親しみのある楽器でありながら千差万別。それがピアノの面白さであり、膨大な数のピアノ・ソフト音源が市販されている理由でもあるのでしょう。本企画では話題の14製品をピックアップして、作編曲家の牧戸太郎さんにレビューしていただきました。また、各製品の試聴音源では、牧戸さんにタイプの異なる3つのフレーズを制作していただいたので、好みに合うサウンドを探してみてください!
物理モデリングとサンプリングを融合させ演奏性と表現力を向上
Ivoryの最新バージョンは、新たに“RGBテクノロジー”を採用し、サンプリングと物理モデリングを融合した製品に進化。新規に録音されたSTEINWAY D-274のサウンドをベースに、新たな表現力を獲得した。Continuous Velocity to Timbre機能により滑らかなダイナミクスの変化を実現し、ハンマーの硬さ、打鍵キャラクターなども変更可能となり、従来から定評のあるハーモニック・レゾナンスも強化された。MIDI 2.0の65,536段階ベロシティにも対応する。
サウンドの印象
Ivory 3で音を録り直したと聞き、そのサウンドがどう変化したのか気になっていたのですが、実際に演奏してみるとサウンド・キャラクターは従来の系譜を引き継いでいると感じました。その特徴を一言で表すと“センスの良い個性のある音”。例えば、1つコードを弾いただけでオケの中でなじみの良い密度感の音であることがすぐに伝わってきます。STEINWAYらしい倍音感と奥行きをバランスよくとらえた録音と言えるでしょう。またIvory 3になって和音の混ざりがさらに良くなりました。これは特にオクターブを押さえたときに顕著で、ピアノという箱の中で2つの音が共鳴しあって、2音ではなく一体となる感覚を得られます。この箱の中で複数の音が一体となるという現象はピアノにとってとても大事なのですが、Ivory 3ではその響きを見事に表現しています。
演奏性
物理モデリングにより滑らかなダイナミクスが実現されたことで、生ピアノさながら思い通りの演奏が可能です。ピアニッシモからフォルテッシモまでのダイナミクスを必要とするリストやラフマニノフなどの大曲を弾いても大丈夫という安心感があります。これは本当にすごいことで、弾くのが楽しくなります。低音部から高音部まで、ピアノという箱自体が鳴っているサウンドを感じられることも、演奏のイマジネーションを刺激することにつながっています。
ジャンル感
オールマイティです。前述した通り、クラシックやテクニカルな楽曲の演奏にも十分対応できますし、ロックに使っても面白いでしょう。中域の密度感が素晴らしいのでコード・バッキングでも活躍してくれます。
音作りの自由度
多彩なパラメーターが装備され、音作りの幅が格段に広がりました。例えばマイクは、クローズ、MS、アンビエントの3種類を最大4本使えます。各マイクのバランスはミキサーで調節できますが、各チャンネルには3バンドEQ、コンプ、アンビエンス、コーラス/ディレイなども用意されているので、じっくり音作りが行えるでしょう。
まとめ
従来のバージョンの音色を引き継ぎつつ、さらに深みを増したサウンドと高い演奏性、そして幅広い表現力を備えた製品です。
製品情報
- 価格:39,600円
- 音源方式:サンプリング&物理モデリング
- 容量:約42GB
- ベース・モデル:STEINWAY D-274
- 対応フォーマット:AAX(Pro Tools 2020.3以降)/AU2/VST3/スタンドアローン
REQUIREMENTS
●Mac:macOS 10.15以降(M1ネイティブ) ●Windows:Windows 10 release 1609以降(64bitのみ)●最小8コアINTEL/AMD CPU(APPLE Silicon CPU推奨)、16GB RAM以上(32GB以上推奨)、42GB以上のディスク空き容量、インターネット接続環境、iLokアカウント
牧戸太郎
東京音楽大学作曲指揮専攻映画放送音楽コース卒業。その後、作編曲家として活動を開始し、竹内まりや、Hey!Say!Jump、King & Princeなどの編曲を手掛けるほか、映画『兄に愛されすぎて困ってます』、WOWOW『向こうの果て』、テレビ東京『先生のおとりよせ』、日本テレビ『ぴーすおぶけーき』、Hulu『社畜OLちえ丸日記』など多数のドラマ、映画の劇伴でも活躍している。