Pro Toolsで「Sundaynight」のトラック・メイキング|解説:三浦康嗣(□□□)

Pro Toolsで「Sundaynight」のトラック・メイキング|解説:三浦康嗣(□□□)

 こんにちは、三浦康嗣です。前回は、「Sundaynight」という僕のソロ曲を題材に、AVID Pro Toolsでの曲作りを解説しようとしたのですが、セッションのテンプレートを紹介したところで紙幅が尽きてしまいました。そこで、今回は主要なパートをピックアップして、どのような作り方をしているか紹介していきましょう。なお、フィールド・レコーディング素材を使った楽曲制作方法をお知りになりたい方は、『Pro Toolsでフィールドレコーディング素材を使ったトラックメイク』と題した動画にアクセスしてみてください。

エンジニアに自宅へ来てもらい楽曲制作時と同じセッションでミックス

 前回も紹介した通り、MIDI打ち込みで楽曲制作をスタートする場合は、セッションのテンプレートにNATIVE INSTRUMENTS Maschineソフトウェア、Kontakt、UVI Falconという3つの音源を用意しています。このうち、ドラムなどのビート系にはMaschineソフトウェアを使っていて、打ち込みもMaschineソフトウェア上で行っています。

Pro Tools上に立ち上げたNATIVE INSTRUMENTS Maschineソフトウェア。ドラムはMaschineソフトウェア上でパターンを打ち込み、曲の展開に合わせてパターンを並べ、キックやスネア、ハイハットなどの各楽器をPro Toolsのミキサーへパラアウトするという方法を採っている

Pro Tools上に立ち上げたNATIVE INSTRUMENTS Maschineソフトウェア。ドラムはMaschineソフトウェア上でパターンを打ち込み、曲の展開に合わせてパターンを並べ、キックやスネア、ハイハットなどの各楽器をPro Toolsのミキサーへパラアウトするという方法を採っている

 AメロやBメロなどのドラム・パターンを作り、Maschineソフトウェア内のソングモード上で並べていくという作り方です。「Sundaynight」ではROLAND TR-808系のドラム・キットを選び、そこから音色を変更してドラム・パターンを作っていきました。

 各ドラム音色はテンプレートでパラアウトを設定しているので、「Sundaynight」でもキック、スネア、クラップ、スナップ、ハイハット、タムなどを個別にPro Tools上のミキサーへ立ち上げて、EQやコンプ、ひずみ系などのプラグインで加工し、ほとんどのトラックはbeatと名付けたAUXトラックにまとめました。

Pro ToolsのミキサーにパラアウトされたMaschineソフトウェア。赤枠内のスネアとクラップはSnare&Clap(黄枠)というAUXトラックにまとめ、キック(緑枠)、スナップ(青枠)、ハイハット(白枠)、タム(ピンク枠)、スネア・ロール系(紫枠)、シンバルなど(画面左端のトラック)などとともに、beatという名前のAUXトラック(オレンジ枠)でまとめられている。また、キックはバスにも送られており(赤矢印)、これは他のパートにインサートされたコンプレッサーのサイドチェインに入力するためのもの

Pro ToolsのミキサーにパラアウトされたMaschineソフトウェア。赤枠内のスネアとクラップはSnare&Clap(黄枠)というAUXトラックにまとめ、キック(緑枠)、スナップ(青枠)、ハイハット(白枠)、タム(ピンク枠)、スネア・ロール系(紫枠)、シンバルなど(画面左端のトラック)などとともに、beatという名前のAUXトラック(オレンジ枠)でまとめられている。また、キックはバスにも送られており(赤矢印)、これは他のパートにインサートされたコンプレッサーのサイドチェインに入力するためのもの

 ただし、スネアとクラップは、そのままbeatトラックへ送らずに、いったんバスでまとめて、コンプのPLUGIN ALLIANCE Purple Audio MC77とサチュレーターのBlack Box Analog Design HG-2をかけて一体感を出してから、beatトラックにまとめています。

