テリー・ライリーの作曲公開講座をレポート!〜国立音楽大学 講堂大ホール

テリー・ライリーの作曲公開講座をレポート!〜国立音楽大学 講堂大ホール

7月20日、東京都立川市にある国立音楽大学にて開催された『テリー・ライリー 作曲公開講座』は、ライリーの代表作「in C」を同校の学生が演奏し、それに対してライリーが助言を行うという公開型ワークショップ。多数の観覧応募のため、会場を講堂大ホールに変更したという話からも、注目度の高さが伺える。「in C」を演奏する上で必要なこととは何なのだろうか。講座の模様をレポートしていく。

楽譜ではなく周りを見て演奏する

 今回題材となった楽曲「in C」はライリーが1964年に作曲し、1968年に音源としてリリースされた作品。拍数や長さがバラバラな53のフレーズの断片(モジュール)を、各奏者が任意の回数を繰り返しながら演奏していく、ミニマル・ミュージックの元祖とも言われる楽曲だ。演奏者は、ピアノ、フルート、クラリネット、トランペット、マリンバ、ギターなどに加え、箏やシンセといったパートからなる12名の学生たち。まずは30分弱の演奏をライリーが指揮者の位置で聴く形で行われ、演奏後にライリーが感想を述べた。

 「この曲は60年前に、友人の音楽家のコミュニティのために書きました。皆さんの演奏からもコミュニティ、つまり“まとまり”が感じられ、とても楽しかったです。構成もよくできていて、1ページの楽譜を皆さん一生懸命練習されたんだと思います。でも、楽譜を見つめるのではなく、お互いを、周りを見て演奏しましょう。音楽は紙から生まれるものではありませんからね。楽譜から目を離せるようになると、お互いの音がもっと聴こえるようになるのです」

 「周りがどんな音を出しているかを聴くことで、自分が今何をやるべきかを判断できるようになります。それぞれのモジュールも独立しているわけではないので、絡み合って一つのうねりのようなものを作れるようになるといいですね」とも語るライリー。それから実技指導がスタートした。

 最初は、複数人でドの音を持続するドローンのような演奏。管楽器の3人による緊張感を持った演奏の後、ライリーは「3人だけで演奏したときに、すごく注意深くお互いの音を聴いていましたよね。「in C」を演奏するときにも同じ態度で、集中して聴けるようになりましょう」と語った。その後、「in C」の各モジュールを題材に、クレッシェンド/デクレッシェンドによる盛り上がり、スウィングするようなグルーブ、フレーズをオーバーラップして演奏する際の拍感、次の音へ向かう装飾音など、演奏する上で意識する点を、時にライリー自身がフレーズを歌いながら約30分の直接指導が行われた。

ステージ上の楽器配置は、学生たちで話し合って決めたとのこと。シンセやギターなどの一部の楽器以外はPAを使用せず、ホールの響きを利用している

ステージ上の楽器配置は、学生たちで話し合って決めたとのこと。シンセやギターなどの一部の楽器以外はPAを使用せず、ホールの響きを利用している

シンセKORG ARP 2600 Mと、MIDIキーボードのA-49。トイピアノのマイキングにはAKG C314が使われていた

シンセKORG ARP 2600 Mと、MIDIキーボードのA-49。トイピアノのマイキングにはAKG C314が使われていた

音楽ができるという特権

 休憩を挟み、ライリーから学生たちに、“覚えておいてほしいこと”として次の3つが語られた。

 「1つ目は、楽譜だけを見ない。2つ目は、お互いを見て笑顔で。3つ目は、ロボットにならない。繰り返しにこだわりすぎると、四角四面で機械的になりすぎてしまう。もう少しグルーブや自由さを感じながら、幸せな気持ちで演奏を楽しんでほしいです」

 そして、先ほどまでライリーが指導していたモジュールを中心とする、「in C」の15分ほどの演奏が行われると、会場から割れんばかりの拍手が。ライリーも「すごいです。最高!終わり方が今まで聴いたどれよりも美しく、とても繊細でした。ありがとうございました」と感想を述べるなど、その演奏は明らかに生き生きとしたものに変わっていた。

 その後、演奏した学生との質疑応答が行われた。ある学生からの、「今回はかなり綿密に打ち合わせをして演奏しました。でも、もしかしたら打ち合わせをせずに取り組む方がいいのかもしれないと感じています。どのように演奏してもらいたいと考えていますか?」という質問にライリーは「とても良い質問です」として、こう答えた。

 「プランだけでも、自由だけでもダメ。組み合わせが重要で、両方があって良い音楽は生まれます。“明日はこうしよう”と思っていても、明日になったら違う感情になっているかもしれない。そこに自分の身を任せることも大事なのです」

 その一つ一つの言葉の重みと効果を感じ取れた今回の公開講座は、とても貴重な機会だったと言えるだろう。最後に、ライリーが学生たちに向けて語った言葉を紹介する。

 「音楽ができるということは皆さんの特権で、どんな音楽でも、自分がその特権を持っていることに誇りを持って演奏してください。音楽の道を選んだ皆さんにおめでとうと言いたい。音楽は何にも代えがたく、一生楽しむことができると思います。またいつか一緒にできるといいですね」

学生の質問に答えるライリー。写真左は通訳を務めた国立音楽大学教授の早稲田みな子氏、その右は司会を務めた国立音楽大学准教授の川島素晴氏

学生の質問に答えるライリー。写真左は通訳を務めた国立音楽大学教授の早稲田みな子氏、その右は司会を務めた国立音楽大学准教授の川島素晴氏

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