アレンジ〜ミックスで重宝するStudio Oneのシンプルな機能&プラグイン|解説:眞塩楓

アレンジ〜ミックスで重宝するStudio Oneのシンプルな機能&プラグイン|解説:眞塩楓

 こんにちは、作編曲家の眞塩楓です。第1回に続いて、ときのそらさんに提供した楽曲「エレクトリカル・サーフィン」をテーマに、PRESONUS Studio One (以下S1)の魅力をお話します! S1最高〜!

トラック/チャンネルの設定をプラグイン込みで保存/呼び出しできる機能

 前回はソングの立ち上げ〜作曲で活躍する機能をご紹介したので、今回は編曲に入ります。作曲段階で想像していたサウンドを形にしながら世界観を作り上げていくこの過程で、いつも使っている音源を設定済みのパラメーター含めワンクリックで呼び出せたら夢のようですよね。

 なんとS1のバージョン6では、“トラックプリセット”という素敵な機能が追加されました! オーディオ/インストゥルメント・トラックとチャンネルの各種パラメーターをプラグインの設定込みで保存/呼び出しできる機能で、既に作成したチャンネルに対して保存済みのチャンネル設定を適用することも可能です。

 「エレクトリカル・サーフィン」の制作時期には実装されていなかったので、今回、生ドラム音源のトラックプリセットを作ってみました。

トラックプリセットの呼び出し画面。選択中の“Drum”が、今回新しく作成した生ドラム音源用のトラックプリセットです

トラックプリセットの呼び出し画面。選択中の“Drum”が、今回新しく作成した生ドラム音源用のトラックプリセットです

生ドラム音源用のトラックプリセットを呼び出したところ。音源からパラアウトされた各ドラム・パーツが個別のミキサー・チャンネルに立ち上がり、各チャンネルに挿したプラグイン・エフェクトやそれらの設定まで再現することができます

生ドラム音源用のトラックプリセットを呼び出したところ。音源からパラアウトされた各ドラム・パーツが個別のミキサー・チャンネルに立ち上がり、各チャンネルに挿したプラグイン・エフェクトやそれらの設定まで再現することができます

 私は生ドラムを打ち込む際、皮物と金物で別の音源を使用する上、S1のミキサーに各打楽器をパラで出力してバスでまとめるという設定を毎回行っていたので、打ち込みの準備にかなりの時間を使っていました。なので、このトラックプリセットで音源やチャンネルの設定、フェーダーやパン、インサート・エフェクトなどをまとめて呼び出せた瞬間とても感動して、S1を使っていて良かった~!と、あらためて感じました。

 プリセット作成は、トラックの右クリック・メニューから“トラックプリセットを保存...”を選んで、名前や説明を記載の上、保存先のフォルダーを選択するだけです。

トラックプリセットの保存画面。プリセット名や説明の書き込み欄、保存先フォルダーの選択欄があります

トラックプリセットの保存画面。プリセット名や説明の書き込み欄、保存先フォルダーの選択欄があります

 保存先のフォルダーはデフォルトで3つ用意されており、自分で新規フォルダーを作ることも可能なので、奇麗に仕分けられます。呼び出しも簡単で、トラックの右クリック・メニューから“トラックプリセットをロード...”を選んで使用するプリセットを選択すれば完了。この機能を使用すれば、編曲作業に取り掛かるまでの準備を大幅に時短できるので、今後かなりお世話になりそうです!

LFOで音量やパンを動かせるモジュレーション系エフェクトX-Trem

 さて、制作もいよいよ大詰め。音作り/ミックスの段階に入ります。S1標準搭載のプラグイン・エフェクトも活躍するので、特に大好きな2つをご紹介します!

 まずはX-Trem。音量やパンに時間的変化を加えるモジュレーション系エフェクトで、私が日頃、一番お世話になっている純正エフェクトです。Trem(トレモロ)とPan(オート・パン)の2種類のモードがあり、左下からLFOのタイプを選んだ後、Depthノブでかかり具合を、LFO Speedノブで変化の速度(=周期)を設定します。このとき“Sync”をオンにすれば、ソングのBPMに合わせた変化を与えられます。

インサートするだけでLFOによる音量/パンへのモジュレーションがかけられるお手軽なエフェクト、X-Trem。筆者お気に入りのLFOタイプは、画面に出ているステップ・シーケンサー状のものです。LFO Speed(LFOの周期)を1Bar(1小節)にすれば、16分音符刻みでL/Rを飛び回るオート・パン効果を生み出すことができます

インサートするだけでLFOによる音量/パンへのモジュレーションがかけられるお手軽なエフェクト、X-Trem。筆者お気に入りのLFOタイプは、画面に出ているステップ・シーケンサー状のものです。LFO Speed(LFOの周期)を1Bar(1小節)にすれば、16分音符刻みでL/Rを飛び回るオート・パン効果を生み出すことができます

 X-Tremの魅力は、なんと言ってもそのシンプルさ、見やすさ、効きの良さです! DTM初心者で、LFOの概念もあやふやだった頃に初めて出会ったエフェクトですが、常にソングと同期してLFO波形の位置を表示してくれるので、視覚的にとても分かりやすく、かかり方もがっつりしていて心地良いため、数多くの楽曲に使ってきました。

