オーディオ・インターフェースの使い方 Q&A【応用編】

オーディオ・インターフェースの使い方 Q&A【応用編】

音楽作りに欠かせない機材の一つ、オーディオ・インターフェース。ここでは、既に音楽制作を始めている方がさらに制作の幅を広げられるよう、DSPミキサーの役割や、入出力数を増やすとできることなど、オーディオ・インターフェースを使いこなすための疑問に答えます!

◎このページで分からない用語が出てきたら、DTM用語集を参考にしてみてください。

Q. オーディオ・インターフェースの“DSPミキサー”で何ができる?

A. 録音時のモニター・バランス調整やエフェクトをかけ録りできる!

 DSPミキサーとは、オーディオ・インターフェース(以下オーディオI/O)に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)を原動力として動作するソフトウェア・ミキサーのこと。“ダイレクト・モニタリング機能”は、マイクなどの入力音とコンピューターからの再生音を混ぜるミキサー機能の一種ですが、DSPミキサーならより高度なことが行えます。

 DSPミキサーはコンピューター上の画面を操作してコントロールするのが基本ですが、中にはオーディオI/O本体で操作できるものもあります。なお、DSPやDSPミキサーはどのオーディオI/Oにも搭載されているわけではないため、製品選びの際に仕様をよくチェックしてみましょう。搭載機種には大抵、内蔵DSPへの言及があるはずです。

コンピューター上でミキサーとして操作

 DSPミキサーでできることは機種によって違いますが、代表的なものを挙げていきます。まずは“ミキサーとして使う”。いきなり名前の通りなのですが、DAWを立ち上げていない状態でもミキサーとして利用できます。また、ライブでコンピューターの音を出力する以外にシンセなどの音をまとめるデジタル・ミキサーとしても使えます。この使い方の良い点は、ボリュームなどの設定を保存できるためセッティング時間が短縮できること。リハ後に再度設定を保存すれば転換がある場合にも便利です。

別々のモニターを送ることができる

 次に“レコーディング時に使うキュー・ミックスを作成する”という用途。キュー・ミックスとは、ボーカリストや演奏者に個別のモニター用ミックスを送ることです。オーディオI/Oに入力した音をコンピューターからの再生音とミックスして、ヘッドフォン出力に送ると、キュー・ミックスを作成できます。ここまではダイレクト・モニタリング機能と同様ですが、DSPミキサーでボーカリストや各演奏者に最適なバランスを作り、個別に出力すれば、特定の人にのみクリックなどを送れます。

 また、複数人で同時に演奏する場合、それぞれのミックスのバランスを変えることもできます。もし“ヘッドフォン出力は1系統だけど、ライン出力なら何系統かある”という場合は、各ライン出力を受けてヘッドフォンに出力できる小型ミキサーなどを別途用意すれば、キュー・ミックスの作成が可能です。

コンピューターに負荷をかけずにエフェクト処理

 また、DSPミキサーにリバーブなどのエフェクトがある場合、コンピューター側にかかる負荷やレイテンシー(コンピューター処理で発生する音の遅延)を減らしながら、ボーカル録音時に歌いやすいようダイレクト・モニターにリバーブをかけたり、エフェクトをかけた音をそのまま録音=かけ録りすることも可能です。DSPエフェクトが豊富なオーディオI/Oの場合、レイテンシーが低いことを生かして“ライブ用のエフェクター”として使うこともできます。ボコーダーや解像度の高いリバーブなど、コンピューターに大きな負荷のかかるエフェクトを、オーディオI/O内部のDSPエフェクターとして使用することで、ライブでも違和感のないリアルタイムの処理が可能です。

 いずれのケースも自身の制作や活動を助けてくれる機能です。メーカーごとにミキサーの仕様も考え方も違うので、目的に合ったシーンを想定しながらチェックしてみてください。

【分からない用語はDTM用語集でチェック!】

Q. 入出力数が増えるとどんなことができるようになる?

A. 複数パートの同時録音や、ライブでのパラ・アウトができる!

キック、スネア、ハイハット、タムなど複数パートを同時に録音

 まず入力が増えてできることは、大まかに2つ。1つ目は“まとめて録れる”です。これは、ドラムのように複数のマイキングが必要な楽器や、バンドなどで複数の人の楽器や歌を一度に録るケースなどで活躍します。

