CHERRY AUDIO Mercury-6|2020年代生まれのソフト・シンセ12モデルを徹底レビュー

さまざまなメーカーから日々新しい製品が誕生しているソフト・シンセ。しかし数の多さから、まだ十分にその魅力を知られていない製品もしばしば。そこで本企画では、2020年代以降にリリースされたソフト・シンセ12モデルを、シンセに造詣が深い、毛蟹(LIVE LAB.)、Naive Super、林田涼太、深澤秀行の4名が紹介。ここでは、CHERRY AUDIO Mercury-6を林田涼太がレビューします。

パッドが効果的なビンテージ・シンセをモデリング

CHERRY AUDIO Mercury-6|価格:7,000円前後(beatcloud価格)

CHERRY AUDIO Mercury-6|価格:7,000円前後(beatcloud価格)

Requirements
●Mac:macOS 10.13以降
●Windows:Windows 7以降
●共通項目:64ビット、iLokアカウント、8GB以上のRAMを推奨
●対応フォーマット:AAX/AU/VST/VST3/スタンドアローン

概要

 1983年に発売されたROLAND Jupiter-6を細部まで再現したプラグイン。Jupiterシリーズは4、6、8と3種類ありましたが、それぞれの数字が最大ボイス数を表すだけでなく、機能や音色のキャラクターも大きく違いました。特にJupiter-6は本格的に音作りできる豊富なパラメーターをそろえながらも、同様の他社品に比べてコストが抑えられ、人気を博しました。CHERRY AUDIOは実機のエミュレート製品を多数リリースしており、Jupiter-4を再現したMercury-4のほか、往年のビンテージ・シンセをラインナップしています。

収録された音色のバリエーション

 プリセットは細かくカテゴリー分けされており、数が多いもののとても検索しやすいです。パッド系はJupiterシリーズのお家芸とも言えるもので、非常に効果的な音色ばかり。アナログ・ライクな柔らかさが気持ち良く、滑らかなのに太い音色が目白押しです。アルペジエイターの使用を前提にした音色も多く、FXとして使えそうなプリセットも豊富です。ポリフォニック・シンセはFX的な音色を得意としないものも多いですが、複雑なモジュレーションをかけられるJupiter-6の特徴を生かしたものとなっています。

キャラクター

 Jupiterシリーズは分厚く存在感のあるサウンド。中でもJupiter-6はフィルターの効きがアグレッシブでダンス・ミュージックなどもフォローできるほど派手さがあると言われており、Mercury-6でも再現されています。

操作性

 カーソルを合わせてフェーダーを動かすと数値が表示され、多くのパラメーターはパーセントで表示。フィルターはHz表示、ピッチはセミトーン表示になるなど、パラメーターに応じて適宜見やすい数値になるように設定されています。隠れているパラメーターがほとんどないため、見えているパラメーターの意味を知れば迷うことはありません。実機を触ったことのない人にでも分かりやすいと思います。

オシレーター

 1ボイスあたり2VCOを搭載しています。VCO-1とVCO-2は完全に独立したVCOとして設定が分けられているほか、オシレーター・シンクも一方通行ではなく両方向にも設定可能です。互いにフリケンシー・モジュレーションをかけ合うクロス・モジュレーションで金属的な音色も簡単に作れるほか、クロス・モジュレーションとオシレーター・シンクを同時にかけることによる独特な倍音の増加なども楽しめます。

フィルター/エンベロープ/その他、モジュレーション

 フィルターはローパス、ハイパスに加え、その両方を一度にかけたバンドパスも装備。この辺りは実機と同じような動きをします。レゾナンスは比較的エグめで個人的に好みのタイプ。エンベロープによるスウィープ感も非常にアナログ的です。エンベロープは1ボイスあたり2つあり、ENV-1だけ信号をインバート(=反転)可能。ADSRタイプでカーブにクセがなく、使い心地はとても良いです。

▼エフェクトは5種類を収録

エフェクトは5種類を収録

メイン画面のパネル部分右下にあるエフェクト・セクション。ディストーション、フェイザー、リバーブなど5種類を備える。画面はディレイで、タブを切り替えるとパラメーター表示が変化する仕様だ

独自の機能/特徴

 2~16ボイスの間でボイス数をコントロールできるほか、各ボイスをユニゾンで鳴らしてデチューンさせることで、より重厚な音色を作成するといった、Jupiter-6にはなかった機能を搭載、エンベロープにベロシティを反応させるパラメーターもあり、鍵盤を強く弾いたときにフィルターを開かせたり、ボリュームに変化が付くような使い方も可能です。そのほかオーバーサンプリング機能は劇的な変化というわけではありませんが、全体の抜けが変わるのを感じました。ただしCPUの使用率が上がるので、設定時は注意しましょう。

▼最大同時発音数は16ボイス

最大同時発音数は16ボイス

パネル中央下のMAX VOICEではボイス数を2~16までの間で選択できる。右隣には、ユニゾン選択時に各ボイスをデチューンさせるUNISON DETUNEノブも搭載

総評

 比較的軽い動作でビンテージな音色を手に入られる、優れたソフトだと言えます。どちらかといえば歴史の波に飲まれて、さほど注目される機会の少なかったJupter-6の音の素晴らしさを、あらためて再認識させてくれる製品でした。

 

林田涼太
いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックやレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

製品情報

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