YAMAHA YC88 〜堀江博久と櫻打泰平が徹底試奏|ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー

YAMAHA YC88 〜堀江博久と櫻打泰平が徹底試奏|ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー

ライブにおいてキーボーディストが核に据える鍵盤楽器は、88鍵盤のステージ・ピアノ/キーボードが多く、それを軸に、オルガン専用機やシンセなど、複数台並べるスタイルがよく見受けられる。場合によってはステージ・ピアノ/キーボード1台のみで臨むこともあるが、最近のモデルは、どんなシチュエーションにおいても、十分対応し得る機能を備えたものになっている。今回は、そんな最新のステージ・ピアノ/キーボード4台を堀江博久と櫻打泰平がクロス・レビュー。各キーボードの弾き心地や音色、機能面について、実際に使用する場面を想定してコメントをしてもらったので、ぜひ導入の指針としていただきたい。

物理ドローバーを搭載し高い操作性と表現力を得た“YC”の進化系

 伝統的なトーンホイール・オルガンをほうふつさせる物理ドローバーを備えたステージ・キーボード“YCシリーズ”。ヤマハ独自のVirtual Circuitry Modeling(VCM)によるオルガンのほか、伝統的なアコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、そしてFM音源によるエレピやシンセサイザー、さらにはアコースティック楽器まで、ライブ・ステージにおいて即戦力で活躍する音色を多数搭載している。またビンテージ・エフェクトからハイエンドのシグナル・プロセッサーまで、実機の挙動を回路レベルで再現するというVCMエフェクトを装備。音色やシチュエーションに合わせた音作りが楽しめるだろう。YC88のほか73鍵仕様のYC73、そして61鍵のウォーターフォール鍵盤を搭載したYC61の3モデルをラインナップ。 

オープン・プライス(市場予想価格:341,000円前後)

【Top】LEDライト付きのドローバーを9本装備したオルガン・セクションが左にあり、A/B2系統のKeys、そしてエフェクト・セクションが並ぶ。それぞれスイッチでオン/オフが可能。別売りでペダルやケーブル類などのアクセサリーを収納可能な専用ソフト・ケースも用意されている。

【Top】LEDライト付きのドローバーを9本装備したオルガン・セクションが左にあり、A/B2系統のKeys、そしてエフェクト・セクションが並ぶ。それぞれスイッチでオン/オフが可能。別売りでペダルやケーブル類などのアクセサリーを収納可能な専用ソフト・ケースも用意されている。

【Rear】右からヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、オーディオ出力L/R(フォーン、XLR)、ゲインつまみ、オーディオ入力L/R(フォーン)、コントロール・ペダル入力1/2(TRSフォーン)、アサイナブル・ペダル入力(フォーン)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、MIDI IN/OUT、USB(Type-B、Type-A)

【Rear】右からヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、オーディオ出力L/R(フォーン、XLR)、ゲインつまみ、オーディオ入力L/R(フォーン)、コントロール・ペダル入力1/2(TRSフォーン)、アサイナブル・ペダル入力(フォーン)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、MIDI IN/OUT、USB(Type-B、Type-A)

オルガン・セクション

オルガン・セクション

 トーン・ホイール方式をシミュレートしたオルガン音源を3種類とFM音源のオルガン・タイプを6種類内蔵したオルガン・セクション。9本の物理ドローバーを備え、リアルタイムに音作りしながら演奏できる。また、ロータリー・スピーカーやプリドライブ、パーカッションなどを使い、本格的な音作りが行える。

Keysセクション

Keysセクション

 ピアノ、エレクトリック・ピアノ、シンセ、生楽器系などの音色143種類を、2系統で選択できるKeysセクション。それぞれに独立した2系統のインサーション・エフェクトを設定可能となっており、セクション同士の音色をレイヤーしたり、スプリットさせて演奏することもできる。