シンセやリズム・マシンなど楽器をつなげたままでいつでも制作できる

 2つ目は“つなげっぱなしにできる”。シンセやリズム・マシンなど接続したい機材が多い場合、つなげ直すのは意外と大変ですよね? あらかじめ接続されていれば素早く使いはじめることができ、思いついたことをすぐに形にできますね。もちろん楽器だけではなく、プリアンプやエフェクト用途のアウトボードをつなぎっぱなしにしておいてもよいでしょう。

 多入力が可能なオーディオI/Oの場合、内蔵マイク・プリアンプが全チャンネルに備わっているもの、一部にのみ備わっているものなどさまざまなので、自分の接続したい機材や活用シーンと照らし合わせて、必要な数を考察しましょう。

メインのスピーカー出力以外に実機のアウトボードへ出力して通した音を入力可能

 続いて、出力が増える場合。ここでは“ライン出力の系統数が多いオーディオI/O”を前提にメリットを説明します。“複数の異なる音を送り出せる”ことで、さまざまなシーンで活躍します。スピーカーが複数ある場合はそれぞれを切り替えて鳴らすことができますし、DAW内の音をスピーカー・アウト以外から出力してアウトボードやアンプに送り込み、音作りをしてからDAWに戻すようなことも可能です。また、クリックを特定の出力のみに送ったり、レコーディング時の各楽器のモニター・バランスを出力ごとに変えて、複数の演奏者に送り分けたりすることもできます。

グループを分けて出力すればPAが音を調節しやすい

 バック・トラックを使用するライブでは、ステレオで出力するとPAエンジニアの方が特定の音を下げたい場合に対応が難しくなります。そこで幾つかにグルーピングして分けた音……例えばDAWやDSPミキサーを使って、“リズムを担うシーケンス”“上モノ(シンセなど)”“声(コーラスやボコーダー)”のように分けてから出力することで、PA側での調整もやりやすくなります。ただ、出力数が多くなればなるほどPA卓側でのチャンネルが必要になるので、DAWやDSPミキサー側でまとめたりするといった臨機応変さも必要です。シーケンスに合わせる場合、別途クリックの出力も確保しましょう。

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コラム:筆者・オクムラタケルがオーディオI/Oをたくさん買う理由

 理由は幾つかありますが、まずは僕がライブでコンピューターを使うというのが大きいと思います。安定性や可搬性のほか、“音質”も当然評価項目に入ってくるのですが、ここでの音質は普段好きなオーディオI/Oとは違う可能性があります。例えば、ライブで打ち込みのバック・トラックとバンドのサウンドがマッチしないというときは、オーディオI/Oの出音が硬かったり柔らかかったり、聴こえなかったり聴こえすぎたり、などが問題となることが多いです。解決の方法はさまざまですが、機種を変えれば一度に解決する可能性が高いので、いろいろ買って試していったという感じです。

 もう一つの理由として、僕はオーディオI/Oには完璧な製品が今のところ無いと考えています。プリアンプやコンバーター、DIやクロックにはそれぞれ単体の超高級な製品があり、それらをそのままくっつけると超高額になる……というのは想像できるかと思います。各メーカーそれぞれ創意工夫や取捨選択から“最適”を企画設計し、一つの箱に収める。そこに人工物としてのロマンを感じる訳です。

 現在も“安定しないけど音が好み”“音は好きじゃないけれど動作が安定している““荷物を減らしたい”“困っている人に貸す用”……など、それぞれシーンに合わせた製品を所有しています。ギター・アンプをたくさん持っている人がいますよね。ギター・アンプを変えるように、僕もオーディオI/Oを変えているのです……ってのは言い過ぎでしょうか。

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オーディオ・インターフェース特集 2022【後編】では、ステップ・アップの1台にお薦めな10万円以内で入手可能な10製品を、奥村氏のレビューとともに紹介しています!

 

奥村 建(オクムラタケル)

奥村 建(オクムラタケル)
【Profile】バンドlinesとDelawareのguitar & computer player。Buffalo Daughterのライブでのサポート・メンバーとしても活動。これまで使用したオーディオ・インターフェースは現在計29台。11月に幾つかライブを予定。詳細はSNSにて。

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