TAKUYAのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

TAKUYAのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

元JUDY AND MARYのギタリストで、国内のみならず、アジア圏のアーティストのプロデュースや、大黒摩季のツアーに参加するなど、多方面で活動するTAKUYA。彼が所有する54itスタジオについて、本人と、スタジオをシェアしているエンジニアの檜谷瞬六氏から話を伺った。

ホーム・レコーディングができる時代を待っていた

 TAKUYAはホーム・レコーディングができるようになる時代が来ることを想定して、この部屋を所有していたという。

 「JUDY AND MARYで活動していた頃はまだレコーディングに大きなコンソールが必要だったのですが、そんな時代も近い将来終わるだろうと思って、時期が来るのを待っていたんです。それで、あるときAVID Pro Tools|HDが発売されて、“これでホーム・レコーディングができるようになった!”と思い、このスタジオを本格的に作ることに踏み切りました」

 スタジオの構造にもこだわりがあるという。

 「世界中の“一流”と言われるスタジオに仕事をしに行って、どんな機材が使われているのか、どんな環境になっているのかを勉強したり、機材をコツコツ買ったりしていました。このスタジオは、“このスペースにはこれが一番良いだろう”と思える状態になっています。壁にはしっくいを使用し、適度に音を吸収しつつもデッドになりすぎないようにしていて、床にはコーティングされていない木を使用しました。トイレをエコー・ルームにできるように設計したりもしていますね。スタジオ物件ではないながらも電源もできることはやっていて、エアコン用の200Vからユニオン電機製のダウン・トランス経由で引いていたり、信濃電気やCSEのレギュレーターを使用して、60Hzのクリーン電源を供給したりしています」

デスク周り。DAWはAVID Pro Toolsを使用。コントローラーGRACE DESIGN M905や、補正ソフトSONARWORKS SoundID Referenceが立ち上がったモニター画面が見える

デスク周り。DAWはAVID Pro Toolsを使用。コントローラーGRACE DESIGN M905や、補正ソフトSONARWORKS SoundID Referenceが立ち上がったモニター画面が見える

モニター・スピーカーECLIPSE TD510MK2。JUDY AND MARYのプロデュースをしていた佐久間正英氏も愛用していたという。「このスタジオは部屋の形が少し変わっているのですが、これはそういう影響を受けにくい気がします」と檜谷氏。スピーカー・ケーブルはACOUSTIC REVIVEのものを使用。デスクの下にECLIPSEのサブウーファーTD520SWも設置する

モニター・スピーカーECLIPSE TD510MK2。JUDY AND MARYのプロデュースをしていた佐久間正英氏も愛用していたという。「このスタジオは部屋の形が少し変わっているのですが、これはそういう影響を受けにくい気がします」と檜谷氏。スピーカー・ケーブルはACOUSTIC REVIVEのものを使用。デスクの下にECLIPSEのサブウーファーTD520SWも設置する

54itスタジオで使用されるマイク類の一部。左からSHURE SM7B、TELEFUNKEN Ela M 250 E、AKG C12、NEUMANN U47タイプのSTAM AUDIO SA-47、TELEFUNKEN TD19C。Ela M 250 EやC12は、オリジナルのモデルである

54itスタジオで使用されるマイク類の一部。左からSHURE SM7B、TELEFUNKEN Ela M 250 E、AKG C12、NEUMANN U47タイプのSTAM AUDIO SA-47、TELEFUNKEN TD19C。Ela M 250 EやC12は、オリジナルのモデルである

 現在はエンジニアの檜谷氏も、活動の拠点として54itスタジオを使用している。TAKUYAが手掛けるプロジェクトについても、ギターやボーカルのダビングからミックスまで、檜谷氏がここで行うことが多いそうだ。氏はこう語る。

 「10年以上前に仕事を気に入っていただき、このスタジオを使用してやってみないかと誘ってもらいました。それ以降少しずつ使用頻度を増やし、数年前からは自分の機材も常設してミックスやダビングの拠点とさせてもらっています。僕が使いやすいようにカスタマイズすることも許可されているので、TAKUYAさんの作曲用スタジオであり、僕のプライベート・スタジオでもあるという感じですね」

ミックスの確認に使うというスピーカー群。「ECLIPSE TD510MK2は少し特殊なスピーカーなので、TEAC WS-A70をクライアントのモニタリングによく使用します。スピーカーとしての性能が高く、一組のモニター・スピーカーとしても重宝しています」と檜谷氏。最下段のYAMAHA NS-10MMは、楽曲の要素が中域のスウィート・スポットにバランス良く収まっているかどうかの確認に使用するという

ミックスの確認に使うというスピーカー群。「ECLIPSE TD510MK2は少し特殊なスピーカーなので、TEAC WS-A70をクライアントのモニタリングによく使用します。スピーカーとしての性能が高く、一組のモニター・スピーカーとしても重宝しています」と檜谷氏。最下段のYAMAHA NS-10MMは、楽曲の要素が中域のスウィート・スポットにバランス良く収まっているかどうかの確認に使用するという

檜谷氏がミックスの作業に使用するヘッドフォン。左からSONY MDR-M1ST、AUDEZE LCD-XC。これらに加え、ミックスの終盤にはAPPLE AirPods Maxも使用するそう

檜谷氏がミックスの作業に使用するヘッドフォン。左からSONY MDR-M1ST、AUDEZE LCD-XC。これらに加え、ミックスの終盤にはAPPLE AirPods Maxも使用するそう

ヘッドフォン・アンプのSPL Phonitor2はAUDEZE LCD-XCとセットで使用。上に乗っているのは檜谷氏がミックスの際に使用するコンパクト・エフェクター類

ヘッドフォン・アンプのSPL Phonitor2はAUDEZE LCD-XCとセットで使用。上に乗っているのは檜谷氏がミックスの際に使用するコンパクト・エフェクター類

JUDY AND MARYのレコーディングの際にも使用されたというNEVEの10chコンソール。現在はECLIPSE TD510MK2のサウンドを滑らかにする狙いで、モニター回線上に使用している

JUDY AND MARYのレコーディングの際にも使用されたというNEVEの10chコンソール。現在はECLIPSE TD510MK2のサウンドを滑らかにする狙いで、モニター回線上に使用している

TAKUYAが所有するギターの一部。左からJOURNEYMANのTLタイプ、 FERNANDES JAM-95T JUDY AND MARY TAKUYA Model

TAKUYAが所有するギターの一部。左からJOURNEYMANのTLタイプ、 FERNANDES JAM-95T JUDY AND MARY TAKUYA Model

本物の機材にぜひ触ってみてほしい

 54itスタジオには、TAKUYAと檜谷氏が所有するビンテージのアウトボードが数多く並ぶ。特に愛用しているというMotown EQ(モータウン・レコードの自社スタジオ用EQ)を手に入れた際のエピソードを、檜谷氏が話してくれた。

 「ナッシュビルのブラックバードという、世界で一番機材を持っているかもしれないスタジオがあるんです。そこで初めてこれの黒いモデルを見せてもらって。それにすっかり影響を受けてしまい、出物の情報を得てスタジオで購入しました。周波数のレンジは決して広くはないのですが、どんな楽器に使用しても、EQしているというより音色が変化していくような不思議な感覚です。自分が気づかなかった良い音を学べるというのは、プラグインにはないアナログ機材の魅力かなと思っています。TAKUYAさんからもギターをこれに通してほしいという要望をよくもらいますし、ボーカルに関しては録音のチェインに入れてしまうことも多いですね」

 ラックの下段に収められたFAIRCHILD Model 670やGATES Sta-Levelなどは、TAKUYAがJUDY AND MARYで活動していた頃から使っていたものだ。

 「今全部動いているのは奇跡と思えるほどよく故障しますが、メインテナンスを繰り返しながら使用しています。FAIRCHILDやGATESのアウトボードは今でもミックスにテイストを加えるのに重宝します。これらにしか出せない色を持っている機材たちですね」

ラックに収められたアウトボード類。ミックス・バスまたはステム・データに倍音や質感を付加しながら一体感を得るという用途で使用している。メインで使用しているオーディオ・インターフェースのPRISM SOUND ADA-8は「ただ解像度が高いだけではなく、音に雰囲気があるのが気に入っています」と檜谷氏。右側上から2段目のMANLEY Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、コンプレッションしたときに少し“もちっ”としながらまとまっていくのが独特で、これにしか出せない味があるという。右側上から4段目のMotown EQはモータウン・レコードの自社スタジオ用に設計されたという7バンドEQ。TAKUYAと檜谷氏が特に愛用している

ラックに収められたアウトボード類。ミックス・バスまたはステム・データに倍音や質感を付加しながら一体感を得るという用途で使用している。メインで使用しているオーディオ・インターフェースのPRISM SOUND ADA-8は「ただ解像度が高いだけではなく、音に雰囲気があるのが気に入っています」と檜谷氏。右側上から2段目のMANLEY Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、コンプレッションしたときに少し“もちっ”としながらまとまっていくのが独特で、これにしか出せない味があるという。右側上から4段目のMotown EQはモータウン・レコードの自社スタジオ用に設計されたという7バンドEQ。TAKUYAと檜谷氏が特に愛用している

左側の棚にはCOLLINS 26W Limiting Amplifier、右側には上からデジタル・ディレイのLEXICON PCM 42、パワー・ディストリビューターのTASCAM AV-P250、コンプレッサーGATES Sta-Level、FAIRCHILD Model 670。Model 670は、ミックス・バス上ではVERTIGO SOUND VSM-2でドライ/ウェットをミックスし使用している

左側の棚にはCOLLINS 26W Limiting Amplifier、右側には上からデジタル・ディレイのLEXICON PCM 42、パワー・ディストリビューターのTASCAM AV-P250、コンプレッサーGATES Sta-Level、FAIRCHILD Model 670。Model 670は、ミックス・バス上ではVERTIGO SOUND VSM-2でドライ/ウェットをミックスし使用している

上からマイクプリのAPI 3124、NEVE 1081×2、NEVE 2254/E×2、ビンテージのリミッター/コンプレッサーのGATES M3529B。TAKUYAはギターを録音する際に、KEMPERのアンプ・シミュレーターで音作りをした後、NEVE 1081を通して音の情報量を補うという

上からマイクプリのAPI 3124、NEVE 1081×2、NEVE 2254/E×2、ビンテージのリミッター/コンプレッサーのGATES M3529B。TAKUYAはギターを録音する際に、KEMPERのアンプ・シミュレーターで音作りをした後、NEVE 1081を通して音の情報量を補うという

ボーカル・ブース。マイクは、TELEFUNKEN Ela M 250E。ヘッドフォンは、SONY MDR-CD900ST

ボーカル・ブース。マイクは、TELEFUNKEN Ela M 250E。ヘッドフォンは、SONY MDR-CD900ST

ボーカル・ブース内に、マイクプリNEVE 1067を設置しマイクからの距離を短縮

ボーカル・ブース内に、マイクプリNEVE 1067を設置しマイクからの距離を短縮

 多くのビンテージ機材を活用しているTAKUYAと檜谷氏。ホーム・レコーディングができる時代になったからこそ、こういった実機にしか出せない色が重要になるのかと尋ねると、TAKUYAは次のように答えてくれた。

 「オールドな機材が絶対に必要なのかどうかは、今となっては分からない部分でもあるけど、多分今の時代、実機をプラグイン上の絵として認識している人が世の中の99%だと思うんです。このスタジオには本物があるからぜひ触ってみたら、と思いますね」

 

TAKUYA

TAKUYA
ギタリスト/ソングライター/プロデューサー。1993年にJUDY AND MARYのギタリストとしてデビューし、多くのヒット曲の作詞/作曲を手掛ける。1997年にはROBOTSでソロ・デビュー。現在は国内のみならず、アジア圏で活躍するさまざまなアーティスへの楽曲提供やプロデュースを行っている

 Recent Work 

『Major Debut 10th Anniversary Album 中吉』
私立恵比寿中学
(Sony Music Labels / SME Records)

 

檜谷瞬六

檜谷瞬六
現在は54itスタジオを活動拠点としているレコーディング/ミキシング・エンジニア。prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスで活動しており、ジャズをメインにアコースティック録音の名手として知られている

次に欲しい機材は…?

 ミックス時のモニター環境の改善というのはずっと取り組み続けているテーマです。普段とても頼りにしているヘッドフォンAUDEZE LCD-XCからのアップグレードを期待して、AUDEZE MM-500が欲しいと思っています。

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