スキマスイッチ × 甲斐俊郎/米山雄大 〜今月の360 Reality Audio【Vol.10】

スキマスイッチ × 甲斐俊郎/米山雄大 〜今月の360 Reality Audio【Vol.10】

360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)は、ソニーの“オブジェクトベースの360立体音響技術を用いた全方位から音に包み込まれるような”音楽体験。今回は、50人編成のフル・オーケストラで収録された「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」をピックアップ。スキマスイッチの大橋卓弥(写真左)、常田真太郎(同右)、エンジニアの甲斐俊郎氏、米山雄大氏を迎え、360 Reality Audio前提で行われたレコーディングからミックスまでのプロセスを尋ねた。

Photo:Hiroki Obara 取材協力:ソニー

【サンレコ読者限定】スキマスイッチ 360 Reality Audio試聴会へご招待! 詳細はこのページの最後をご覧ください。*募集は締め切りました。

今月の360 Reality Audio:スキマスイッチ「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」

スキマスイッチ「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」

 20周年記念のベスト・アルバム収録用に制作された「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」。大橋卓弥、常田真太郎を含む50人編成のフル・オーケストラで収録/リアレンジされ、甲斐俊郎、米山雄大によって360 Reality Audioミックスが行われた。6月に、サンレコ読者&ファンクラブ会員限定でレコーディング時のライブ映像を含む360 Reality Audio試聴会が開催。現在、試聴できる環境はそのチャンスのみとなっている。試聴会応募方法はこのページの最後で

一般的なイヤホン/ヘッドホンで聴けるのが手軽

 7月5日発売の20周年記念ベスト・アルバム『POPMAN’S WORLD -Second-』の企画の一つとして「ボクノート」(2006年)をフル・オーケストラで再録した「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」。そのレコーディングは360 Reality Audio制作を前提にして行われた。

 大橋卓弥、常田真太郎ともに、これが初めての360 Reality Audioだ。大橋は360 Reality Audioのミックス確認を振り返り「最初に音が出た瞬間の空間の広がりに驚きました。ヘッドホンやイヤホンで聴く人がステレオと違う楽しみ方ができればいいなと考えていました」と話す。

 聴取環境については常田も「一般的なイヤホン/ヘッドホンで聴けるのがすごく手軽だなと思います」と好印象だ。

 続けて常田から語られたのは「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の音場設定について。

 「360 Reality Audioでのリスナーの位置をどこにするか相談して、オーケストラの中心に入るような音響が面白いんじゃないかな?となりました。自分も中でピアノを演奏していますが、オーケストラの真ん中で聴いたことはないので、その臨場感がいい意味ですごく非現実的な感じがしましたね」

 さらにレコーディング風景は映像でも収録。大橋は、映像付きで360 Reality Audioを聴くことについて「目で見て状況が想像できると、よりオーケストラの中にいる感覚が理解しやすいですし、“ここにヴァイオリンがいる”というところからヴァイオリンが聴こえると音を速く判断できます。“何が起こっているか分からないけどすごい”というのとは楽曲の伝わり方が違うんじゃないかなと感じます」と話した。

スキマスイッチ 大橋卓弥

スキマスイッチ 常田真太郎

ステージ中央の想定なので後ろに実音を配置

 今回録音から360 Reality Audioミックスまでを手掛けたのは、甲斐俊郎氏と米山雄大氏。甲斐氏はこう振り返る。

 「録音段階からイマーシブを狙うのは初めてでしたが、レコーディングには米山君と古賀健一君も来てくれて、機材を一部お借りしたりアドバイスをもらったりしながらやっていきました。マイキングは、シンタさん(常田)と卓弥さんから事前に伺ったイメージと実際の配置、良好なカブリなどを考慮して行いました」

 レコーディング後の工程についても続けて聞いてみよう。

 「2ミックスを先にフィックスさせて、基本の音色やシンタさんと卓弥さんの意向が反映された状態のステムをオブジェクトとして配置しました。基本的には実際のオーケストラ通りの配置です。客席で聴く想定だと実音は全部前に置きますが、ステージ中央の想定なので後ろに実音を配置しているパートもたくさんあります。オブジェクトはほとんど動かしていません。動かさなくても十分に空間と音の出し引きがあるアレンジなので位置関係がよく見えるんです」

 数多くの360 Reality Audioを制作してきたソニー・ミュージックスタジオの米山氏が、今回の空間作りを解説する。

 「360 Reality Audioではオンマイクで空間を作ってからオフマイクを置きました。アンビエンスの兼ね合いもあり会場では右後ろにいたブラスを左後ろに配置しましたが、オンマイクがきっちり録れていたので空間表現はうまくいきました」

Engineer 甲斐俊郎/米山雄大

Engineer 甲斐俊郎/米山雄大

【左:甲斐俊郎】ソニー・ミュージックスタジオにてキャリアをスタート。アウトボードやコンソールなどのアナログ機器と最先端のデジタル機器の両方の長所を駆使したミキシングスタイルが信条。これまでに、いきものがかり、スキマスイッチ、古内東子、YUKI、中島美嘉、Moumoon、川崎鷹也、菅田将暉などの諸作で確かな手腕を発揮している。

