はるまきごはんがWAVES StudioVerseをレビュー 〜ビヨンセの楽曲を手掛けるエンジニアによるリード・ボーカル・チェイン

はるまきごはんがWAVES StudioVerseをレビュー 〜ビヨンセの楽曲を手掛けるエンジニアによるリード・ボーカル・チェイン

プラグイン・エフェクトのシーンにおいて質量ともに大きな存在感を放つブランドWAVESが、AIサーチ機能搭載のミックス・アシスト・システム/オンライン・プラットフォーム、WAVES StudioVerseをリリース。ここでは、ボカロPのはるまきごはんにStudioVerse/StudioRackをテストしてもらい、使用したチェインを分析/レビューしていただきました。また、今回特別にオリジナル・チェインをStudioVerseにアップしてもらったので、ぜひお使いください!

EQポイントを調整すれば初音ミク V4Xにも使えます

今回使ってみたチェイン:Beyonce Lead Vocal Chain

“ビヨンセの楽曲を手掛けるエンジニアによるリード・ボーカル・チェイン”

 StudioVerse画面 

Beyonce Lead Vocal ChainのStudioVerse画面

 StudioRack画面 

Beyonce Lead Vocal ChainのStudioRack画面

 上の画面がBeyonce Lead Vocal ChainをロードしたWAVES StudioRack。RACKセクションには、上からEQのWAVES Renaissance Equalizer、WAVES F6 Floating-Band Dynamic EQ、ディボクシー/ディハーシャー/ディエッサーが一つになったWAVES Manny Marroquin Triple D、ディエッサーのWAVES Renaissance DeEsser、チャンネル・ストリップのWAVES CLA MixHub、Parallel Split、そしてコンプのWAVES Renaissance Voxがインサートされている。

一目見てパッと理解できるレイアウト

 まずはStudioVerse/StudioRackの感想ですが、マニュアルなしでも触ることができました。これまでにDAWを使ったことのあるユーザーなら、何がどうなっているのかが、一目見てパッと理解できるレイアウトです。今回は、普段使っているボイス・ライブラリーのCRYPTON 初音ミク V4Xにてテストします。Scanボタンを押したところ、プラグイン・チェインのBeyonce Lead Vocal Chainがヒット。早速適用したところ、声のまとまり感と明瞭さが増し、なんと空間系エフェクトまで用意されていました!

 RACKセクションの最上段にはEQのWAVES Renaissance Equalizerが挿さっています。64Hzでローカットが入っていますが、これは下処理的なものでしょう。次の段にもEQが挿さっていて、こちらは6バンドEQのWAVES F6 Floating-Band Dynamic EQ。ここでは61kHzにローカット、72/123/207Hzの3点にダイナミックEQが設定されています。ビヨンセの声では、この帯域にピークがあるのかもしれません。

RACKセクションの1段目。EQプラグインのWAVES Renaissance Equalizerで、64Hzでローカットされている

RACKセクションの1段目。EQプラグインのWAVES Renaissance Equalizerで、64Hzでローカットされている

6バンド・ダイナミックEQプラグインのWAVES F6 Floating-Band Dynamic EQ。EQポイント②は72Hz、EQポイント③は123Hz、EQポイント④は207Hzに設定されており、これらのスレッショルドはマクロのControlノブでまとめて操作可能だ

6バンド・ダイナミックEQプラグインのWAVES F6 Floating-Band Dynamic EQ。EQポイントは72Hz、EQポイントは123Hz、EQポイントは207Hzに設定されており、これらのスレッショルドはマクロのControlノブでまとめて操作可能だ

 ここでMACROセクションのControlノブを動かすと、この3つのベルEQのスレッショルド・ノブが同時に動きます。つまり、このControlノブでこれら3つのダイナミックEQのかかり具合を調整できるということになります。よって、F6 Floating-Band Dynamic EQは、ボーカルの低域を制御するために用いられていると思います。ユーザーがこのチェインを取り入れる場合、適用するパートに合わせてこれら3つのダイナミックEQのポイントを調整するといいと思います。自分もローカットのポイントを含め、EQポイントを初音ミク V4Xの声に合わせて微調整しました。

 RACKセクションの3段目には、WAVES Manny Marroquin Triple Dが入っています。これは、主にボーカルの低域/中域/高域における耳障りな帯域を解決することができるプラグイン。自分は特にディボクシーが気に入っていて、ボーカルの低域/中域におけるぼやっとした部分をスッキリさせることができます。生のボーカルなどに対して使うイメージがあったのですが、今回歌声合成ソフトに試してみることで、“意外と使えるな”という発見がありました。

ディボクシー/ディハーシャー/ディエッサーが一つになったWAVES Manny Marroquin Triple D。4度のグラミー受賞経験を持つエンジニア、マニー・マロクィンとの共同開発プラグインだ。DeBOXYノブは、マクロのXtra Controlノブに割り当てられている

ディボクシー/ディハーシャー/ディエッサーが一つになったWAVES Manny Marroquin Triple D。4度のグラミー受賞経験を持つエンジニア、マニー・マロクィンとの共同開発プラグインだ。DeBOXYノブは、マクロのXtra Controlノブに割り当てられている

