世界トップ・シェアのDJ機材ブランドPIONEER DJから新たなDJ用ヘッドフォンHDJ-CXが誕生した。HDJ-CXは耳に当てるオンイヤータイプで、さまざまアーティストからの意見を取り入れて開発されたという。DJでは普段からオンイヤータイプのヘッドフォンを愛用しているという大沢伸一に、製品開発者の畑中太門、田中要司の両氏とともにHDJ-CXのインプレッションについて伺った。
PIONEER DJ HDJ-CX
圧倒的な軽さと耐久性を兼ね備えたオンイヤーDJヘッドフォン。中音域と高音域をクリアに保ちながらタイトで力強い低音域を実現し、低域のレスポンスと遮音性が格段に向上している。価格はオープンプライス。
DJヘッドフォン選びのポイントは
音もデザインもスタイリッシュであるか ─ 大沢伸一
─ ヘッドフォンは普段どんなシチュエーションで使用されていますか?
大沢 僕の場合、ヘッドフォンを使うタイミングってすごく限られているんですね。DJのときはヘッドフォンの中ではミックスはしませんし、次の曲をかける準備のためのモニターに徹しています。スタジオではヘッドフォンでしか確認できないときに限定的に使う。あとは移動中のリスニング用としてですね。
─ 大沢さんは、DJではオンイヤータイプのヘッドフォンを使用していらっしゃいます。
大沢 そうですね。DJのときはハウジングが小さいオンイヤータイプを使っています。音も形もなるべくコンパクトでスタイリッシュに見える方が好きなので。ちなみに音楽制作では、耳を覆うオーバーイヤータイプのヘッドフォンを使っています。
─ DJはオンイヤー派とオーバーイヤー派で好みが分かれますね。
畑中 ヘッドフォンを肩と耳に挟んでモニタリングする場合はオーバーイヤータイプ、常に頭に装着してロングミックスするDJはオンイヤータイプが好まれる傾向があります。
─ HDJ-CXはオンイヤータイプのDJヘッドフォンですが、使ってみた率直な感想はいかがですか?
大沢 好きですよ。音質はフラットでなおかつクリア。これまでのPIONEER DJブランドを引き継いでいる感じがします。耳に押さえつける力も程よく、付け心地がすごく良いですね。
畑中 ありがとうございます。系譜としてはHDJ-C70、HDJ-S7を継ぐモデルですね。
現在のスタイルや音楽にマッチする
オンイヤーDJヘッドフォン=HDJ-CX
─ HDJ-CXは、どんなコンセプトで開発されたのでしょうか?
田中 ビートマッチングに求められる音のタイトさや明瞭さに加え、現代の音楽に合うように解像度を上げていくことがコンセプトでした。
畑中 最近はベースミュージックがかなり台頭してきましたので、50Hz前後にある超低域、つまりサブベースのニュアンスも出せるように意識しました。また大音量の現場でヘッドフォンの音量も上げた場合、8kHz前後にピークがあると耳に刺さるようなうるささを感じることがあるので、その辺りのピークも抑えつつも明瞭さも損なわないようにチューニングしています。
田中 さらに13kHzから20kHzまでのハイエンドを出してあげることによって音粒の良さや広がりが感じられるように考えて作りました。
─ 音質を保ちながらコンパクトにするのはかなり苦労されたのではないでしょうか?
田中 はい。軽量化についてかなりこだわりました。
大沢 めちゃくちゃ軽いですよね。びっくりしました。今まで使っていたDJヘッドフォンの中で一番軽いです。
田中 ドライバーユニットを小さくするとそれに合わせてダイアフラム(振動板)も小さくなるため、出力のパワーが弱く音も悪くなってしまいます。それはどうしても避けたいし、逆にもっと良い音に仕上げたい。そこでダイアフラムにいろんな素材を試して、理想的な音質を目指していきました。10種類の素材を比較して何回も聴いて調整したのが一番苦労したところです。
畑中 DJ用途のヘッドフォンとして大音量出力であることに加え、先ほど申し上げたような、フラットでピークが耳に刺さりづらく、サブベースも出てハイエンドも伸びるという音質を実現できるようなものはないのかと、田中にひたすら検討してもらいました。
─ 最終的にはどのような素材が採用されたのですか?
田中 ダイアフラムは柔らかい素材にすればするほど低域が深い音になるんですが、高域が出てこなくなってしまう。逆に堅い素材にすると高域が出るんですが、今度は低域が出なくなるというジレンマがあるんです。
畑中 いろいろ検討した結果、柔らかい素材を堅い素材で挟み込んだものが採用となりました。
田中 何と何を挟み込むかという組み合わせにも何十通りもあるんです。その結果、ドライバーユニットのサイズは35mmとなり、HDJシリーズの中では一番小さくすることができました。音質的にも目標には十分達成できたと思っています。
─ デザインや機能面にもこだわりが感じられます。
大沢 すごく削ぎ落とされたミニマルなデザインで良いですね。しかも耐久性もかなりあると聞いています。
畑中 軽量化して弱くなったら良くないので、弊社の中では一番耐久性の高い機種と同じ耐久試験を行っています。
─ それがアメリカの国防省が制定したMIL規格にも準拠しているということですね。
大沢 戦場に持って行っても使えるレベルという。
畑中 MILにはいろいろな規格があるんですが、その中でも温度や天気、砂埃や衝撃など、過酷な環境下でも全然壊れませんよというMIL-STD-810H規格に関してお墨付きをいただいています。
田中 少々踏まれたぐらいでは壊れないようになっています。DJヘッドフォンは投げ渡されたりなど、現場では結構ぞんざいに扱われることも多いと思うので、そういうケアも必要かと思いまして。
─ 修理用パーツが少ないのも耐久性に自信があってのことでしょうか?
畑中 交換できるようにするということは、各パーツを外れやすくするということになります。例えば、ドライバーユニットを交換可能な構造にした場合、端子部が消耗して接触不良から音切れにつながるリスクがある。またドライバーユニットは経年劣化などが原因で周波数特性が若干ばらつくので、交換するときは左右同時である方が望ましい。そこで周波数特性をそろえた2個セットで提供した場合、製品自体を購入する価格とあまり変わらなくなってしまうんですね。
田中 そういった理由から、ヘッドバンドとハウジング部分はあえて外せないようにして、修理用パーツは最も消耗や破損が多いパッドとコードのみになりました。
大沢 あと付属品に、プラグアダプターホルダーがついているところが何気に良いですね。
─ たしかに標準プラグ変換アダプターは、DJなら一度は紛失した経験があるかもしれません。
田中 プラグアダプターホルダーはコードに装着できるようにしました。
大沢 ちなみにハウジングの角度は変えられますよね?
畑中 はい、左右どちらのハウジングも前後90度回転させることができます。固定の強さは、コインなどを使って調整できるようにしました。
大沢 工具がなくてもコインで調節できるところも良いですね、さすが。
─ HDJ-CXは、DJ以外にどんなときに使えそうですか?
大沢 やっぱり移動のときでしょうね。電車や飛行機の中で使うのはすごく良いと思いますよ。コンパクトですし必要な音がちゃんと聴けるので。
畑中 音がフラットなので音楽制作にも対応できるかと思います。ただスタジオではオーバーイヤー型を使っていらっしゃる方が多いと思いますので、出先のサウンドチェックなどでコンパクトに持ち出したいときに使っていただければ良いのかなと思います。
田中 あと、HDJ-CXはかなり遮音されるように作っています。弊社の製品の中では一番遮音性が高いです。
大沢 素晴らしい! オンイヤーなのにオーバーイヤーのような感じで使えそうですね。
田中 はい、遮音性が高いことでより音を近くに感じることができるので、サウンドチェックには最適です。
─ 大沢さんの音楽環境において、今後HDJ-CXを使うシチュエーションは増えそうですか?
大沢 ええ、もちろん。この銀座Music Barにも常設しようと考えています。
─ 最後に、開発者のお二人からHDJ-CXの導入を検討されている方にメッセージをお願いします。
畑中 長時間DJされる方のために、圧倒的な軽さと耐久性を兼ね備えたDJ用ヘッドホンとして企画いたしました。その結果、ミニマルなデザインと快適な装着感で、タイトでワイドレンジな音質と高い遮音性を両立した製品となりました。ぜひ店頭でお試しください。
田中 超軽量、高音質、高耐久を目指すという非常に難易度の高い製品でしたが、開発初期よりプロDJ初め多くの方にご協力いただいたかいもあり、自分でもおどろくほど完成度の高い製品に仕上げることができました。DJの方はもちろんですが、音楽を愛するさまざまな分野の方に、ぜひ一度手に取っていただきたいです。