本特集では、ストリート、カフェ、DJ、学園祭の4つのシチュエーションでライブを行うために必要な機材や設置方法など、“セルフPA”のポイントを紹介。ここでは「ストリート・ライブ」を例に、尚美学園大学教授/PAエンジニアの山寺紀康氏が解説します。
ストリート・ライブのシステム概要
車を使わずに運搬可能なセットアップ
路上で行うギター弾き語りのライブ用セットアップで、車を使わずに機材運搬を行うことを想定しています。運搬の際にはスピーカーをカートに乗せ、ギターを担ぎ、折りたたみ式の譜面台を手持ちします。また、ボーカル・マイクはハンドヘルドでなくヘッドセット型のマイクを採用することで、マイク・スタンドの運搬を不要にしています。
機材選びのポイント
パワード・スピーカー
スピーカーは、バッテリー駆動のものを選ぶことで、電源のない場所でも使用できます。その際、使用前に必ず充電を忘れないようにしましょう。持ち運べる重量であることも確認します。入力端子は、ギター弾き語りの場合にはギター+ボーカルで2ch以上が必要です。さらに、アコースティック・ギターを直接つなぐには、“Hi-Z入力”が搭載された機種を選びましょう。
そのほか、リバーブを使いたい場合には内蔵エフェクトの有無、スマートフォンなどでBGMを流したい場合にはBluetooth接続の可否などもポイントです。
【写真の使用例】MACKIE. Thump Go
◎バッテリー駆動
◎2ch以上のインプット&Hi-Z入力搭載
マイク
マイクは、ヘッドセット型のものを採用することでマイク・スタンドが不要になるので、運搬時の負担を減らすことができます。
【写真の使用例】AUDIO-TECHNICA HYP-190H
◎スタンドが不要なヘッドセット型
譜面台
譜面台も折りたたみ式のものを選ぶなど、運搬する想定をしながら機材を選びましょう。
設置のポイント
スピーカーの置き方で届く範囲が変化
スピーカーは、演奏者自身にも観客にも音が聴こえるように、演奏者の真横もしくは少し後ろに置きます。「機材選びのポイント」の写真のように、ベンチなどがある場合はスピーカーを高い位置に置くことで、より広範囲に聴かせることができます。あまり遠くまで届かない方がよい場合は、床置きがお勧めです。床置きの場合、縦置きにすると遠くに届きます。横置きで斜め上に向けると、指向性が上に向くので演奏のモニターはしやすくなりますが、飛距離は短くなります。
マイクは吹かれを防ぐ位置にセット
ボーカル・マイクはなるべく声を拾うように、顔の正面に近い角度にするのが良いのですが、口の真正面だと息が入ってしまうので、少し下げてセットしています。
音出しのポイント
歌いやすいように音量を調整
ここではスピーカー1台でモニターも拡声も担うシステムを組んでいるので、ボーカルとギターの音量バランスは、ギターを弾いたときに歌がかき消されず、自分が歌いやすいように調整しましょう。自分の歌が聴こえない場合は、ギターの音量が大きすぎるのかもしれません。スピーカー自体の音量は、音を届かせたい範囲を明確にしてハウリングを起こさないように調整します。指向角度を意識して、聴かせたい方向にスピーカーを向けることも大事です。
自然環境ではスピーカーの設定を工夫
舗装された道路など、地面がコンクリートの場合は音が反射しますが、キャンプ地などで演奏する場合、自然環境は反射するものがなく、樹木などに吸音されて割とデッドな空間になっているので、音が届きにくくなります。その場合、音量以外の調整方法としては、スピーカーを高めに設置し、正面を向けて指向範囲を広く取るようにするとよいでしょう。それでも音量が足りない場合は、スピーカーの本数を増やすことも検討しましょう。写真の環境では、マスターはフル、各チャンネルのボリュームは3時くらいに設定しました。
【特集】セルフPA入門〜機材選び/設置/音出しのポイントがわかる
講師:山寺紀康
PAエンジニア。40年のキャリアを持ち、現在も新谷祥子、磯貝サイモン、井上苑子、武藤彩未などのPAを担当。ライブ・ハウスからアリーナまで多様な現場をこなしてきた。現在は、尚美学園大学情報表現学科で教授を務めている。
取材協力:尚美学園大学 音楽と音響を愛する仲間たち