変に考えすぎず、音を整えすぎない。そっちの方がパッションのある作品ができるって思うんです
Febb as Young Mason、KID FRESINOとともに結成したユニット=Fla$hBackSの一員として2013年にデビューした、ラッパー/ビート・メイカー/DJのJJJ。2017年に発表した2ndソロ・アルバム『HIKARI』は話題を呼び、多方面から高い評価を受けた。今回、6年ぶりとなる3rdソロ・アルバム『MAKTUB』 を5月26日にリリース。JJJは全17曲中、10曲のトラックを制作しており、ほかにはSTUTS、KM、Febb as Young Masonなどがビート・メイカーとして名を連ねている。ここではJJJのプライベート・スタジオであるSOUTH CENTRAL STUDIOにて、同作の制作背景を余すことなく語っていただこう。
死にかけながら生きているようなイメージの曲
——新作『MAKTUB』は全部で17曲を収録していますが、どの段階で“アルバムにしよう”と思ったのですか?
JJJ 制作自体は2年以上前から始めていたんですけど、“アルバムの軸となる曲ができたな”と思ったのは、「Cyberpunk feat. Benjazzy」が完成したときです。Benjazzy君ともスムーズにコラボできたし、曲自体からも勢いを感じました。
——この曲は、シンセ・リフがサイケデリックかつ、ダークでカッコいいですね。
JJJ 『サイバーパンク2077』っていうゲームがあるんですけど、それのサントラみたいな音楽を作りたいなって思って。キーワードとしては“電脳世界”“人工知能”“ディストピア”辺りで、機械を体に埋め込んだりして死にかけながら生きているようなイメージの曲です。その感じを、サンプリングしたシンセのデジタル感でうまく表現できたんじゃないかと思っています。このトラックが完成したときは、すごくうれしかったですね。
——ベースの野太い音色や、グライド感も耳を引きます。
JJJ ベースは、トーク・ボクサーのKzyboost君がスタジオにMOOGのシンセを持ってきて弾いてくれました。作りかけのビートを彼に聴かせたら、“こういうベースがあるといいんじゃない?”って言って“ブーン”と一音だけ鳴らしてくれたんです。それがめちゃくちゃヤバい音でびっくりして、そこからどんどんリフを弾いてもらいましたね(笑)。
——シンセは、スタジオにあるオーディオ・インターフェースのUNIVERSAL AUDIO Apollo X6で録音されたのですか?
JJJ はい。一度アナログ・ミキサーのBEHRINGER Xenyx 1002Bを通って、そこからApollo X6に入っています。MOOGの音色設定は、Kzyboost君のオリジナルです。リアルタイムに弾いてもらい、“ここ、もうちょっとこうしてほしい”みたいなディレクションをして今のリフになりました。
“耳が痛い”って感じるくらい高域をブーストした
——今作は前作『HIKARI』と比べて、トラップ・ビートの割合が増え、アレンジも多彩になったように感じます。
JJJ そうですね。今作と前作を比べて大きく言えるのは、AVID Pro Toolsやプラグイン、そしてNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK2とそれに付属するMaschineソフトウェアといったツールを上手に扱えるようになったところ。でもその一方で、どんどんつまらなくなってきたんです。
——具体的には、どういう意味でしょう?
JJJ 例えばエンジニアリング的な話だと、EQ処理において“ここは何dB上げて、ここは何dB下げる”みたいな知識やノウハウが身についた分、逆にそのとおりにやるのが面白くなくなりました。だから、それをあえて無視して従来のようにフィーリングを重視した制作をするようにしたんです。変に“頭でっかち”にならないように作ろうって。だから意図的に音割れするようにしたり、耳に痛い帯域を残したり……そういったところが“カッコいい”っていう感覚が俺にはあるんです。だから一周回って、そういった直感的な制作アプローチを前作『HIKARI』のときよりも表現できたと思います。
——“耳に痛い帯域を残す”というのは、どのようなパートにおいての話ですか?