【右:米山雄大】ON AIR麻布スタジオを経てソニー・ミュージックスタジオへ。Keiko Lee、TOKU、POLYSICS、NICO Touches the Walls、加藤ミリヤなどの作品に携わるほか、CMや劇伴の収録もこなす。

南半球を意識的に使い全球で鳴るようにした

 360 Reality Audioで個々の楽器を聴かせる工夫を尋ねると、米山氏は「ソニーの渡辺忠敏さんにもアドバイスをもらいながら、南半球(全天球音場の下半球)を意識的に使い、全球で鳴るようにしました。スピーカーで聴くと本当にいろいろなところから音が聴こえると思います」と答える。

 常田は、音の聴こえ方に正解があるわけではないので、全員で試行錯誤した様子をこう語る。

 「オブジェクトの配置を工夫して音を出さないスピーカーを設定したり、縦と横のラインを使ってセンターからどのくらいボーカルを出すかなども相談しました。面白かったのが、正面のL/C/Rのスピーカーで“センターを切ってL/Rだけ出す”場合も、“L/Rを切ってセンターだけ出す”場合も、同じく音は真ん中から聴こえますけど、聴こえ方が違うんです。それを甲斐さんと米山さんが試して僕らも判断しました」

 今回の編成ではオーケストラとバンドが共演。低域の迫力も魅力の一つだろう。常田はアレンジの工夫をこう語る。

 「バンドは去年ツアーを56本一緒に回ったメンバーで、演奏するフレーズなどはなるべく普段やっていることをやってほしいと話しました。ベースがいるアレンジなので、コントラバスの使い方は普通のフルオケと全然違います。コンバスをフレージングするとベースと当たってしまうので、なるべく長い音で音域も少し高めにして配置しました」

 その豊かな低域と大きく関連してくるのがボーカルの存在感を出すことだったと甲斐氏。

 「ベースもコンバスも入った編成のオケだと、2chでは低域がマスキングされがちなのですが、360 Reality Audioでは立体的に分離良く聴こえます。そこに意識を持っていかれないようにボーカルの存在感を出そうとしました」

360 Reality Audio ミックス・テクニック

「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の360 WalkMix Creator™画面。リスナーがステージ中央で奏者に囲まれているような感覚で聴けるように配置を設定している。左が全天球の後方、右が上方から見た図で、全部で76個のオブジェクト(音色)が配置されている。ハープやモノシンセは動きを付けたものの、基本的には動きを付けずとも位置関係がよく見えると甲斐氏は言う

「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の360 WalkMix Creator™画面。リスナーがステージ中央で奏者に囲まれているような感覚で聴けるように配置を設定している。左が全天球の後方、右が上方から見た図で、全部で76個のオブジェクト(音色)が配置されている。ハープやモノシンセは動きを付けたものの、基本的には動きを付けずとも位置関係がよく見えると甲斐氏は言う

Point 1:オブジェクト8個でボーカルを配置

Point 1:オブジェクト8個でボーカルを配置

 赤い球がボーカルの実音、水色がボーカル・リバーブのオブジェクト。米山氏のアドバイスによりメインのLRに加え前方の上下にもオブジェクトを配置。大橋の要望もあり、リスナーの真正面には配置せず、上下左右のオブジェクトでファンタム・センターを構築した。球体の左右両端に見えるのは左右後方(Ls/Rs)へ配置したオブジェクトで、これは、ボーカルが前だけにいる感覚を少し薄れさせる狙いだという。

Point 2:音高によるオブジェクト配置の違い

Point 2:音高によるオブジェクト配置の違い

 全天球の前方にストリングス、右後方にブラス、左後方に木管のオブジェクトを違和感がないように配置。北半球に置くと高域成分がよく出てきて、南半球に配置すると低域が効果的に聴こえるため、ストリングスのオブジェクトは、1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの音域順に斜め上から下へかけて配置した。さらに下方には、コントラバスを置き、立体的に表現したという。

やっぱりいびつにした方がいいんじゃないの?

 ボーカルを聴きやすくするコツを甲斐氏はこう話す。

 「ヘッドホン/イヤホンでもスピーカーでも距離をしっかり感じられるのが360 Reality Audioの特徴ですが、ステレオの歌の近さに慣れていると距離は遠さを感じさせる要素にもなるので、ボーカルも楽器もリミッターを強めにかけました」

 米山氏は「ボーカルのオブジェクトは縦と横に広げて配置することで面を作りだして大きさを出しました。後ろからも鳴るようにしています」とその工夫を教えてくれた。

 大橋は「ボーカルは近くにいてほしいけど、近すぎるとうっとうしいので、ちょうど良い場所を探すのが難しかったのですが、甲斐さんや米山さんにイメージを伝えて調整してもらいました。結果的にはボーカルの音量を上げつつ、真正面のスピーカーを鳴らさないことで良くなりました」と話す。

 加えて、大橋の一言から状況は好転したと常田は言う。

 「360 Reality Audioは、奇麗に整頓しすぎると落ち着いてしまって臨場感が薄れてしまうんです。卓弥が途中で“これ、やっぱりいびつにした方がいいんじゃないの?”って言ったところからいろいろなものをフィーチャーしだして、その影響でベースとボーカルがガラッと変わりました」

