マスタリング・エンジニアが Ozoneを選ぶ理由

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森﨑雅人 【Profile】1995年音響ハウスに入社し、2000年からサイデラ・マスタリングにて17年間チーフ・エンジニアとして活躍。2018年からはTiny Voice, Productionに所属し、ARTISANS MASTERINGを立ち上げる。トム・コイン氏がマスタリングを担当したDOUBLE『Crystal』を10万回以上聴きこみ、独学でマスタリング技術を習得した異色の経歴の持ち主

 なぜiZotopeプラグインは多くのクリエイターやエンジニアに選ばれているのだろうか。ここでは長年マスタリング・エンジニアとして活躍する森崎雅人氏に、Ozoneをメイン・ツールとして選ぶ理由について話していただいた。

 

Equalizerにおける周波数は
小数点以下5桁まで入力できる

 Ozoneに出会うまでは、長年アウトボードを用いてマスタリングを行っていたのですが、あるときサンレコでスターリング・サウンドのグレッグ・カルビ氏やトム・コイン氏がOzo neを使い始めたという記事を読みました。それで気になって使ってみたら、これが非常に良い印象だったのです。

 

 具体的には、それまで使っていたハードウェアのデジタル・マルチバンド・コンプレッサーとOzone 6 Dynamics/Equalizerの見た目や操作感がすごく似ていました。そのため違和感無く操作することができたんです。またすべての周波数帯域やゲイン、Q幅などが一目で確認できるので、当時とても便利だと思いました。サウンドについてはローミッドが太く密度のある印象で、自分のマスタリングの方向性と合っていたため、“ぜひ、これから使っていきたい”と強く思ったのを覚えています

 

 そして、スタジオARTISANS MASTERINGを開設した今ではすっかりプラグインのみで完結するイン・ザ・ボックス・スタイルで作業するようになりました。DAWはMAGIX Sequoia 14で、Ozoneは最新のバージョン9を使っています。

 

 Ozone 9で一番使うモジュールは、ベーシックな Equalizer。これを多段がけすることが多いです。オペレーションの際、僕はスペクトラム・アナライザー上にあるEQポイントをマウスで動かすのではなく、目的のパラメーターに直接数値を入力する方法で操作します。なぜかというと、あとでリコールしやすいようにするためです。特に、周波数の値は小数点以下5桁まで細かく入力できるのが魅力的。わずかな違いも再現することが可能なのです。

 

 Equalizerの使い方として挙げられるのは、複数の周波数帯域を細かいゲイン値で処理することです。1つのポイントにおいて1dB以上動かすことはなく、大体0.1〜0.2dBで微調整します。EqualizerはパラメトリックEQですが、僕はたくさんのEQポイントを扱うので、グラフィックEQ的な使い方に近いのかもしれません。これまでの経験からボーカルや各パートのおいしい帯域を把握しているため、EQする周波数帯域とQ幅を正しく設定すれば、わずかなゲイン値でもめちゃくちゃ効果的に処理することが可能です。Ozone 9は全体的にとても精度が高く、効きも良い……だからこういった処理が可能なのでしょう。

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森崎氏がOzone 9で制作したストリーミング・サービス用プリセット。画面には、Ozone Vintage EQのパラメーターが映し出されている。アナログ・テープの周波数特性を再現するために、Low Boostで100Hzから下を1.0dB上げ、10kHzから上をHigh Boo stで1.0dB上げたという

Ozone 9搭載のモジュールで
アナログの質感を再現

 イン・ザ・ボックスでマスタリングする利点は、クリアで輪郭がはっきりした音を再現できることですが、アナログ独特の温かみや倍音などを表すのは難しいと言われてきました。しかし、アナログ機材の音の特徴をOzone 9の各モジュールで調整すれば、アナログ・サウンドに近付けることが可能なのです。

 

 実は最近、Spotifyなどストリーミング・サービス向けのプリセットをOzone 9で作りました。ストリーミング・サービスにはラウドネス・ノーマライゼーションといって、聴感上の音量を示すLUFS/LKFSという単位を基準としたある一定値を超えないように、“自動で音量を下げる仕組み”が導入されています。これを考慮した場合にどういった音が良く聴こえるのかというと、聴感上大きい音です。具体的には“輪郭がはっきりした、芯のある音”ということになります

 

 そのため、このプリセットを作るにあたってテーマにしたのは、1980年代テープ・サウンド。このころの音源は、音量は小さめですがストリーミング・サービス上で聴くと音像が大きく聴こえる傾向にあります。プリセットに使用したプラグインは、Ozone 9のVintage EQやVintage Limiter、Spectral Shaper、Maximizerです。

 

 手順としては、まずVintage EQでアナログ・テープの周波数カーブを再現します。次に、アナログの質感を付加するためにVintage Limiterを挿し、Analogモードでうすくかけましょう。そしてSpectral Shaperを使って、2〜14kHzにおける瞬間的なピークを抑えます。これにより、1kHz辺りの“コツっ”としたアタック感が強調され、音の芯を出すことができるのです。最後にMaximizerで音量の調整を行います。ラウドネス値は−13〜−14.0LUFSを狙って仕上げますので、あまりリダクションしないのがポイントですね。

 

 これで、Ozone 9で作るストリーミング・サービス用プリセットの完成です。僕がずっと慣れ親しんできたアナログ・テープの質感を、Ozone 9で再現することができました。ストリーミング・サービス用マスタリングについて試行錯誤している方は、ぜひこのプリセットを使ってみてください。柔らかく温かみのあるローエンドとナチュラルなボーカル、キラキラした倍音の雰囲気を体験できるでしょう。

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Ozone Spectral Shaperでは、アタック・タイムは1.0ms、リリース・タイムは10.0msに設定。2〜14kHzにおける瞬間的なピークを抑えることにより、1kHz辺りのアタック感を強調するのが狙い

マスタリングに必要なツールがそろっているため
さまざまなリクエストに対応可能

 Ozone 9は、ビギナーからエキスパートまで使えるマスタリング・ツールです。個人的には、やはりEQ/コンプがとても使いやすく、これらは僕にとって、何も意識せずに“意のままに使える”数少ないプラグインと言えるでしょう。また、Ozone 9にはマスタリングの作業に必要なツールが一式そろっているので、たとえ音楽の方向性が違うリクエストがあ った場合でも柔軟に対応することができます。

 

 またビギナーの方は、プリセットに付けられたタイトルとその設定を、よく見比べてみると勉強になります。さらにOzone 9 Advancedに付属のTonal Balance Control 2やImagerなどを上手に活用すると、より良い結果につなげられるでしょう。もちろん結果だけを求めるのではなく、そのプロセスをしっかり理解することが後の成長に結び付くのです。

 

 以前、iZotopeのチーフ・プロダクト・オフィサーであるジェリー・カロンさんが、僕のスタジオを訪問してくださる機会がありました。その際、彼が熱心に僕のOzoneの使用感をメモする姿に感動した覚えがあります。恐らくiZotopeは、世界中のユーザーからフィードバックを集めているのでしょう。こんなに素晴らしいスタッフが作っている製品ですから、今後さらに良いプラグインがリリースされることは間違いないと確信しています。そして、これからもiZotopeの新しいプラグインや技術を使ってマスタリングをすることが、楽しみで仕方がありません。 

 

製品情報

www.izotope.jp

製品に関する問合せ:メディア・インテグレーション

www.minet.jp

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