WAVESプラグイン名でのチェイン検索も可能

 次の段にもディエッサーが挿さっています。こちらはWAVES Renaissance DeEsserです。デフォルトでは周波数ポイントが8.1kHzに設定されていますが、毎回自分が作る歌声合成ソフトの声の歯擦音が大体7〜10kHzなので、ここは微調整して使いました。

ディエッサーのWAVES Renaissance DeEsser。Threshスライダーは、マクロのDeEsserノブにアサインされている

ディエッサーのWAVES Renaissance DeEsser。Threshスライダーは、マクロのDeEsserノブにアサインされている

 チャンネル・ストリップのWAVES CLA MixHubが5段目に入っていますが、ここでは8kHzを7dBほど、3kHzを3dBほどブーストしています。CLA MixHubのEQは高域を突いても痛くなりすぎないため、あえてここではCLA MixHubで中〜高域を持ち上げ、ナチュラルかつきらびやかにする効果を得ているのだと思います。

チャンネル・ストリップのWAVES CLA MixHub。エンジニアのクリス・ロード=アルジ氏が所有するSSLコンソールをモデリングしたプラグインだ

チャンネル・ストリップのWAVES CLA MixHub。エンジニアのクリス・ロード=アルジ氏が所有するSSLコンソールをモデリングしたプラグインだ

 6段目のParallel Splitには、WAVES Renaissance VerbやH-Delay、Chorusといった空間系エフェクトが格納されています。どのくらいリバーブがかかっているのか、試しにスロット2の下段にあるソロ・ボタンを押してエフェクト量を確認したところ、ほんの少しの量感でした。

RACKセクション6段目にインサートされたParallel Splitの画面。スロット2〜4には、リバーブやディレイといった空間系エフェクトをインサートする

RACKセクション6段目にインサートされたParallel Splitの画面。スロット2〜4には、リバーブやディレイといった空間系エフェクトをインサートする

 面白いと思ったのはParallel Splitのスロット3。ここではH-Delayの後段にRenaissance Verbがあります❼❽。つまり、ピンポン・ディレイにリバーブを加えることによってディレイ成分をぼやかすことができるため、ボーカルの輪郭を邪魔せずに広がり感を演出できます。このように、他の人の処理を知ることができるのは面白いです。

Parallel Splitスロット3の1段目には、ディレイのWAVES H-Delayをインサート。ピンポン・ディレイとして用いられ、左右に広がりを持たせる演出に一役買っている

Parallel Splitスロット3の1段目には、ディレイのWAVES H-Delayをインサート。ピンポン・ディレイとして用いられ、左右に広がりを持たせる演出に一役買っている

リバーブのWAVES Renaissance Reverb。H-Delayの後段にインサートすることによって、ディレイ成分をぼやかすことが可能だ

リバーブのWAVES Renaissance Reverb。H-Delayの後段にインサートすることによって、ディレイ成分をぼやかすことが可能だ

 スロット4ではWAVES Q10 Equalizerによるローカットと、WAVES GTR3付属のChorusによるコーラスがかかっています。これは、中域以上にのみコーラスを適用するためで、自分もダブラーに似たような処理をすることが多いです。RACKセクションの最終段は、コンプのWAVES Renaissance Voxでまとめられています。

Parallel Splitスロット4の1段目に挿さっているのは、パラグラフィック・イコライザーのWAVES Q10 Equalizer。全部で10バンドを搭載する。ここではパラレル・コーラスを施す前の下処理として、ローカットの役割を担っている

Parallel Splitスロット4の1段目に挿さっているのは、パラグラフィック・イコライザーのWAVES Q10 Equalizer。全部で10バンドを搭載する。ここではパラレル・コーラスを施す前の下処理として、ローカットの役割を担っている

コーラス・プラグイン、Chorus。アンプ・シミュレーション・プラグインのWAVES GTR3に同梱されている

コーラス・プラグイン、Chorus。アンプ・シミュレーション・プラグインのWAVES GTR3に同梱されている

使ってみよう! はるまきごはんのオリジナル・チェイン

はるまきごはんのオリジナル・チェイン

 普段自分はメインとなる初音ミク V4Xのトラックに、1オクターブ下でユニゾンする初音ミク V4Xのトラックをレイヤーしています。そこで今回は、この1オクターブ下の初音ミク V4Xの歌声に特化したチェインを作ってみました! メインを補助しつつ存在感が増すだけでなく、高域の張り付いた感じも演出することができます。ポイントは、深めのローカットと自分が大好きなWAVESのエキサイター・プラグイン、Aphex Vintage Aural Exciterを使ったところです!

 

はるまきごはん

はるまきごはん
【Profile】札幌市出身のボカロP、イラストレーター、アニメーター。作詞、作曲、編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手掛けている。アニメーション・スタジオ、スタジオごはんを主催。スープ・カレーが好き。

 Recent Work 

【特集】WAVESの最新システムを5人のクリエイターが使ってみた

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