 そのbeatトラックでは、SONIBLE Smart:Comp 2やTONE PROJECTS Unisumなどのコンプ、同じくTONE PROJECTSのサチュレーターKelvin、ローファイ系のBLACK SALT AUDIO TeloFiなどをインサートして音作りしました。

 実は、このbeatトラックには、もっといろいろなプラグインが使用されています。しかし、その中には僕がインサートしたものではないものが混じっています。というのも、この曲はエンジニアの葛西敏彦君に僕の自宅でミックスしてもらっているからです。つまり、僕が挿したプラグインの後に、葛西君がインサートしたものもあって、今となってはどれを誰が挿したのか、記憶が曖昧なのです(笑)。

 いずれにしろ、自分が作ったセッションを使って、エンジニアの方にそのままミックスしてもらえるというのは、Pro Toolsを使う大きなメリットだと思います。マシン環境も同じであれば、ソフト音源をオーディオ化せずにミックスしてもらえます。そうすると、直接、ソフト音源をエディットして音を整えることができます。例えば、キックのアタック感を調整したいと思ったとき、トラックをオーディオ化していたらコンプやEQで処理すると思いますが、オーディオ化していなければ音源のエンベロープで調整できてしまいます。ピッチを調整したいときも、ピッチ・シフト系のプラグインを使わずに音源のピッチを変えれば済みます。こうした処理方法の違いは、ノリや質感の違いにもつながるので、オーディオ化しないままエンジニアの方にミックスしてもらうという方法はとても有効だと思います。

コード・パートはサイドチェインやオートメーションで揺らぎや音色変化を

 ビートの次はベースか、それともざっくりとコード的な部分を作るかのどちらかなのですが、この曲では最初に、Falconのエレピ的な音色でコードを入れたと思います。ただ、この曲に限らず、作っていくうちに音色はどんどん入れ替えてしまいます。特にこの当時は、Kontaktが収録されているNATIVE INSTRUMENTS Komplete Collector’s Editionをバージョン・アップしたばかりだったので、勉強的にいろいろ使ってみようと思って多用していました。最終的には、Komplete内で見つけたIgnition Keysという音源のエレピとシンセの中間のような音色を採用しています。MIDIキーボードで弾いてから、タイミングはクオンタイズし、低い音域のベロシティはベースと当たらないように下げたり、音自体を削除したりといった調整を行いました。

NATIVE INSTRUMENTS Ignition Keysでのコード・パート。手弾きをクオンタイズして、ベロシティのバラつきは生かしつつも、低い音域の音はベースとの兼ね合いを見てベロシティを下げたり、あるいは音そのものを削除

NATIVE INSTRUMENTS Ignition Keysでのコード・パート。手弾きをクオンタイズして、ベロシティのバラつきは生かしつつも、低い音域の音はベースとの兼ね合いを見てベロシティを下げたり、あるいは音そのものを削除

 また、このコードはキックのトラックをサイドチェイン入力してコンプをかけて揺らぎを出しています。使用したプラグインはAUDIODAMAGE Roughrider 3。がっつり効く系のコンプですね。

Ignition Keysにインサートしたコンプ、AUDIODAMAGE Roughrider 3。サイドチェイン入力にはキックのトラックからバスで送られた信号が入力されている

Ignition Keysにインサートしたコンプ、AUDIODAMAGE Roughrider 3。サイドチェイン入力にはキックのトラックからバスで送られた信号が入力されている

 コード・パートはもうひとつあって、そちらはFalconのシンセ系音色を使っています。これにはFABFILTER Pro-Q 3をインサートし、周波数を動かすオートメーションを書いてフィルタリングしました。

UVI Falconのシンセ系音色によるコード・パートにはFABFILTER Pro-Q 3をインサート。赤丸で示されているローパス・フィルターの周波数をオートメーションしている

