KLEVGRAND Tomofon|2020年代生まれのソフト・シンセ12モデルを徹底レビュー

さまざまなメーカーから日々新しい製品が誕生しているソフト・シンセ。しかし数の多さから、まだ十分にその魅力を知られていない製品もしばしば。そこで本企画では、2020年代以降にリリースされたソフト・シンセ12モデルを、シンセに造詣が深い、毛蟹(LIVE LAB.)、Naive Super、林田涼太、深澤秀行の4名が紹介。ここでは、KLEVGRAND Tomofonを深澤秀行がレビューします。

オーディオ素材から独自のウェーブテーブルを作成可能

KLEVGRAND Tomofon|価格:20,723円(価格は為替レートにより変動)

KLEVGRAND Tomofon|価格:20,723円(価格は為替レートにより変動)

Requirements
●Mac:macOS 10.10以降
●Windows:Windows 7以降
●共通項目:64ビット
●対応フォーマット:AAX/AU/VST3

概要

 斬新なアイディアでオーディオを処理するエフェクトを、洗練されたデザインでパッケージしたプラグインを数多くリリースしてきたKLEVGRAND。そんな同社が満を持してリリースしたシンセは、まさかのウェーブテーブル・シンセです。そのインターフェースを見ると、“想像すら許されない音が出るのでは……”と、期待せざるを得ません。

収録された音色のバリエーション

 プリセットのリストを一見すると、意外にもアコースティック/オーガニックな音色が多種多様で、ウェーブテーブル・シンセであることを忘れてしまいます。そう、僕たちはウェーブテーブル・シンセに“過激な倍音製造機”のようなイメージを持っているはず。もちろん、それは間違ってはいないのですが、“新しい可能性とオリジナリティのある自由なサウンドを手に入れたくはないか?”と、問いかけられている気がしました。

キャラクター

 アコースティックな音色が主体になっているとはいえ、もちろん過激な倍音が出せないわけではありません。さらにその倍音の変化は、波形同士が自然にクロス・フェード/モーフィングしているからか、自然かつ音楽的な印象で、ほかでは味わえないでしょう。ウェーブテーブル・シンセでありながら、生楽器系の音がプリセットに多いのも合点がいきます。

操作性

 ウェーブテーブルを感じさせないデザインのGUIで、まるでサンプラーのように感覚的に扱うことができます。

オシレーター

 Tomofonの心臓部は“Audio Model”。これは、任意のオーディオ素材から抽出された一つの波形をウェーブテーブルとして連続的に並べ鍵盤それぞれにアサインしたもの。要するにマルチサンプル・ウェーブテーブルのことです。そしてAudio Modelは、手持ちの素材から作り出すことも可能。オーディオ素材のインポートや編集は“Audio Model Editor”で行い、エンベロープやフィルター、エフェクトの編集は“Synth”セクションで行います。ぜひご自身でも、シンセやフィールド・レコーディングなどから構築してみてください。

▼任意の素材から“Audio Model”を作成可能

任意の素材から“Audio Model”を作成可能

Audio Model Editorの画面。任意のオーディオ素材をインポートして、マルチサンプル・ウェーブテーブルとして扱うことができる

フィルター/エンベロープ/その他、モジュレーション

 フィルターはV1.2へのアップデートによって、6タイプから選択できるようになりました。−12dB/oct、−24dB/octのスロープそれぞれに、ローパス・フィルター、ハイパス・フィルター、バンドパス・フィルターが用意されています。エンベロープは、主要パラメーターであるGAIN、DEPTH、PITCH、FILTERのそれぞれに、ATTACK、DECAY、LOOP、RELEASEが用意されています。ちなみに前述のDEPTHは、ウェーブテーブルの動きを設定するもので、音色変化において最も重要なパラメーターです。

独自の機能/特徴

 そのすべてが独特と言えますが、V1.2へのアップデートで追加された“Body”というパラメーターは特にユニーク。アコースティック楽器などの胴の鳴りをモデリングしているようで、Audio Modelと組み合わせて、シンセサイザーにオーガニックな胴鳴りを付与することが可能です。

▼エフェクトに“Body”が追加

エフェクトに“Body”が追加

エフェクトの画面。上から3つ目の“Body”は6月末のアップデートで追加。さまざまな共鳴空間の特性をシミュレートする機能。大きな箱から金属素材まで、多様な選択肢が用意されている

総評

 筆者は100以上ものサンプルをインポートし、オリジナルのAudio Modelを作りました。生楽器のマルチサンプルをインポートしてシミュレーションをすることもできますし、リズム・ループやポリフォニックで演奏されたコード・ループなど、楽器として演奏するには無理がありそうなサンプルは、偶発的な音色変化を有するAudio Modelが生成できるのでとても楽しいです。“まだ誰も鳴らしたことのない音を奏でたい!”というクリエイティビティあふれる思いを、Tomofonは必ず受け入れてくれるでしょう。また、V1.2へのアップデートがこの原稿の執筆中に行われたこともあり、まだ進化途中の模様。今後にさらなる期待が持てますね。

 

深澤秀行
シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメ、ゲームのサウンドトラック、作品のリミックスまで幅広く手掛ける一方、「やのとあがつま」やモジュラー・シンセ・ユニット「電子海面」のメンバーとしても活動している。

製品情報

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