エフェクト・セクション

エフェクト・セクション

 実機の挙動を回路レベルで再現するヤマハ独自のVCM技術が用いられたエフェクト・セクション。種類は35タイプで、スピーカーとアンプは7タイプ、リバーブは1種類を内蔵し、音色セクションごとに設定できる。最終段にはマスターEQ(MIDは周波数変更可能)も搭載されている。

ライブセット機能

ライブセット機能

 写真に見える“LIVE SET”の文字の下に並ぶ8個のボタンには、各音色やエフェクトの設定などを自由に組み合わせて、自分好みのプリセットをライブセットとして保存することができる。プリセットのライブセットは104種類登録されており、最大160種類まで保存可能となっている。

SPECIFICATIONS
■同時発音数:128音 ■サイズ:1,298(W)×142(H)×364(D)mm ■重量:18.6kg ■付属品:FC3A(フット・ペダル)、2P-3P変換器

本格的なオルガン・サウンドで演奏と音作りを楽しめる1台 〜堀江博久

堀江博久

 僕はヤマハのコンボ・オルガンYC-20とReface YCを持っていて、同社の“YC”というブランドには親しみがあります。また、ドローバーが搭載されたHAMMOND系のトーンホイール・オルガンやトランジスター系のVOX、FARFISAもレコーディングからライブまで、いろんな場面で使っていたので、オルガンはすごくなじみのある楽器として接しています。

 “YC”ブランドを受け継いだこのYC88では、9本のドローバーを装備しているのでオルガンを演奏する、そして音作りをする上でメリットだと思います。ドローバーでの音作りはシンセと似ている部分があって、倍音がどのように混ざっていくと音のカラーがどのように変わっていくか?というのが視覚的にも分かるのも良い点です。

 僕は、印象的なオルガン・フレーズを聴いたり演奏者を見たときに、どんな音作りをしているんだろう?と思ってドローバーの設定を探ってみたり、ロータリー・スピーカーやアンプでひずませたりして、音色を似せた上で自分でも表現してみる、ということをよくやっていました。YC88でもそういった音作りが可能ですね。

 オルガン・セクションでは、ロワーとアッパーをボタン一つで切り替えられ、ビブラートやコーラス、パーカッションの種類もHAMMOND系の実機に沿って搭載されています。また、ロータリー・スピーカー・エフェクトも2タイプあって、スロー/ファストも切り替え可能です。機能は十分だし、音作りの操作もしやすかったですね。音色についてはトーンホイール系はロータリー・スピーカーとのなじみが良く、アンプ系のエフェクトでひずませても気持ちの良いひずみ感でした。エフェクトの種類が豊富なので、シンプルにいろいろなエフェクトを使った音作りも楽しめました。あとは、FM音源によるオルガン音色も内蔵されており、トランジスター系のオルガン音色がうまく再現されているので、こちらも使えるサウンドだなという印象を受けましたね。

さまざまなひずみを生み出せるSPEAKER/AMPセクション

さまざまなひずみを生み出せるSPEAKER/AMPセクション

 そのほかに、Keysセクションでピアノからエレピ、シンセ系の音色まで、2系統選べて、レイヤーしたりスプリットもできるので、ライブ・キーボードとしては万能だと思います。こういったドローバーが搭載されたキーボードを使う人は、本格的にオルガン演奏や音作りをしたい人が多いと思いますが、自分の音を見つけたり、これからオルガンを始めたいという人にもお薦めできます。YC88は、1台でライブ・ステージに必要な音色を備えていますし、ピアノから始めてオルガンのことはまだ詳しくない、という人でも、ドローバーによる音作りを楽しんでもらいたいですね。

高い操作性と音作りでバンドの中で戦えるサウンド 〜櫻打泰平

櫻打泰平

 オルガンの歴史をたどると、ピアノよりもはるか昔までさかのぼることになりますし、演奏される場面も宗教音楽からゴスペル、現代音楽やジャズ、そしてポップスまでさまざまです。それくらい重みがあって魅力的な楽器なので、僕もバンド活動の初期からずっと使っています。

