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入力信号の倍音に着眼したシンセ合成を行うリバーブ〜ZYNAPTIQ Adaptiverb

ZYNAPTIQ Adaptiverb 〜入力信号の倍音に着眼したシンセ合成を行うリバーブ

 Reviewed by 
Blacklolita
【Profile】サウンド・デザイナー/音楽クリエイター。ダブステップを軸にさまざまなダンス・ミュージックやゲーム音楽を制作する。また、サンプル・パックのデベロッパー、KYMOGRAPHの運営も手掛けている。

再合成用オシレーターを増やすと華やかな音に。指定の音程の倍音やシマー効果の調整も可能

 Adaptiverbは、従来のリバーブの姿を持つプラグインではありません。入力信号からリアルタイムに音を再合成し、斬新な響きを生成できるプラグイン・リバーブです。対応環境はMac/Windowsで、AAX/AU/RTAS/VSTに準拠。先進的で高度な音響技術、そして人工知能を融合して開発されたこのリバーブに迫ってみましょう!

 

 ユーザー・インターフェースは至ってシンプル。リバーブのエンジンを選んだり、再生成される音の倍音構成を調整したり、はたまたフィルターをかけて音の明るさや暗さを決めたりするセクションがあります。どのパラメーターも直感的な操作で音に作用するので、そのときのテンションやバイブスを落とし込みやすいのも魅力です。

 

 Adaptiverbは“Bionic Sustain Resynthesis”“Ray Tracing Reverb”“Harmonic Contour Filter”といった技術から成り立っており、仕様を理解する上で非常に重要なポイントとなります。

 

 Bionic Sustain Resynthesisは、入力信号を解析し学習。その倍音成分に着眼しつつオシレーターで信号を再生成し、自然なリバーブ・テイルを生成するというものです。これが生かされたパラメーターに言及しておくと、SIMPLIFYは再合成用のオシレーターの数を設定する部分(画面①)。

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画面① Bionic Sustain Resynthesisのパラメーター群。入力信号の倍音を元にオシレーターで音の再合成を行うのだが、そのオシレーターの数や倍音の強調、ピッチ・モジュレーション、残響の拡散具合などをコントロールすることができる

 数を増やせば、エンハンサーのような音のきらめきが得られます。RICHNESSは、5度やオクターブなど指定の音程の倍音を強化し、より色彩豊かな響きを作るパラメーター。PITCH RANDOMIZEはランダムなピッチ・モジュレーションをオシレーターに与えるもので、シマー(揺れ)効果を創出します。DIFFUSIONは音の拡散の仕方を変化させることができ、広さや密度などを意識しつつ音を作りたいときに有用。そして画面中央のSUSTAINでは、リバーブ・テイルのディケイ・タイムを調整できます。

 

残響の不協和を防ぐフィルターを搭載。自動調整/スケール指定の補正の2つのモード

 次にRay Tracing Reverb。これは、バーチャルな3次元空間での音の振る舞いをシミュレートすることで、非常に高密度で豊かなリバーブを生み出すというエンジンです。画面左下のREVERB MODELに“R-TRC”“R-TRC HD”の2つのタイプが用意されています。

 

 Harmonic Contour FilterはTRACKとKYBDの2つの動作モードを搭載(画面②)。入力信号のピッチが変わると、その残響と直前のリバーブ・テイルがぶつかり、不協和音が発生しがちだと思います。それを解決するための画期的な機能と言えるでしょう。

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画面② Harmonic Contour Filterのコントロール・セクション。中央にフィルター・モードの切り替えがあり、そのほかのパラメーターでフィルターのカットオフ周波数調整や信号へのノイズ付加などが行える

 TRACKモードを選ぶと、テイルのピッチを入力信号に合わせてリアルタイムに自動調整可能。KYBDモードは、指定したスケールに合わせて残響のピッチ補正を行うものです(画面③)。モード切り替えの下にあるHCF WEIGHTINGは、信号の高周波/低周波の量を決めるフィルター。BREATHINESSというパラメーターでは、フィルター後段の信号にランダムなノイズを足せます。

