制作する中での、動画をインポートする際の注意点やチャンクの活用法などに触れた後、テンポの演算についてお話ししていきます(初歩的な内容も含まれますが、上級者の方もどうぞお付き合いください)。
まずは動画のフレームレートをセッションに合わせる
映画をはじめ、映像に合わせて音楽を制作する(以後、フィルムスコアリングと記します)際、最初はセッションファイルに動画をインポートするかと思います。その際に気をつけねばならないポイントが大きく2つあります。
1つ目は、動画のフレームレートをきちんとセッションに合わせること。映画やテレビなど、フォーマットによってさまざまなフレームレート、すなわち1秒当たりのコマ数がありますが、これをきちんとそろえないとタイムコード(以下TC)がずれてきてしまい大きな弊害が出ます。
動画のフレームレートが判断できない場合は、QuickTime PlayerのMovie Inspectorを表示すれば簡単に把握することができます。また、クライアントから動画ファイルを送ってもらう際は、編集技師の方に可能な限り画面にTCを焼き込んであるものをお願いすることも大切です。焼き込みがなくても作業そのものは何とか可能ですが、効率が全く違ってきます。
2つ目は、インポートした動画の上で右クリック(macの場合、control+クリック)をして、必ず動画のスタート位置のTCを設定すること。プロジェクトによって、1:00:00:00から始まったり、0:59:55:00から映像が始まったりとさまざま。とにもかくにも最初にやるべきことかと思います。
次に実際の作曲作業に入ります。まずは曲ごとのイン点を設定。チャンクのセレクト画面において、設定したい任意のチャンク上で右クリックをすると、チャンクのスタートタイムを入力することができます。
このやり方でシーケンスの頭のTCを設定してから各曲の作曲を行っていくわけですが、最終的に全曲のデモが出来上がった際、前回のアウトラインで少しだけお話した“オリジナルタイムスタンプへ移動”というコマンドが非常に役に立ちます。監督によっては、シーンごとに切り出されたものではなく、全編を通したデモをリクエストする方もいらっしゃるので、この機能は本当に有用です。曲ごとのチャンクとは別に、全体を1本化するためのシーケンスを作り、そこに音楽用のオーディオトラックを作成して全曲分のデモミックスを並べて上述のコマンドを実行すれば、ワンステップですべての楽曲が正しい位置に並びます。
当然本編のセリフとも合わせなければいけませんから、動画上で右クリックをして、“動画の音声をインポート”します。そうすると動画に含まれる音声もオーディオトラック化されるので、あとは音楽のトラックとのバランスをざっくりと取って、2つのトラックをまとめてハイライトし、ファイル→バウンストゥディスクから全体をQTファイルとして書き出せば、一本化されたデモの出来上がりです。
シンクポイントを基準に“チェンジテンポ”で柔軟なテンポの設定を
映像と音楽のタイミングを合わせたい点のことを、フィルムスコアリングでは“シンクポイント”と呼びます。次はそのシンクポイントに対して、曲のテンポをどのようにして演算していくかを見ていきましょう。はじめに、シンクポイントには必ずマーカーを打つのですが、そこで忘れてはならないのがマーカーをロックすることです。ロックをしないと、メジャータイムに対しての位置固定になってしまい、テンポが変わると実時間の絶対位置が変わってしまいます。
シンクポイントに対して音楽的にタイミングを合わせるアプローチは、シーンや曲想、テンポなどによってさまざま。最もシンプルなのは、当然テンポ一定のままタイミングを合わせていくやり方かと思います。これの演算は非常にシンプルで、曲の大まかな理想的テンポを決定してあらかじめコンダクタートラックに入力しておきます。そして先ほどマーカーを付けたシンクポイントの現状位置を確認。シンクポイントを小節頭に持ってきたいのか、その他の拍(表裏含めて)にしたいのかを音楽的に考え、コンダクタートラック上でテンポの始まりからシンクポイント付近までをハイライトにして、右クリックから“チェンジテンポ”のウィンドウを出します。
これで既に理想的テンポに近い状態でシンクポイントの位置関係が構築できました。ここから、例えばシンクポイントを小節頭に持ってきたい場合、現状で一番近い小節頭に数値を合わせ、チェンジテンポウィンドウのテンポ一定のグラフィックタブを選択した後、“オプション”をクリックし、テンポチェンジの終わりをマーカーのTCに合わせます。そうすると自動的にピタリとタイミングが合うテンポを割り出してくれます。タイミングを小節頭にしない場合も、演算方法は全く同じです。
このやり方を応用すれば、先ほどのようにテンポが一定でなくても、チェンジテンポウィンドウのグラフィックタブにあるような、さまざまなテンポの変化のアプローチを適用していくことが可能です。
また、フィルムスコアリングのテクニックとして、理想的なテンポで思うような拍のタイミングにシンクポイントが当たらない場合は、音楽的に自然なフィーリングを保ちつつ、途中で拍子を微妙に変化させる、というテクニックもあります。カット合わせなどの際には、シンクポイント手前でリタルダンドやフェルマータを駆使するアプローチもあります。この場合も先ほどまで見てきた例を応用すれば、簡単に作成可能です。
このようにして、必要なタイミングに音楽を当てるためのテンポを、複雑な操作なしで簡単に演算し割り出すことができます。これらのテクニックを応用し組み合わせれば、途中で微細なテンポ変化をさせて、聴いた印象は全く変化がないように、必要なシンクポイントをすべてヒットさせていくようなことも簡単にできるようになります。これは緻密(ちみつ)なシンクロを必要とする、フィルムスコアリングにおいては非常に強力な機能だと考えています。
次回は複数のシンクポイントに対するファインドテンポ機能と、アジャストビートについて解説していきたいと思います。では、今回はこの辺で。ありがとうございました。
小林洋平
【Profile】東京理科大学で宇宙物理学を学んだ後、奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学し首席で卒業。映画やドラマ、報道番組など数多くの作品を手掛ける。主な作品として、映画『52ヘルツのクジラたち』(成島出監督)、『マッチング』『異動辞令は音楽隊!』(内田英治監督)、『繕い裁つ人』(三島有紀子監督)、連続ドラマW『落日』、NHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』、NHK『国際報道』、NHKスペシャル『世界遺産 富士山』などがある。
【Recent work】
『映画「マッチング」オリジナル・サウンドトラック』
小林洋平
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▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:Intel Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)