 「エレクトリカル・サーフィン」は、せわしないわちゃわちゃ感や電子世界感を大切にしつつ編曲していたので、当然のごとくX-Tremを多用しています! 使い方は、主にシンセ・アルペジオにオート・パン・モードでインサート。お気に入りのLFOは右から2番目のステップ・シーケンサー状のもので、LFO Speedを1Bar(1小節)にすると16分音符のリズムでL/Rを飛び回るオート・パンが完成します! 画面上部がLch側、下部がRch側を意味し、パンの振り具合を各ステップで指定できるため、再生しながら曲に合った動きに調節します。これによって、中央でうようよ漂っていたシンセ・アルペジオ君が命を得たように飛び回り、お祭り感を演出できました! ほかにもボンゴやドラム・フィルのサンプルなどさまざまなトラックに使用していて、楽曲を印象付けるエフェクトとして大活躍してくれました。

ローファイ化はBitcrusherにお任せ!特定のイベントにエフェクトを挿せる“イベントFX”

 続いてご紹介するのはBitcrusherです。その名の通り、ビットを落としてローファイ・サウンドを作れるエフェクトです。2022年5月号のこのコーナーで紹介されていたのを機に使いはじめました。さまざまな使い方を模索できる存在ですが、「エレクトリカル・サーフィン」では攻めた加工ができる飛び道具として重宝しています。

ひずみ系プラグインのBitcrusher。激しく加工すると音量がめちゃくちゃになりそうですが、画面右のGlobalセクションで“Auto”をオンにすれば、Gainが自動的に調整されるので安心です。音作りのキモは、ほかのトラックとの相性を確かめながら画面左のDownsampleを調整すること。世の中にはさまざまなビット・クラッシャー系プラグインがありますが、このBitcrusherはガッツリかかりながらもステレオ感や存在感を損ねず、欲しい要素をしっかりと出してくれるところがとても好きです。そして何よりシンプルで見やすい!

ひずみ系プラグインのBitcrusher。激しく加工すると音量がめちゃくちゃになりそうですが、画面右のGlobalセクションで“Auto”をオンにすれば、Gainが自動的に調整されるので安心です。音作りのキモは、ほかのトラックとの相性を確かめながら画面左のDownsampleを調整すること。世の中にはさまざまなビット・クラッシャー系プラグインがありますが、このBitcrusherはガッツリかかりながらもステレオ感や存在感を損ねず、欲しい要素をしっかりと出してくれるところがとても好きです。そして何よりシンプルで見やすい!

 使いどころは2番目のAメロの冒頭。クリアなデジタル・シンバルを激しく加工して、チップチューン・サウンドにしています。電子世界での狂喜乱舞を演出するため、容赦なくエフェクトをかけていきます! まずは、シンバルのオーディオ・イベントにAlt+ドラッグ&ドロップ(Windows)/option+ドラッグ&ドロップ(Mac)でインサート。これは“イベントFX”という機能で、特定のイベントにエフェクトをインサートできるため、トラック内の音から狙いの一発のみにかけることが可能。トラック複製のような手間をかけずに、攻めた処理を気軽に試すことができます。インサートしたエフェクトは、インスペクターのイベントFXから調整が可能です。

ブラウザー(黄枠)からエフェクトを選択し、特定のオーディオ・イベントにAlt+ドラッグ&ドロップ(Windows)/option+ドラッグ&ドロップ(Mac)すると(赤枠)、そのイベントへピンポイントにエフェクトをかけることができます。同じトラック内のほかのイベントには影響しないので、“この音一発だけを加工したい”という場合に便利

ブラウザー(黄枠)からエフェクトを選択し、特定のオーディオ・イベントにAlt+ドラッグ&ドロップ(Windows)/option+ドラッグ&ドロップ(Mac)すると(赤枠)、そのイベントへピンポイントにエフェクトをかけることができます。同じトラック内のほかのイベントには影響しないので、“この音一発だけを加工したい”という場合に便利

特定のイベントに挿したエフェクトは、インスペクターの“イベントFX”欄から開いて調整することができます

特定のイベントに挿したエフェクトは、インスペクターの“イベントFX”欄から開いて調整することができます

 エフェクトの設定に移りましょう! まず、左のWreckは音を破壊するセクションです。ビット・レートを調整するBit Depthとサンプリング・レートを下げるDownsampleの2種類がありますが、「エレクトリカル・サーフィン」ではよりデジタル的で荒い加工ができるDownsampleを活用しています。

 中央のColorは音の色付けをするセクションです。露骨なひずみを出すOverdriveと一定以上の音量をクリップさせるClipの2種類があり、がっつり破壊したかったので、どちらもマックスまで振り切りました!

 こうして「エレクトリカル・サーフィン」が無事完成! 前半2回は主に時短テクニックやエフェクトをメインに作曲〜ミックスをたどってきましたが、次回以降はまた別の楽曲をテーマに、切り口を変えてS1の活用術を紹介していきます。

 

眞塩楓

【Profile】2000年生まれ。小学生の頃に両親と行ったライブや演奏会をきっかけに音楽作家の道を志す。高校では芸術家音楽専攻へ進み、クラシックの楽器や音楽理論を中心に学ぶ。作家デビューしてすぐに、その才能が開花。現在は指名で多数の制作を獲得する、期待の若手新進気鋭のクリエイターとして活躍する。近年のワークスは、さくらしめじ「ブルースター」(編曲)、avex ROYALBRATS「Foppery(feat. Kaede Mashio)」(作曲/編曲)、ときのそら「エレクトリカル・サーフィン」(作詞/作曲/編曲)など。

【Recent work】

『Sign』
ときのそら
(ビクター)

 

PRESONUS Studio One

Studio One 6

LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要

製品情報

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