TAKU INOUEがWAVES StudioVerseをレビュー 〜高域の明瞭さや響きにフォーカスしたピアノ向けプラグイン・チェイン

TAKU INOUEがWAVES StudioVerseをレビュー 〜高域の明瞭さや響きにフォーカスしたピアノ向けプラグイン・チェイン

プラグイン・エフェクトのシーンにおいて質量ともに大きな存在感を放つブランドWAVESが、AIサーチ機能搭載のミックス・アシスト・システム/オンライン・プラットフォーム、WAVES StudioVerseをリリース。ここでは、コンポーザー/音楽クリエイター/DJのTAKU INOUEにStudioVerse/StudioRackをテストしてもらい、使用したチェインを分析/レビューしていただきました。また、今回特別にオリジナル・チェインをStudioVerseにアップしてもらったので、ぜひお使いください!

即戦力になるだけでなく、ミキシングの勉強にも役立ちます

今回使ってみたチェイン:Airy House Pianos

“高域の明瞭さや響きにフォーカスしたピアノ向けプラグイン・チェイン”

 StudioVerse画面 

Airy House PianosのStudioVerse画面

 StudioRack画面 

Airy House PianosのStudioRack画面

 上の画面がAiry House PianosをロードしたWAVES StudioRack。チェインには、上からコンプレッサーのWAVES CLA-3A、チャンネル・ストリップのWAVES SSL E-Channel、EQのWAVES V-EQ4、パラレル処理を行うParallel Splitがインサートされている。音圧をコントロールするENERGYノブや、中域にひずみ感を加えるCRUNCHノブが特徴だ。

メロディ・ラインや音鳴りを細かく認識するScan

 自分はリズミカルにコードを伴奏するシンセ・ピアノでトライ。Scanボタンを押してAIに聴かせると、ハウス・ピアノ系のプラグイン・チェインAiry House Pianosを提案されました。まさに求めていた音だったので、感動を覚えます。

 試しにアコースティック・ピアノで弾いたフレーズを聴かせてみると全然違うプラグイン・チェインを提案してくれたので、AIがメロディ・ラインや音の鳴り具合を“かなり細かく認識できているんだな”と思いました。検索欄に単語を打ち込む“タグ検索”もできるのですが、Scan機能が非常に優秀なので自分はこれだけでも満足です。Airy House Pianosをロードする前の素の音はただのドライなシンセ・ピアノだったのですが、ロードした瞬間にリバーブや高域のEQ具合など含めて完成されたサウンドになります。

 StudioRackのRACKセクションを見てみると、上からコンプレッサーのWAVES CLA-3A、チャンネル・ストリップのWAVES SSL E-Channel、EQのV-EQ4、StudioRackのParallel Splitが直列にインサートされています。最初のCLA-3Aは単に音量を整えるために用いられているようです。ここではPEAKノブとGAIN REDUCTIONノブで、適切なリダクション量を自分で設定するといいでしょう。

コンプレッサー・プラグインのWAVES CLA-3A。コンプレッサー・モードとリミッター・モードの2種類を使い分けることができる。RACKセクションの1段目にインサート

コンプレッサー・プラグインのWAVES CLA-3A。コンプレッサー・モードとリミッター・モードの2種類を使い分けることができる。RACKセクションの1段目にインサート

SSL SL4000Eシリーズ・コンソール搭載のチャンネル・ストリップを再現したというプラグイン、WAVES SSL E-Channel。Airy House PianosではHFセクションが採用されている

SSL SL4000Eシリーズ・コンソール搭載のチャンネル・ストリップを再現したというプラグイン、WAVES SSL E-Channel。Airy House PianosではHFセクションが採用されている

EQプラグインのV-EQ4。EQモジュールのNEVE 1081をモデリングし、独自のEQポイントを加えるなどの改良を施している。Airy House Pianosでは、HFノブがマクロのTREBLEノブに、LFノブがマクロのBASSノブにアサインされている

EQプラグインのV-EQ4。EQモジュールのNEVE 1081をモデリングし、独自のEQポイントを加えるなどの改良を施している。Airy House Pianosでは、HFノブがマクロのTREBLEノブに、LFノブがマクロのBASSノブにアサインされている

 RACKセクション2段目のSSL E-Channelでは、FILTERSのHFセクションで10kHz付近を3dBブーストしています。ハウス・ピアノのイメージということもあり、一気にパキッとしたサウンドになりますね。

 そして3段目のV-EQ4。これはおそらく微調整用のEQでしょう。MACROセクションのTREBLEノブがV-EQ4のHFノブに、BASSノブがV-EQ4のLFノブにアサインされていますので、これらのバランスは“ユーザーの好みで調整してくださいね”という意図なんでしょう。V-EQ4はビンテージのEQサウンドをキャプチャーしたプラグインなので、ここでアナログ感を付与するイメージです。自分はV-EQ4が好きなので結構使うんですけれど、“なるほどな”と感じました。

まだ使ったことのないプラグインに出会える

 RACKセクションの4段目を見ると、ルーティングが並列になるParallel Splitが挿さっています。Parallel Splitのスロット1は空っぽで、スロット2にはリミッターのWAVES L1 Limiterが、スロット3にはコンプのRenaissance AXXが格納されています❺❻

並列処理を可能にするParallel Splitの画面。スロット1は空になっており、スロット2〜スロット7が使用されている。リミッター・プラグインWAVES L1 Limiterがインサートされたスロット2のセンド・レベル・ノブと、Renaissance AXXを格納するスロット3のセンド・レベル・ノブは、MACROセクションのENERGYノブにひも付いている