音楽がもっと体全体で楽しめたら面白い

 今後の360 Reality Audioにおける表現の可能性について尋ねると、大橋はこう期待を膨らませた。

 「僕らは自分の作品が聴かれる瞬間に立ち会えないので、作ったものを忠実に届けられているか実感しづらいんです。でも360 Reality Audioで個人の耳に最適化した音を聴けるようになれば可能性が広がると思います。“そこに音がある”と感じるようなリアリティがどんどん進化していって、音楽がもっと体全体で楽しめたら面白いでしょうね。その臨場感がすぐそこに来ているので、新しい音楽の作り方として使える要素になるんじゃないかなと思います」と期待する。

 常田は“VRと360 Reality Audioの融合”を切望。

 「VRとの融合を待ちたいです。今回ステージの中にいる感覚で作ってもらったように、VRゴーグルを付けて360度カメラで撮影した映像と360 Reality Audioの音を完全にリンクさせることも、そのうちできたらいいなと思います。360 Reality Audioで映画を楽しめたり、ライブ映像をまた別の作品として成立させたりできたら面白そうですよね」

 最後は全員に、360 Reality Audio「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の聴きどころを尋ねた。

 甲斐氏は「すべての演奏が書き起こせそうなくらい音が聴こえると思うので、ディテールを聴いていただけるとうれしいです」、米山氏は「上からも下からも前からも後ろからもすごく音が鳴っているので、音に包まれる感覚を味わってもらえたらと思います」とそれぞれの注目ポイントを教えてくれた。

 続けて大橋は360 Reality Audioを“体験”として勧める。

 「体全体で迫力を感じてもらって、細かいことが分からなくてもすごい空間の中にいることを感じてもらいたいです。もし自分がステージの中に入れたとしたらこんなふうに聴こえるのかな?とか想像しながら“聴く”というより“体験”してもらえたらいいですね」

 常田は6月の試聴会への来場者へ向けたメッセージでこう締めくくった。

 「映画館で5.1chなどを聴いたことがある人もいると思いますが、“サラウンドを聴くぞ”というつもりで聴くことを楽しんでいただきたいです。ここ数年で一気に広がった音楽のリスニング体験の中でも360 Reality Audioは最先端のテクノロジーなので、最先端に触れる感覚と喜びを味わってもらって、それを人に伝えてほしいですね」

サンレコ読者を「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」試聴会にご招待!

 「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の360 Reality Audio音源を、4K画質のスタジオ・ライブ映像とともに13台のスピーカー環境で体験できる試聴会の開催が決定。スキマスイッチのファンクラブ“DELUXE”会員限定のプレミア・イベントのところ、今回は特別にサウンド&レコーディング・マガジン読者枠を設定いただきました! 皆様ふるってご応募ください!

『スキマスイッチ「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」 in 原宿 powered by 360 Reality Audio』 開催概要

  • 会場:LIFORK 原宿(東京都渋谷区神宮前1丁目14-32 WITH HARAJUKU 3F)
  • 募集日程:6月18日(日)12:00〜/12:30〜 の計2枠(サンレコ読者限定枠)
  • 募集人数:各回16名
    *応募者多数の場合には、抽選となります
    *1応募につき1名のみ、1回限りのご参加、全席指定
  • 応募期間:4月25日(火)0:00〜5月15日(月)19:00
  • 当選発表:5月25日(木)中に当選者のみにメール送信
    応募方法下の専用応募フォームにアクセスして必要事項をご記入ください。
    *参加募集は締め切りました。たくさんのご応募、ありがとうございました。
    当選者の方へは上記の当選発表期間にメールにて通知いたします。
    (落選者の方へのご連絡はございません。また、個別の当選結果のご質問にはお答えできかねますので、ご了承ください)

リリース情報

SUKIMASWITCH 20th Anniversary BEST 『POPMAN’S WORLD -Second-』

デビュー20周年を迎えたスキマスイッチのアニバーサリー・ベストアルバム!

スキマスイッチ(AUGUSTA RECORDS)7月5日発売

●DELUXE盤(ファンクラブ限定)【3CD+2BD】PROS-1928:14,960円 *予約期間:5月9日23:59まで
●初回限定盤【3CD+1BD】UMCA-19069:7,480円
●通常盤【3CD】UMCA-10094/6:3,850円

ライブ情報

スキマスイッチ 20th Anniversary"POPMAN’S WORLD 2023"
スキマスイッチ 20th Anniversary"POPMAN’S WORLD 2023 premium"(*印公演)

●6月6日(火)北海道 札幌・カナモトホール
●6月24日(土)福岡県 サンパレスホール
●7月15日(土)石川県 本多の森ホール
●8月11日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
●9月13日(水)高知県 高知県民文化オレンジホール
●9月16日(土)愛知県 名古屋市公会堂
●9月18日(月)岡山県 岡山市民会館
●11月25日(土)大阪府 大阪城ホール(*)
●12月22日(金)東京都 日本武道館(*)

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