さまざまなサウンドをエミュレートするLUNA Extensionsの魅力とは|解説:青木征洋

さまざまなサウンドをエミュレートするLUNA Extensionsの魅力とは|解説:青木征洋

 こんにちは。作曲家/ギタリスト/エンジニアの青木征洋です。UNIVERSAL AUDIO LUNAを紹介する本連載、第2回はLUNA Extensionsの解説をしたいと思います。

通すだけで魅力的な音になるLUNA Extensionsサミングミキサー

 “Extensions”を日本語にすると“拡張機能”で、そんなに大仰なものという印象は受けませんが、実際に使ってみるとこれだけでも(むしろこれこそが)LUNAを使う理由になると言っても過言ではありません。LUNAさえあれば録音やミックスという音楽制作のコア部分は制限なく行うことができますし、トラック数もマシンスペックが許す限り制限なく使うことができます。しかし、LUNA Extensionsを使えば最終的な仕上がりがより良いものになったり、そこに到達するまでのワークフローがスムーズになったりするのです。LUNA Extensionsにはサミングミキサー、テープレコーダー、チャンネルストリップの3種類があり、これらをインストールすることで、それぞれが持つ特有のサウンドをエミュレートできます。

 一つ注意しておきたいのが、無償版LUNAに含まれるLUNA ExtensionsはテープレコーダーのOxideのみであること。ですので、ユーザーは必要に応じて使いたいものを購入してそろえていくことになります。プレーンなラーメンに味玉やネギ、ノリをトッピングして自分好みにしていくような感覚です。あるいは、LUNA Pro BundleのようにあらかじめほとんどのLUNA Extensionsが収録されたお得なパッケージも存在しますので、そちらを選んでもよいでしょう(LUNA Pro Bundleについては追って詳しく紹介する予定です)。無償版LUNAにはLUNA Pro Bundleの30日間トライアルも用意されていますので、まずは試してみてください。

 それではLUNA Extensionsのサミングミキサーから見ていきましょう。

LUNAミキサー画面のチャンネルストリップにビルトインされたLUNA Extensionsのサミングミキサー(赤枠)。画面左がNeve Summingで、同右がAPI Summingです。Neve Summingは、1970年代にルパート・ニーヴ氏が設計したアナログコンソールNeve 80シリーズのサウンドを、API Summingは複数のAPIコンソールを基にしたサウンドをエミュレート。HRノブで入力レベルを調整しますが、音量は一定に保たれ、音色変化だけが得られる仕様となっています。音量調整したい場合は、TRIMノブを使用するとよいでしょう

LUNAミキサー画面のチャンネルストリップにビルトインされたLUNA Extensionsのサミングミキサー(赤枠)。画面左がNeve Summingで、同右がAPI Summingです。Neve Summingは、1970年代にルパート・ニーヴ氏が設計したアナログコンソールNeve 80シリーズのサウンドを、API Summingは複数のAPIコンソールを基にしたサウンドをエミュレート。HRノブで入力レベルを調整しますが、音量は一定に保たれ、音色変化だけが得られる仕様となっています。音量調整したい場合は、TRIMノブを使用するとよいでしょう

 ラインナップにはNeve SummingとAPI Summingがあり、インストールすることでミキサー画面上に、NeveまたはAPIのアナログミキサーが持つサミング効果をエミュレートします。アナログ環境でミキシングを行ったときの独特の質感や、混ざり具合の良さを簡単に得ることができるでしょう。ちなみにLUNA Pro BundleはAPI Summingを収録していますが、Neve Summingは収録していません。しかし無償版LUNAは、30日間トライアル版のNeve Summingを収録しているので使用することが可能です。

 サミングミキサーの設定は各トラックからルーティングされたバスで行います。オンにするとすぐに音が変わるのが実感できるはず。音量バランスは変わりませんが、音の面構え、表情が変わります。誤解を恐れずに言うと、それだけで“良い音”になります。アナログミキサーは、そのチャンネルにどれくらいレベルを突っ込むかで音色が変わりますが、LUNAのサミングミキサーではそれも簡単に再現できます。各サミングミキサー画面の中段にあるHRノブはヘッドルームを意味しており、右に回すとよりレベルを突っ込んだような音に、左に回すと色付けの少ない音に変わります。実際のアナログミキサーで同じことをしようとするとレベルも変わってしまうため判断が難しくなりますが、LUNAのサミングミキサーでは常にレベルマッチされているため、同じ音量のまま音色の変化だけを確認することができます。逆に、音量を変化させたい場合は右側のTRIMノブを回せばOKです。

 Neve Summingは2020年1月のLUNAお披露目時に発表されたトピックの一つ。リリースされたその日にすぐ試しましたが、本当に“そうそうこれこれ!”という音の変化が起きて感動したのを覚えています。実際に、私は2020年5月にリリースされた『カウボーイ・ビバップ』のエンディングテーマ「The Real Folk Blues」のチャリティカバーや、同年8月にリリースされた『僕のヒーローアカデミア』の「You Say Run」チャリティカバーにおいて、ミックス済みのステムをNeve Summingに通して仕上げています。ほかにも、LUNAでミックスした楽曲では基本的にNeve SummingかAPI Summingのいずれかをオンにしています。とはいえ、新しいDAWをワークフローの中に取り入れていくのはまた別の問題なので、それについては後の回で触れていければと思います。

サチュレーションや回転数を調整できるLUNA Extensionsテープレコーダー

 続いてはLUNA Extensionsのテープレコーダーです。

LUNAミキサー画面の各チャンネルストリップにビルトインされたLUNA Extensionsのテープレコーダー。Oxide(赤枠)とStuder A800(青枠)はチャンネルに使用し、ATR-102(黄枠)はマスターやバスに使用します