並列処理を可能にするParallel Splitの画面。スロット1は空になっており、スロット2〜スロット7が使用されている。リミッター・プラグインWAVES L1 Limiterがインサートされたスロット2のセンド・レベル・ノブと、Renaissance AXXを格納するスロット3のセンド・レベル・ノブは、MACROセクションのENERGYノブにひも付いている

L1 Limiter。デフォルトでは、スレッショルド値は−15.0dBに設定されている

L1 Limiter。デフォルトでは、スレッショルド値は−15.0dBに設定されている

Renaissance AXX。特にギターやベースなどのダイナミクスを調整するのに特化しているコンプレッサー・プラグインだ

Renaissance AXX。特にギターやベースなどのダイナミクスを調整するのに特化しているコンプレッサー・プラグインだ

 ここでMACROセクションのENERGYノブを上げてみると、スロット2とスロット3のセンド・レベル・ノブが上がると同時に、リターン・レベル・フェーダーが下がります。つまり、パラレル・リミッターやパラレル・コンプへ突っ込む量をENERGYノブでコントロールできるということ。このノブ一つで存在感や音圧を調整できるんです。だから“エナジー”っていう名前を付けたんでしょうね。よく考えられています。

 スロット4は、リバーブのWAVES Abbey Road Reverb Platesを格納。今まで自分はこのAbbey Road Reverb Platesを使ったことがなかったので新鮮です。MACROセクションのREVERBノブがスロット4のリターン・レベル・フェーダーにアサインされていて、エフェクトを施しただけで“あ〜これこれ、この音だ”ってなっちゃいました(笑)。ちょっとキンキンした残響成分が、シンセ・ピアノをよりハウシーなサウンドに仕上げてくれます。

WAVES Abbey Road Reverb Plates。アビイ・ロード・スタジオ公認のリバーブ・プラグインで、同スタジオ常設のEMT 140プレート・リバーブをモデリングしている

WAVES Abbey Road Reverb Plates。アビイ・ロード・スタジオ公認のリバーブ・プラグインで、同スタジオ常設のEMT 140プレート・リバーブをモデリングしている

 普段自分は決まったプラグインを使い回しがちなのですが、StudioVerseならまだ使ったことのないプラグイン・エフェクトに出会えるので、毎回新しい発見があって面白いです。例えば今回だとAbbey Road Reverb Platesのサウンドを知れたので、次回からはリバーブ・プラグインの選択肢の一つになりました。

 Parallel Splitのスロット5では、WAVES H-Delayでショート・ディレイがかけられています。ステレオ・イメージの調整はMACROセクションのWIDTHノブで行えるのですが、ここにはParallel Splitスロット6のリターン・レベル・フェーダーがアサインされています。スロット6にはダブラーのWAVES Doublerが挿さっていて、これとスロット5のH-Delayをオンにするだけで、ますますハウスのシンセ・ピアノに! “このサウンドって、ダブラーとショート・ディレイで作るのか”というのを学べた瞬間でした。

WAVES H-Delayはディレイ・プラグイン。Airy House Pianosでは、ショート・ディレイとして用いられた

WAVES H-Delayはディレイ・プラグイン。Airy House Pianosでは、ショート・ディレイとして用いられた

ダブラー・プラグインのWAVES Doubler。ボイス数が2つのモデルDoubler2のほか、4つのモデルDoubler4もラインナップする。モノラル音源をステレオ化したり、ステレオ音源のステレオ感をより強調することができる

ダブラー・プラグインのWAVES Doubler。ボイス数が2つのモデルDoubler2のほか、4つのモデルDoubler4もラインナップする。モノラル音源をステレオ化したり、ステレオ音源のステレオ感をより強調することができる

 最後のスロット7はMultiband Split。400Hz〜4kHzの帯域にWAVES GTR3付属のひずみ系プラグイン、OverDriveが使われています。これはギター・ペダルのシミュレーションですが、“これを使うんだ”という新発見がまたありました。StudioVerseは即戦力になるだけでなく、勉強にもなります。今回だけでもかなり学ぶことができました。Scan機能も優秀なので、皆さんも使ってみてください。

GTR3のひずみ系プラグイン、OverDrive。ギター・ペダルをモデリングしている。Multiband Splitのスロット2にインサート

GTR3のひずみ系プラグイン、OverDrive。ギター・ペダルをモデリングしている。Multiband Splitのスロット2にインサート

使ってみよう! TAKU INOUEのオリジナル・チェイン

TAKU INOUEのオリジナル・チェイン

 普段、スネアのサウンド・メイキングをWAVESのプラグインで処理することが多かったので、この際オリジナル・チェインにまとめてみました。オケ中でもスネアの存在感を前に押し出せるチェインです。低域補強プラグインのWAVES MaxxBassで120〜180Hz付近をブーストしたり、WAVES API 560でハイエンドを突いて空気感をコントロールしたりすることができます。WAVES Smack Attackでトランジェント処理も可能ですので、ぜひ一度お試しを!

 

TAKU INOUE

TAKU INOUE
【Profile】コンポーザー/音楽クリエイター/DJ。2009年バンダイナムコゲームスに入社。2021年VIA/トイズファクトリーよりメジャー・デビューし、EP『ALIENS EP』をリリース。2022年には星街すいせいとの音楽ユニットMidnight Grand Orchestraを結成する。

 Recent Work 

【特集】WAVESの最新システムを5人のクリエイターが使ってみた

製品情報

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