UVI Falconのシンセ系音色によるコード・パートにはFABFILTER Pro-Q 3をインサート。赤丸で示されているローパス・フィルターの周波数をオートメーションしている

Pro-Q 3のオートメーション。楽曲の展開に合わせてフィルタリングで動きを付けている。オートメーションはPro Toolsで多用する機能の一つ

Pro-Q 3のオートメーション。楽曲の展開に合わせてフィルタリングで動きを付けている。オートメーションはPro Toolsで多用する機能の一つ

 さらに、グラニュラー系の揺らぎを得られるエフェクト、OUTPUT Portalもインサートしていて、これはDRY/WETをオートメーション。

Falconのコード・パートにはグラニュラー・エフェクトのOUTPUT Portalもインサート。DRY/WETのバランスをオートメーションして展開に緩急を付けている

Falconのコード・パートにはグラニュラー・エフェクトのOUTPUT Portalもインサート。DRY/WETのバランスをオートメーションして展開に緩急を付けている

 この2つのオートメーションの合わせ技で、楽曲の展開に合わせた複雑な音色を作っています。オートメーションはPro Toolsで多用する機能の一つです。ちなみに、Portalは予測のつかない変化を得られるので、よく使いますが、予測がつかなすぎて最終的に外すこともよくあります。

 なお、2つのコード・パートの使い分けは、Ignition Keysは比較的スタンダード、Falconは動きのある音色で、両者を曲の展開に合わせて出し入れしているイメージです。

 これらのコード・パートの後にベースを作りました。音源はFalconのPure Sub。

ベースは、UVI Falconに収録されているサイン波系のサブベース音源、Pure Subを使用

ベースは、UVI Falconに収録されているサイン波系のサブベース音源、Pure Subを使用

 これはシンプルなサイン波系音色のサブベースなので、ディストーション系のOUTPUT Thermalや多彩な質感変化を簡単に得られるDripなどで加工し、Roughrider 3もインサートしてキックの信号をサイドチェイン入力しています。ほかにPro-Q 3やKelvinなども使っていますが、これらは恐らく葛西君の処理でしょう。

サイン波系のベースには、ひずみ系プラグインのOUTPUT Thermalをインサートし、輪郭を付けている

サイン波系のベースには、ひずみ系プラグインのOUTPUT Thermalをインサートし、輪郭を付けている

プリセットを選ぶだけで簡単にさまざまな質感変化を楽しめるエフェクト、Drip

プリセットを選ぶだけで簡単にさまざまな質感変化を楽しめるエフェクト、Drip

 そのほか歌やストリングス、細かいシンセのオブリなどを加えて完成させました。いろいろやりすぎてトラック数がものすごいことになったので、すべては解説しきれないのですが、何となく僕の曲の作り方はイメージしてもらえたのではないでしょうか。

 次回は、ガラっと雰囲気を変えて、ストリングスをメインに使った曲作りを紹介しましょう。お楽しみに。

 

三浦康嗣(□□□)

【Profile】□□□主宰。スカイツリー合唱団長。□□□のほぼ全ての楽曲の作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱・トラックメイクを手掛けている。2023年1月には初のソロ・シングル『Sundaynight』をリリース。現在、立体音響スタジオの設立に向けて動いており、2023年中の完成を目指している。「サウンド&レコーディング・マガジン」のYouTubeチャンネルでは、Pro Toolsでのフィールド・レコーディング素材を使った曲作りのセミナー動画を配信中。

【Recent work】

『Sundaynight』
三浦康嗣

【動画セミナー】

『Pro Toolsでフィールドレコーディング素材を使ったトラックメイク』

 

 

 

AVID Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:13,900円|Pro Tools Studio:41,900円|Pro Tools Ultimate:83,900円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools Ultimate搭載の機能を継続して利用可能

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15.7以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー(APPLE M1/M2対応)
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)

製品情報

関連記事