LUNAミキサー画面の各チャンネルストリップにビルトインされたLUNA Extensionsのテープレコーダー。Oxide(赤枠)とStuder A800(青枠)はチャンネルに使用し、ATR-102(黄枠)はマスターやバスに使用します

 各チャンネルやバスにおいて好みのものをチャンネルストリップ内にビルトインでき、ワンクリックですぐに呼び出すことが可能。プラグインウィンドウを開いて調整する煩雑さがないのは、いざ体験してみると思いのほか快適です。ちなみにLUNA Extensionsは、同社オーディオI/OのApolloシリーズやアクセラレーターのUAD-2 Satelliteに搭載のDSPではなく、コンピューターのCPUで動作してくれますし、特に重たいと感じることもありません。

 もちろんテープレコーダーの種類でも、その音色は大きく変わります。チャンネル用にはOxide(無償版LUNAに付属)とStuder A800があり、サチュレーションを調整可能です。

ビルトインされたLUNA Extensionsのテープレコーダーをクリックすると、そのパネル画面が現れます。上記画面の左側にあるのはOxideのパネル画面で、最下段には現在選択しているプリセット名が表示されます。上記画面の右側にあるのは、Studer A800のパネル画面。TAPEノブでテープの種類を、IPS(Inches Per Second)ノブでテープの移動速度を、CAL(Calibration)ノブでテープマシンのキャリブレーションレベルを設定することができます

ビルトインされたLUNA Extensionsのテープレコーダーをクリックすると、そのパネル画面が現れます。上記画面の左側にあるのはOxideのパネル画面で、最下段には現在選択しているプリセット名が表示されます。上記画面の右側にあるのは、Studer A800のパネル画面。TAPEノブでテープの種類を、IPS(Inches Per Second)ノブでテープの移動速度を、CAL(Calibration)ノブでテープマシンのキャリブレーションレベルを設定することができます

 Studer A800は回転数やキャリブレーションレベルまでいじることができるため、ここだけでかなりの調整幅があります。Oxideの方がローが盛り上がってハイもガリッとひずむ印象があるので、キックやスネアが物足りないけどコンプやEQでは思った感じにならない場合に一発で解決してくれることがあります。通すだけでレベルが持ち上がる点だけご注意ください。また、音が大きく変わるため必要なければ使わなくてもよいでしょう。

 バス用にはATR-102が用意されていて、これも大きく音が変わります。

マスター/バス用のLUNA Extensionsテープレコーダー、ATR-102。エミュレーション元となったAMPEX ATR-102は、1970年代から音楽スタジオで広く使用されている伝説的なマスタリングテープレコーダーです。LUNA ExtensionsのATR-102では、テープの種類、キャリブレーションレベル、テープヘッドの種類などを設定可能。さらに音のキャラクターを調整できるRECORDノブや、テープレコーダーの再生ヘッドからの出力レベルを調整できるREPRODUCEノブなど、数多くのパラメーターを搭載しています

マスター/バス用のLUNA Extensionsテープレコーダー、ATR-102。エミュレーション元となったAMPEX ATR-102は、1970年代から音楽スタジオで広く使用されている伝説的なマスタリングテープレコーダーです。LUNA ExtensionsのATR-102では、テープの種類、キャリブレーションレベル、テープヘッドの種類などを設定可能。さらに音のキャラクターを調整できるRECORDノブや、テープレコーダーの再生ヘッドからの出力レベルを調整できるREPRODUCEノブなど、数多くのパラメーターを搭載しています

 テープの種類、テープの幅、回転数が変えられ、いずれの設定でも本当に音が大きく変わるので、使うのであればミックスを始める段階から入れておいた方がよいように思います。あとは作っている音楽のジャンル、スタイルによって合う合わないがあるでしょう。トラックのテープレコーダー以上に、必要なければ使わなくてよいタイプのエフェクトだと思います。いずれのテープレコーダーもLUNA Pro Bundleに含まれているので、気に入ったという方は個別に買うよりもLUNA Pro Bundleの購入をお勧めします。

 LUNA Extensionsのチャンネルストリップの説明に移ろうとしたところでスペースが尽きてしまったので、今回はこの辺りで。次回はチャンネルストリップのほか、LUNA専用のソフト音源であるLUNA Instrumentsも解説します!

 

青木征洋

【Profile】作編曲家/ギタリスト/エンジニア。代表作に『ストリートファイターV』『ベヨネッタ3』『戦国BASARA3』などがある。自身が主宰し、アーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.では世界中から若手の超凄腕ギタリストを集め、『G5 2013』はオリコンアルバム・デイリーチャート8位にランクイン。またMARVEL初のオンライン・オーケストラコンサートではミキシングを務める。

【Recent work】

『salvia』
Nornis
(Altonic Records)

 

 

 

Universal Audio LUNA

Universal Audio LUNA

LINE UP
LUNA:無償|LUNA Pro Bundle:58,650円*|LUNA Creator Bundle:88,050円*|LUNA Analog Essentials Bundle:88,050円*|LUNA API Vision Console Emulation Bundle:102,750円*
*いずれもbeatcloud価格

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13以降、Intel Quad Core 17以上のプロセッサー、Thunderbolt1/2/3、16GB 以上のRAM、SSDのシステムディスク推奨、サンプルベースのLUNA Instruments用SSD(APFSフォーマット済みのもの)、iLokアカウント(iLok Cloudもしくは第2世代)以降のiLok USB Keyでライセンスを管理

製品情報

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