JJJ 例えば「Mihara」のボーカルでは、人によっては“耳が痛い”って感じるくらいFABFILTER Pro-Q 3で高域をブーストしています。でも、それが今の俺のラップに合っていると思ったんです。切り裂くような感じを表現したくて。ドラムもあえてピークを削らず、そのままの“鳴り”を生かした音作りをしています。
——「Mihara」のアウトロには、ピッチ・ダウンさせた声ネタや、DJスクラッチが入っています。
JJJ ここでは声にいろいろなエフェクトをかけて実験的なアプローチを試してみました。DJスクラッチについては、福岡に住むDJ SHOE君にお願いして入れてもらいましたね。めっちゃバチバチに裏拍を意識した、DJプレミアみたいなスクラッチが最高なんです。これができるDJって、日本ではなかなか少ないと思います。DJ SHOE君は俺のリリックをちゃんと聴いてくれて、その内容に合う声ネタを選んでスクラッチしてくれました。
オーディオ・データのMP3感がすごく重要
——クレジットを確認したところ、JJJさんは「Mihara」のほかに、「U feat. C.O.S.A.」と「Something feat. Campanella」の計3曲をミックスされていますね。
JJJ はい。トラックとボーカルの両方をミックスしているというのが、その3曲です。基本的にはアルバムの全トラックをミックスしています。人にミックスを触られたくないんですよ。ただボーカルやラップ周りの処理が苦手なので、これらをD.O.I.さんやThe Anticipation Illicit Tsuboiさんにお願いしているんです。
——今作のトラックは、すべてご自身によるミックスだったんですね! 「Mihara」で面白いなと思ったのは、スネアをRchに、リバーブ音やノイズをLchに配置するという斬新な音像です。
JJJ もともとサンプリングした素材がそうなっていたので、あえてそのまま使ったんです。普通だったらスネアが真ん中に来るように調整すると思うんですけど、“普通”ってめっちゃつまんないんで。で、ノイズとかも除去せずに、そのあらあらしさを逆手に取って“嵐の中”っていうイメージを表現したんです。昨年の夏に伊豆大島にある三原山に行ったんですけど、山が持つパワーみたいなものを感じてしまって……俺はスピリチュアルとか信じないタイプなんですが、なぜか帰宅したらめっちゃ曲が作れてしまって、そのままタイトルになりました(笑)。虫の鳴き声とかも入れています。
——JJJさんが作るトラックの上モノのほとんどはサンプリングによるものだと思いますが、音源ソースは何からですか?
JJJ 基本的にはネット上のオーディオです。もちろんレコードからサンプリングすることもあるんですけど、“今の音って何だろう”っていうのを意識したとき、ネット上にあるオーディオ・データのMP3感というか、圧縮された感じがすごく重要だと思っていて。昔のようにレコードからサンプリングする手法がカッコいいというのも分かるんですが、ずっとそのままっていうのが一番つまんないって思うんです。だから、レコードから良いネタを見つけたら、わざわざ同じ曲をネット上で探してサンプリングするってこともよくやるんですよ。レコードの音もいいけど、MP3データの音もいいんじゃないかと思って。
——今回、SpliceのようなWebサービスは使いましたか?
JJJ もちろん、Spliceからダウンロードしたサンプルを使った曲もあります。でも、“サンプルを集めたので、これらの中からなら自由に使っていいですよ”っていう状況になると、どうも気分が乗ってこないんです。そんなぬるま湯みたいなところからサンプリングしたってテンションが上がらないし、インスピレーションも湧かないんですよね。自分自身でサンプリング・ネタを探すというところに、一番ワクワクします。
——ちなみにトラックを作るとき、ソフト・サンプラーは何を使用されていますか?
JJJ SERATO Serato Sampleです。カットアップも簡単に行えるので愛用しています。
FL Studioは“2nd DAW”としてもあり
——今作で意外に思った曲は、2ステップのビートを採用した「Taxi(feat.Daichi Yamamoto)」です。これまでのJJJさんの作風と比べても、かなり新しい試みですよね?
JJJ 何となくUKガラージとか2ステップっぽいトラックを作りたいなと思っていて、でもそのままビートをまねるのも退屈だなと考えたので、途中でスネアを抜いたりしてオリジナリティを出してみました。
——ドラムのリム・ショットが、かなり音抜けして聴こえます。
JJJ 後からMaschineソフトウェア上でドラム・パーツの音色を差し替えることを結構やるんですが、そのときにこのリム・ショットの音がうまくトラックにハマったんです。やっぱりスネアってビートの“顔”だと思うので、スネア選びは納得のいくまで行います。俺、めっちゃスネア好きなんで(笑)。
——JJJさんは、どのような音色のスネアが好きですか?
JJJ マニアックな質問ですね(笑)。いっぱいあるんですけど、昔から好きなのはThe Beatnuts「Watch Out Now」に登場するスネアが、1990年代ニューヨークのハーレム感がすごく出ていて好きです。やっぱり粒立ちの良い音を好む傾向がありますね。
——このほか「Taxi」で注目すべきは、キックがステレオでべースがモノラルという点でしょうか。
JJJ そこ、かなりこだわってます。この曲は音数が多いので、ミックスにおける配置についてはいろいろと悩んだんです。キックがモノラルでベースがステレオっていうのは割と一般的だと思うんですが、キックがステレオっていうのはこれまでにやったことがないし、かなりぶっ飛んでいるんじゃないのかな?って思います(笑)。いろんなエフェクトをキックに試しているときに、あるプラグインを挿したら“おお、これは新しい感じだな”っていう発見があったんです。
——それは、何というプラグイン・エフェクトでしたか?
