こんにちは。プロデューサー/DJ/トラック・メイカーのSam is Ohmです。僕が担当しているPRESONUS Studio One連載ラストの第4回になります。今回は、客演としてAile The Shota氏を迎えた楽曲「愛じゃないから」を題材にしながら、アレンジにおける音作りにフォーカスしてTipsやエフェクトの活用方法を紹介します。
MixtoolでM/Sモードに変換してからSplitterでサイド成分にアプローチ
Studio Oneのミキサー・チャンネルにインサートして使えるエフェクトにSplitterがあります。これはステレオの音声をL/Rに分割したり、周波数帯域別に分けたりと、まさに音自体をスプリットできるものです。このSplitterを使い、各トラックでM/S処理を行います。
M/S処理は現在、EQやコンプのM/Sモードで行うのが一般的かと思います。ただ、個人的にはEQやコンプでミッドとサイドの音量感を調整するのではなく、各成分の“倍音感”をコントロールしたいケースが多くあります。そのために、Studio One付属のユーティリティ・プラグインMixtool、同じく付属のBitcrusher、そしてSplitterを併用します。
まずはSplitterの手前にMixtoolをインサートし、MS Transformボタンをオンにします。
Splitterの後段には、別途Mixtoolを挿して、同様にMS Transformをオン。これで準備が整いました。
今回はサイド成分にBitcrusherをインサートし、Mixノブでエフェクトを11.5%だけ足しています。ソースは、楽曲の平歌部分におけるシンセ・ブラス。このシンセ・ブラスは音源内のエフェクトでステレオ感を強めているため、サイド成分へのビット・クラッシュでステレオ感に若干の濁りが加わり、ミッドとの分離感が強まりつつもナチュラルなサウンドとなりました。
この曲では、Bitcrusherをサイド成分に少しだけ足したときのひずみ感がちょうど良かったのですが、お好みのディストーションやクリッパーをミッドやサイドに使うことで、EQやコンプで行うM/S処理では得られないサウンドを作り出すことができます。マスターに対してM/S処理を行うのもアリですけど、個人的には各音に対してM/Sのバランスを取る方が全体を俯瞰しながら音場を決定でき、空間を効果的に使えるのでお勧めです。
そのほか、ミッドだけにStudio One付属のRedLight Distortionを使いハードな音を作った上で、サイドをミュートして新たな音をイチから作ったりと、M/S処理自体をサウンド・クリエイティブに生かすような発想もお勧めです。
Pro EQ3とひずみ系エフェクトで中低〜中域をパラレル・ディストーション
シンセやキーボードなどのハードウェアとパソコン上のソフト音源では、どうしても音の厚さや音像感が違ってきます。ソフト音源にプリアンプ・モデリングのプラグインを挿していくのも手段としてありますが、音そのものを厚くする倍音感が欲しいとき、楽器が鳴った瞬間のアタックのひずみやノイズ感が重要であると考えています。
そこで、FXチャンネルにStudio OneのPro EQ3→サード・パーティ製のひずみ系エフェクトというチェインを組み、ソフト音源にセンド&リターンでかけてみます。センド量は最大。
Pro EQ3は200Hz〜2kHz辺りに絞り、この帯域のアタックだけにひずみが加わるようにしています。発想としては、パラレル・コンプレッションならぬパラレル・ディストーションですね。
DAW完結のデジタルな環境では、各チャンネルにエフェクトをインサートしていくだけだとアナログ感を演出するためのアタック感に絞った音作りや、厚みのあるサウンドを作り出す処理はなかなか難しいと感じています。ですのでセンド・エフェクトを併用し、そこへ送る音量を大きめにすることで、エフェクト自体の特性を強く出して音作りしています。パラレル・ディストーションだけでなく、リバーブやディレイもセンド量で表情が変わるため、チャンネル・フェーダーと組み合わせて音作りするのもお勧めです。
X-TremでパンをモジュレートしつつRotorでインパクトを与える
ステレオ・イメージを演出するため、パンのオートメーションを書いたり、イメージャーをかけたりするのは常とう手段かと思います。ここでは、Studio One付属のモジュレーション系エフェクトX-Trem、ロータリー・スピーカー・シミュレーターRotorを併用した音作りを紹介。これによりステレオ音像を調整できます。
まずは、パンを動かしたいトラックにX-Tremをインサート。今回は楽曲全体で鳴っているエレピに挿しています。
X-TremではModeをPanにして、LFOでパンを動かす(モジュレートする)設定に。LFOのスピードはテンポ・シンク・モードで1/2(2分音符)にセットし、かかり具合は4%にして、かなり薄っすらとパンが動くようにしています。
エレピには、音源側で既にトレモロを強くかけていました。そのトレモロはテンポに同期しておらず、実機のエフェクトでかけたような“揺れ”を伴います。そこに対して、テンポにバッチリ同期したパンの動きを加えることで、ハイブリッドな演出をしています。なお、X-TremのModeにはTermという選択肢もあり、指定したタイミングで音量に起伏をつけることが可能。ダッキングのような効果も与えられるため、とりあえず音に変化を加えたい場合に挿してみると便利です。
RotorはFXチャンネルに立ち上げ、プリセットの“Stereotype”を使用。
センド量とチャンネル・フェーダーを調整すれば、さまざまな方向に鳴りわたるようなエレピ・サウンドを作ることができインパクトを生み出せます。Rotorもまた、音量を突っ込み気味にするとひずみ感が生まれ、単純にパンニング効果だけでなく、耳に残る印象を与えられるので、音作りの中で一度は試すことが多いです。
以上4回に渡ってStudio OneのTipsや活用方法を見てきました。僕の方法が必ずしも正しいということはないので、今後とも皆様と情報共有できたら幸いです。Studio Oneを使っている皆さん、購入を検討している方々、音楽を愛している人たちと一緒に音楽ライフを過ごしていければと思ってます。貴重な機会をいただきありがとうございました。
Sam is Ohm
【Profile】独自のヒップホップで知られるプロデューサー/DJ/トラック・メイカー。ZEN-LA-ROCKのバックDJとして、TV番組『フリースタイルダンジョン』に出演。現在は人気シンガーKick a Show、シンガー・ソングライターMALIYAなどのプロデュースを務めるほか、倖田來未やKEN THE 390らのリミキサーとしても知られる。
PRESONUS Studio One
LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要