トラック・メイカー/プロデューサーのTOMOKO IDAです。こんにちは。日々の制作に使っているDAW=steinberg Cubaseに関する私の連載は、今月で最終回となります。今回はCubase全体を通して、制作におけるヒントやお薦め機能をランダムに紹介します。
レイテンシーは「MIDIレイテンシーモード」でも改善
DAWを使いはじめたころに出てくる基本的な悩みであるレイテンシー。キーボードを弾いたり、MIDIギターなどでデータを打ち込んでもらったりするとき、レイテンシーがひどいとセッションの空気も冷めてしまうものです。経験者の方にはお分かりいただけると思いますが、1人で制作するのではなく、ほかの方に演奏してもらう場合はなおさらです。
私は現在、Mac最後のINTELマシン、Core i9のAPPLE MacBook Proを使用していて、64GBのRAMを積んでいるのでコンピューターのスペック自体は申し分ないと思うものの、レイテンシーが発生してセッションが中断することが結構あります。なので、そろそろコンピューターを買い替えようかと思っていますが、私が今やっている設定で、皆さんにも確認してほしいものを紹介します。
どのDAWを使っている方でも、レイテンシーが発生したときの最初の基本チェックに“バッファー・サイズを小さくする”というのがあると思います。Cubaseでのやり方は、プロジェクト画面上部からスタジオ(Studio)> スタジオ設定(Studio Setup)にアクセスし、使用しているオーディオ・デバイスのドライバーをデバイス(Devices)リストにて選択します。それからコントロールパネル(Control Panel)をクリックして、バッファー・サイズを小さくします。バッファー・サイズを縮めるとCPU負荷が大きくなりますが、これはレイテンシー改善のトレードオフで、Cubaseに限った話ではなくほかのDAWでも同様です。
もう1つは、MIDI再生エンジンの応答性をコントロールする“MIDIレイテンシーモード”です。ほかのDAWも同様の機能を備えていることがありますが、Cubaseユーザーの中にも見落としている方がいらっしゃるかもしれません。MIDIレイテンシーモードの設定は環境設定のMIDIの項目にあり、初期設定は“標準”になっています。これを“低”に切り替えることによって、遅延が緩和されます。CPU負荷は大きくなるものの、バッファー・サイズを下げても変化が見られない場合は、この設定を変えると変化を感じることができると思います。
和音の耳コピが難しいときはコードトラック経由のMIDI変換
DAWによっては、オーディオやコードイベントをMIDIに変換する機能があるかと思いますが、Cubaseでも可能です。単音のオーディオを変換する場合は、オーディオをサンプルエディターで開き、“VariAudioを編集”の左側の三角形マークをクリック。するとピッチが解析されるので、解析後に“機能を選択”欄から“MIDIデータの抽出”を選ぶなどしてMIDI化します。
コードイベントのオーディオをMIDIに変換する機能もあり、Cubase 12から使用できるようになりました。何度か使ってみたところ、良いサンプル音源が見つかっても、なかなかコードを耳コピするのが難しいときに便利です。そして、時短にもつながります。
方法としては、以下のいずれかの操作を行います。すべてのコードイベントを MIDI変換するには、画面上部のメニューでプロジェクト (Project)>コードトラック(Chord Track)>コードをMIDIに変換(Chords to MIDI)を選択します。選択したコードイベントのみをMIDIに変換する際は、コードイベントを選択した後、MIDIトラックまたはインストゥルメントトラックにドラッグ&ドロップします。
私は、選択したコードのみをMIDIに変換することが多く、とても簡単なので手順を詳しく紹介します。まずは“MIDIに変換したい”というコードのサンプルをオーディオトラックに読み込み、その下にコードトラックを作成します。次に、オーディオトラック内のイベントをコードトラックにドラッグ&ドロップすればコードが解析され、コードトラックが生成されます。
このコードトラックの中からMIDIにしたいコードイベントを選択し、MIDIトラックまたはインストゥルメントトラックにドラッグ&ドロップするとMIDIデータになります。上掲のスクリーンショットで確認できる“Emin7”“F#min7”“Bmin”を全選択してドラッグ&ドロップすれば、そのすべてがMIDIイベントとなって現れます。
往年のアナログ感と現代性を両立 付属シンセRetrologue 2の魅力
Cubaseに付属しているインストゥルメントはよく使っていて、素晴らしい音がそろっているので、ご紹介します。私が特にお気に入りなのはRetrologue 2です。
バーチャル・アナログ・シンセサイザーのプラグインで、クラシックなアナログ・シンセのサウンドと現代的なデジタル技術の利点を組み合わせています。複数のタイプのオシレーター(3つのメイン・オシレーター、サブ、ノイズ)やフィルター・タイプ(ローパス、バンドパス、ハイパスなど)、4つのLFO、3つのエンベロープ・ジェネレーター、モジュレーション・マトリクスなどが用意されており、幅広い音作りが可能です。これによりシンセ音色を細かく調整することができます。
私好みの音が数多く入ってるので使用頻度が高く、昨年に自分の名義でリリースしたインスト楽曲「TOKYOITE」ではRetrologue 2の3種類の音を使用しています。アナログ感と現代的な先鋭感を兼ね備えたサウンドが非常に好みなので、気づいたら立ち上げていることが多いです。単体の製品としても、フルバージョンが14,098円で発売されており、Cubaseユーザーでなくても使用できるので、気になる方はぜひ試してみてください。
今回で私のCubase連載は最終回となりますが、制作のヒントや方法、お薦めのツールなどをお伝えしてきました。私流のアプローチも含め、制作の過程には正解がないので、この連載を参考にして自分流の方法で挑戦してみてください。また、Cubaseは長年使い続けていますが、常に進化しているので、その進展も楽しみにしてください。
TOMOKO IDA
【Profile】日米韓のトップ・アーティストに楽曲を提供しているトラック・メイカー/プロデューサー。Billboard Japanやオリコン・チャートで1位を獲得した作品が多数あり、2023年にはTainyのアルバム『DATA』の「obstáculo」を共同プロデュース。同アルバムは第66回グラミー賞ラテン部門の“最優秀アーバン・ミュージック・アルバム賞”にノミネートされ、日本人女性プロデューサーとして、初のグラミー賞ノミネート作品への参加を果たすこととなった。
【Recent work】
『TOKYOITE』
TOMOKO IDA
(TOMOKO IDA)
steinberg Retrologue 2を使用した表題曲を含む3曲を収録
steinberg Cubase
LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 12以降
▪Windows:Windows 10 Ver.22H2以降(64ビット)、11 Version 22H2以降
▪共通:INTEL Core i5以上またはAMDマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)