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画面③ Harmonic Contour FilterのKYBDモード。簡易鍵盤のようなグラフィックが現れ、ここでスケールを指定できる。残響をピッチ補正することで、不協和を回避可能だ

FREEZE機能で実験的なドローン制作も可能。残響の規模感で使い分けるREVERB MODEL

 それでは実際に使っていきましょう。最初に気になったのはFREEZEボタンです(画面④)。試してみると、押した瞬間のオーディオ・ソースをバッファーに保存することで、まさに一瞬の音を凍らせるように持続させることができます。持続状態でさらに信号を入力することで、IRリバーブのようなサウンド・デザインも可能。また、その手法によって作られたプリセットが用意されており、映画音楽さながらの実験的なドローンも作りたい放題です!

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画面④ リバーブのディケイやミックス・バランスをドラッグ操作で調整できるパッド。その下にはFREEZEボタンがあり、押した瞬間のオーディオを持続的に鳴らすことができる。ドローンの作成などにも有用だ

 ほかにはSIMPLIFYとRICHNESSのパラメーターが面白かったですね。まるでシンセのように自動的に残響音を再生成でき、先述の通りその生成音の数まで細かく調整することが可能なのです。例えば、フィールド・レコーディングで得た素材に対して自然界に存在しないような倍音を付加していくと荘厳な音になったり、シンプルに使っても空気感のある仕上がりになるなど非常にお勧め。INPUT AIRというパラメーターでは高周波成分を底上げできるのですが、これも一級品です(画面⑤)。空気感の自然なザラつきを加えることができ、別途マルチバンド・コンプを用意して少し抑えると、音がなじんで非常に良い感じでした。

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画面⑤ INPUT AIRでは、高周波成分をブーストすることで響きにザラつきを加え、ナチュラルな印象に聴かせることができる

 距離感が近いサウンドを作りたいときはREVERB MODELのALLPASSモード、壮大なサウンドスケープを生み出したいときはRay Tracing Reverbのモードを選択するという使い分けができるのも良いです(画面⑥)。とりわけREVERB SOURCEを思い切りSUSTAIN RESYNTH側へ振り切り、Bionic Sustain Resynthesisが本領を発揮した瞬間は震えました……! フィールド・レコーディングした環境音に対して、無限にサウンドスケープを作り出せるのが楽しくて仕方なかったです。圧倒的なテクノロジーという感じで、久々に驚かされました。

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画面⑥ REVERB MODEでは、オール・パス・フィルターでリバーブ・テイルを作る小〜中規模残響向けのALLPASS、大規模な響きを生み出すRay Tracing Reverbの2つのモードを選択可能。右のREVERB SOURCEではプラグイン内部の音声ミックスを調整でき、例えばSUSTAIN SYNTH側(最大値)に振り切ると“Bionic Sustain Resynthesisの出力+リバーブを通ったBionic Sustain Resynthesis”というミックスになる

 表情豊かで滑らかな空間を作り出す未来的なプラグインのAdaptiverb。ボーカル、ドラム、ギターやベースなどはもちろん、無限大の奥行きを感じさせるアトモスフェリック・サウンドやドローン系の音色を作り出し、楽曲により一層の深みをもたらすことができます。サウンド・デザイン面でも遺憾無く実力を発揮するであろうAdaptiverbをぜひ、試してみてください!

 

ZYNAPTIQ Adaptiverb【AI搭載】

オープン・プライス(市場予想価格:25,800円前後)

 Requirements 
■Mac:OS X 10.8以降、INTEL製CPU(2コア以上)、AAX/AU/RTAS/VST対応のDAWソフト
■Windows:Windows 7以降、2コア以上のCPU(INTEL Core I7以上を推奨)、AAX/RTAS/VST対応のDAWソフト
■共通:AAX Native 32ビットの最低必要環境はAVID Pro Tools 10.3.6以降

 

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