JJJ IMAGE-LINE FL Studioに付属するFruity Stereo Shaperです。今回からFL Studioを導入しているんですよ。Fruity Stereo Shaperは音のステレオ感を広げるためのもので、キックに使うのは本来間違っていると思うんですが、逆にそういうのが“良い”と考えていて。曲作りは自由なので、常識にとらわれない方がいいんです。あと、FL Studioってたくさんエフェクトとかインストゥルメントが付属してくるじゃないですか。俺はどちらかというと、そういうのを使うために購入した感じですね。めっちゃいいんですよ、FL Studioの付属エフェクト。ちなみにFL Studioは手ごろな価格なので、“2nd DAW”としても全然ありだと思います。
——ヒップホップのビート・メイカーには、FL Studioユーザーの方も多い印象です。
JJJ そうですよね。今作を制作するにあたって影響を受けたビート・メイカーの一人に、Cardoっていうアメリカ人がいるんですけど、彼もFL Studioユーザーなんです。ドレイクとかケンドリック・ラマーの曲を手掛けている人で、何がヤバいかって、彼のビートの“鳴り”なんですよ。言葉で表現するのが難しいんですが、良い意味で“不良”みたいな音がして魅力的です(笑)。いろいろ調べた結果、Cardoだけじゃなく他の気になるビート・メイカーたちもみんなFL Studioユーザーだったので、俺も試してみたくなったんです。
PELUSO P-67の使いこなし方が分かってきた
——ご自身のラップ・レコーディングは、このスタジオで?
JJJ はい。他のスタジオで録ったこともあるんですけど、絶対納得できないんです。あと自分自身の中で“こうやればこういう音になる”っていうのが、この環境でもう分かっているので。マイクとかプリアンプとか、普段と異なる機材や環境で録ると“なんか違うな”ってなってダメなんです」
——マイクは何を使っていますか?
JJJ コンデンサー・マイクのPELUSO P-67です。『HIKARI』のときから使っているんですけど、近年コイツの使いこなし方がやっと分かってきたんです。Apollo X6に挿して、Pro Toolsで録っています。FL Studioで作ったビートも含め、編集&ミックスはすべてPro Toolsで行っていますね。ラップの処理は、まずPro-Q 3で高域をめっちゃブーストして、WAVES DeEsser、CLA-3A、Renaissance Voxをきつめにかけ、最後にFABFILTER Saturn 2でバリらせます(編注:バリバリさせるという意味)。こうすると、ラップがめちゃくちゃ滑舌良く聴こえるんですよ。
——すぐにでもまねしたくなるテクニックですね。
JJJ ありがとうございます! 『MAKTUB』はミックス面でもかなりこだわった作品なので、その辺りも聴いてもらえるとうれしいです。FL Studioで作った“ワル・カッコいい”ビートもポイントですね(笑)。あとビート・メイカーには、音割れやノイズとかをカッコいいと思ったら、勇気を持ってあえてそのままにしておくことを伝えたいです。変に考えすぎず、音を整えすぎないみたいなところが大事なのかな。そっちの方がソウルがあるっていうか、パッションのある作品ができるって思うんですよ。次回はDaichi YamamotoとEPを出すので、今後もよろしくです!
"音割れやノイズをカッコいいと思ったら、勇気を持ってあえてそのままにしておく"
Release
『MAKTUB』
JJJ
(FL$Nation / AWDR/LR2 / スペースシャワー)
Musician:JJJ(rap、prog)、Benjazzy(rap)、sogumm(vo)、OMSB(rap)、KEIJU(rap)、Campanella(rap)、Daichi Yamamoto(rap)、C.O.S.A.(rap)、SPARTA(rap)、DJ SHOE(dj)、STUTS(prog)、Keigo Iwami(b、prog)、Yusei Takahashi(k)、Jgkeyz(k)、Nik Sliwerski(vo)、Kzyboost(vo、k)
Producer:JJJ、SCRATCH NICE、Febb as Young Mason、ouidaehan、nosh、KM、16FLIP、STUTS
Engineer:D.O.I.、The Anticipation Illicit Tsuboi
Studio:Daimonion Recordings、RDS Toritsudai、SOUTH CENTRAL STUDIO