 オルガンの音色作りは、ドローバーとロータリー・スピーカーとの組み合わせをまず基本に考えていて、条件が許せばLESLIEスピーカーで鳴らしています。それがかなわないときはコンパクト・エフェクターのシミュレーターを使っているのですが、YC88は、ドローバーとロータリー・スピーカー・エフェクトを内蔵していて、回転のニュアンスや響き方の精度が高いですね。パーカッションやコーラスの音も含めて、最近は生楽器ばかり触っていた僕でも、インスピレーションが湧くサウンドでびっくりしました。ドローバーの触り心地は、演奏中にサッといじる際にもちょうど良い重さですし、誤作動も起こしにくい硬さで計算されているんだろうなと思いました。アッパーとロワーをスプリットで設定すれば、2段鍵盤での演奏も再現できますしね。ちなみに僕は、これまでステージ・キーボードでスプリットやレイヤーなどの設定をしてこなかった人間なのですが、そんな素人の僕でもYC88では簡単にできてしまったので、この操作性はすごいと思いました。

演奏しながら音色を変化させられるのがドローバーの魅力

演奏しながら音色を変化させられるのがドローバーの魅力

 YC88は、オルガン専用以外のエフェクト・セクションも充実していますね。35タイプ内蔵しているということで、ディレイはタップ・テンポで設定できたり、アンプやリバーブ、マスターEQなどで音作りも楽しめました。そして音色は、オルガン以外にピアノ、エレピ、シンセ系、生楽器系など、ステージ・キーボードとして必要十分なサウンドが内蔵されています。僕が曲作りをする際は、物語というかイメージを先行して考えて、それに合うのはピアノの切なさなのか? RHODESの温かさなのか? オルガンの包み込むような感じか?といったような観点で作っていくことが多いのですが、YC88には、それらの音色が全部入っていますし、一つ一つの音が優秀なので、曲作りにも使える楽器だと思いました。

 バンドをメインでやってきた僕としては、オルガンの操作性とサウンドの重要度は大きいんです。ギターなど、ほかの楽器に負けないオルガン・サウンドを目指した音作りもしてきたので、そういった音が大きめなバンドをやっているキーボーディストにオススメです。ぜひこのYC88で音作りを楽しみながら戦ってほしいですね。

Reviewer

堀江博久
櫻打泰平

堀江博久
鍵盤弾き。国内外問わずさまざまなアーティストとのセッションを行い、一方で、自身が曲を書き、歌うNEIL AND IRAIZAを1995年に結成。並行して、SINGER SONGER、pupa、the HIATUSなどのバンド活動も行ってきた。2013年自身のソロ活動としてアルバム『At Grand Gallery』を発表したほか、近年は、Cornelius、LOSALIOS、高橋幸宏、GREAT3、Curly Giraffeなどでプレイ。キーボーディストとしてだけでなく、プロデューサー、アレンジャーとしてアーティストからの絶大な支持を得ている。

櫻打泰平
1992年7月4日 富山県氷見市生まれ。Suchmosの鍵盤奏者。2013年から2018年までSANABAGUN.に在籍。クラシック音楽のみならずロック、ジャズ、R&B、ヒップホップなどの幅広い音楽に習熟している。現在、自身がリーダーを務め、2021年より活動を開始した鍵盤、トランペット、ウッド・ベースからなるドラムレス・バンド“賽(SAI)”に加え、劇伴音楽の作編曲(Disney+、NHK合同制作ドラマ「拾われた男」)のほか、STUTS、Rei、七尾旅人などのアーティスト・サポートなど、幅広い分野にて活動中。

動画でサウンドをチェック!

 本企画は、YouTubeチャンネル「キーマガTV!」連動企画です。公開中の「キーマガTV! Vol.15」ではヤマハ YC88とCP88を使った堀江博久と櫻打泰平の演奏をお楽しみいただけます。

製品情報

【特集】ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー