オオハシヒロミチ(KINO-MODERNO)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

オオハシヒロミチ(KINO-MODERNO)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

個性的なデザインと機能を備える世界各地の珍しい楽器に囲まれた一室

 1990年代から活動する電子音楽デュオKINO-MODERNOのメンバー、オオハシヒロミチ(DAT PLANET)。今月、1960年代〜1980年代に生まれた貴重で個性的な国産電子楽器を中心とするアート・ブック『珍電子楽器LOVE STRANGE SYNTHESIZERS OF JAPAN HIROMICHI OOHASHI COLLECTION』を上梓した。自宅スタジオには、古今東西あらゆる国の楽器が集結。自らを「コレクターではない」と語るオオハシに話を聞いた。

Text:Satoshi Torii Photo:Hiromichi Oohashi

どんな音が出るのか想像する楽しさ。完動品は期待していない

 見慣れない機材や楽器が所狭しと並ぶオオハシのスタジオ。既に一般的には流通していないものや限られた台数しか製造されていないもの、DIYによる一点ものなどが中心だ。レア楽器を多数所有していることで世界的に有名な、ディーヴォのマーク・マザーズボーとも交流しているそうで、膨大なラインナップがここにはそろっている。まずは、これほど集めるに至った経緯は何なのかを伺った。

 

 「1979年に初めてシンセを買ったとき、シンセ雑誌をいろいろ見ていたらKAWLABO Shamitronとか変わったシンセを集めたページがありました。それを見た瞬間、普通のシンセよりこっちの方が欲しい!と思ったんです。ただ当時は入手する方法が無く、手に入るようになったのは2000年前後くらい。ネットで個人売買ができるようになってからです」

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DAT PLANET STUDIOのコントロール・ルーム。モニター・スピーカーのAURATONE 5CTVを頭上に設置しているのは、音が上から聴こえる方が好みのため。メインのコンピューターはAPPLE iMacで、DAWはLogic Pro。中央のPower Mac G4は過去の音源を呼び出すときや、現行のOSに対応していないソフト・シンセを起動するためのもの。オーディオI/OのRME Ladyfaceは、Babyfaceの限定カラー・モデル

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セッション・ルームでは、サブウーファーのJBL Control SB-5を使用。写真左奥が世界初の電子三味線、KAWLABO Shamitron。左手前にある茶色の機材はヨーロッパ民族音楽に特化したドイツ製の音源モジュール、HEM Volks Sound Module

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写真左が、ハンドメイドのドイツ製アナログ・ステップ・シーケンサーで、顕微鏡を入れる箱をリサイクルして作られている。中央はイギリス製セミモジュラー・シンセのANALOGUE SOLUTIONS Red Square。右がROLAND TR-606の改造品、TR-686 Transistor Rhythm。さまざまな機能拡張が施されており、手前にある黒いノイズ・マシンを使えば、シンバルがノイズ・シンセの音に切り替わる

 KINO-MODERNOとしての活動では、ROLAND TB-303やTR-808などの定番機材も使用しているというオオハシに、珍電子楽器が持つ魅力をさらに聞いた。

 

 「デザインがかわいいとか変わっているとか、本体が木でできているとかしていて愛着が湧くんですよ。一体どんな音が出るんだろうと想像するだけで楽しいし、ワクワク感もありますよね。ほかには無い特殊な機能が付いているものも多いです。誰でも持っているようなシンセだと弾いているうちにだんだん飽きてきてしまって、だったら面白い楽器を使った方がいいんじゃないかと思っています」

 

 個人売買と聞くと、壊れて動かない機材も多いのでは無いかと心配すると、オオハシから返ってきた答えは「完動品を求めていたらダメですね」というものだった。

 

 「大体壊れています(笑)。届いたらまず開けてパーツの状態をチェックして、徐々に電源を入れるようにしていますね。修理するのも楽しいんですよ。もし機材の中身が無い状態でも、次に出てきたときに入れ替えるために買っています。ニコイチ、サンコイチが普通の世界なんです。苦労はするんですが、それだけに直ったときには格別のうれしさがあります」

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「日本で一番謎のシンセ」とオオハシが言うMIZUNO Supersizerμ。スポーツ用品メーカーのMIZUNOが発売しており、本体左のスピーカーから凶暴なノイズ・サウンドを発する。木製の本体デザイン含め、音や機能のすべてに妥協の無い美意識が感じられるとのこと

自由な発想の珍電子楽器。曲作りの主導権は楽器にある

 DAT PLANET STUDIOは、セッション・ルームとコントロール・ルームの2部屋で構成。両部屋はシステムがリンクしており、演奏した音をどちらの部屋にも送れるようにしている。オオハシは「曲作りの主導権は楽器にあります」と語る。

 

 「こういう機材を使って最初からテーマがあるというのはあり得ないので(笑)。基本的にはセッション・ルームでインプロビゼーションしたものを、コントロール・ルームで編集して曲にしています。KINO-MODERNOで制作する場合は、2人でセッションしてアイディアを出し合い、いろいろ試していくうちに新しいパターンが出来上がるというような形ですね。『珍電子楽器LOVE』付属CDは、ほぼ本に載せている楽器だけで作っているのですが、結構面白いものができましたよ」

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セッション・ルームのメイン・スピーカーはJBL J216 Proで、ミキサーにVESTAX AA-88、コンプレッサーに同社SL-201MKIIを用意。システムにはアンビエンス・ステレオ・コントローラーのTECHNICS SH-3060が組み込んであり、3D的に音場を広げている。なおセッション・ルームとは別に、大量の機材を収納するための部屋も用意している

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シーケンサー類。左下から時計回りにMMP Sequencer、SIGNAL ARTS Maps、UNDEAD INSTRUMENTS TimefrogIII、ELECTRO HARMONIX Sequencer Drum、FYRD INSTRUMENTS MCPで、中央がLATRONIC Notron。MMP Sequencerは、オオハシいわく“世界で唯一の鍵付きシーケンサー”。本体右上に搭載する鍵をかけると、他者がシーケンスを設定できないようになっている

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スピーチ・シンセ類。世界中の音声翻訳機や音声電卓がそろう。同じ製品でも各国の言語ごとにバージョン違いがあり、オオハシは翻訳機だけでも数十台所有している。中央右のTEXAS INSTRUMENTS Language Tutorは、クラフトワークも使用したものだ

 最近の楽器も買っているが、定着することは少ないという。

 

 「音が良いというだけなら一般的なものの方が優れていると思いますが、重要なのは形と演奏方法です。デザインを含め、トータルで見たときに存在的な面白さがありますよね。そこから自分で創意工夫していく過程が音楽的だと思います」

 

 ただし、レアな楽器との出会いは一期一会。手に入れることができず、長く後悔しているものもあるようだ。

 

 「あるだけでありがたいと言うか、状態が悪いからほかのものを買おうと思っても次に出会えるのは20年後かもしれない。だから、どんな形であっても出会った時点で買わないといけないんです」

 

 世界各地の珍電子楽器には、その土地の民族性が反映されたものも多い。オオハシが一番興味のある部分だと言う。

 

 「日本だと琴シンセ、ドイツには他人がいじれないように鍵の付いたシーケンサー、韓国にはカラオケが死ぬほど入ったグルーブ・マシンもある。本気で面白いことを電子楽器でやりたかったというのが伝わってきます。自由な発想がそのまま形に、というのは量産品だとできないでしょうから」

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写真中央が韓国製グルーブ・マシン、ELF E-505。カラオケが大量に収録されており、ボコーダーも付属している。リズム・マシンや音源モジュールとしても使用可能。奥の左右にあるのは、電子打楽器のNINTENDO Ele-Conga。左下は、カエルの声に特化したアナログ・シンセ音源モジュールのBLUE LANTERN CLONES Toad Synth。右にある人の顔の形のものは、バイノーラル録音用のハンドメイド・マイク

 中にはクラフトワークが『コンピューター・ワールド』で使用し、世界に4台ほどしか無いと言われるシーケンサー、FRIEND-CHIP Mr.Labなど希少価値の高い機材もある。ただオオハシは、自身をコレクターとは考えていないそうだ。

 

 「コレクションしているという意識はあまり無くて、単純に面白いものを買っているということです。コレクターは買った時点で満足するところもあると思うのですが、あくまで大事なのはどんな音がしてどういうことができるのか。珍しいから欲しいという考えではなくて、音や機能、形の美しさに好奇心をかき立てられていますね」

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FRIEND-CHIP Mr.Lab Modular System。クラフトワークが『コンピューター・ワールド』で使用したステップ・シーケンサーであるMr.Labをメインに、リズム・マシンのRhythm-Lab、カスタム・モジュラー・シンセ、アルペジエイター、データ・カセットなどをオリジナル・ケースに埋め込んだシステム。縦横が各1mほどある。オオハシが『コンピューター・ワールド』を聴いて衝撃を受けて以来、入手するまでに30年かかったという。現在KINO-MODERNOでMr.Labを使って『コンピューター・ワールド』をカバーするライブ企画を進めているとのことだ

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE iMac、Power Mac G4、COMMODORE C64
DAW:APPLE Logic Pro、WAVEFORM MusiCalc(C64) 
Audio I/O:RME Ladyface
AD/DA Converter:BEHRINGER ADA8000
Interface:JL COOPER 8 Channel CV To MIDI Interface 
Controller:GENERALMUSIC PRP7、CHARLIE LAB Digitar、TECONTROL Midi Breath Controller、NU-DESINE Alphasphe

 Recording & Monitoring 
Recorder:ALESIS Masterlink ML-9600、TASCAM DA-20MKII
Monitor Speaker:JBL J216 Pro、JBL Control SB-5、AURATONE 5CTV
Microphone:SONY Rights Microphone(Replica)
Mixer:VESTAX AA-88、ALESIS Multimix 12
Audio Amp:LUXMAN Model SQ301
Video Synthesizer:BLEEP LABS HSS3jb

 Instruments 
Synthesizer:FRIEND-CHIP Mr.Lab Modular、ROLAND SYSTEM-100、SH-101、TB-303(WFM)、RED SOUND SYSTEMS Elevata、GOOGLE NSynth Super
Sequencer:FRIEND-CHIP Mr.Lab、DR.BOHM Sequencer(MOD)、LATRONIC Notron、GENOQS MACHINES Nemo(Black Sea)、4MS BendMatrix、MANIKIN ELECTRONIC Schrittmacher、MAM SQ-16、SIGNAL ARTS Maps
Rhythm Machine:BEAT KANGZ BeatThang、ROLAND TR-808(WFM)、TR-606、THAIKIDS Thai Rhythm Box
Rhythm Sequencer:SIMMONS SDS-6、FRIEND-CHIP Rhythm-Lab
Groove Machine:Dr.BOHM Bohmat、WERSI CX1、SKYLARK ARC1001、ELGAM Carousel
Acoustic Instruments:Orie-Tone、Cosmophone
※所有機材の一部を抜粋。『珍電子楽器LOVE』掲載品は除外

 

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オオハシヒロミチ

アーティスト。DAT PLANET PRODUKT主宰。電子音楽デュオKINO-MODERNOのメンバー。小社より『珍電子楽器LOVE STRANGE SYNTHESIZERS OF JAPAN』を刊行(付属CDにはKINO-MODERNOによる珍電子楽器のセッションを収録)。

 Recent Work 

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