【動画連動】コーネリアス×360 Reality Audio〜ヘッドホンでの立体音場再現が進化して “そこから音が出ている感じ”が分かりやすくなった

f:id:rittor_snrec:20210419101435j:plain

ヘッドホンでの立体音場再現が進化して
“そこから音が出ている感じ”が分かりやすくなった

 今回、サンレコの呼びかけに応じて360 Reality Audioでの制作を手掛けてくれたアーティスト&エンジニアにコメントを伺っていく。まずは『Point』(2001年)をサラウンド化したDVD『Five Point One』(2003年)以降、サラウンド作品を発表し続けてきたコーネリアスこと小山田圭吾と、エンジニアの髙山徹氏。なんと今回、360 Reality Audio用に新曲を書き下ろしてくれた。

 

【Profile】小山田圭吾のソロ・プロジェクトとして1993年に始動。オリジナル・アルバム6作のほか、サウンドトラックやCMなどの映像音楽やインスタレーションも数多く手掛け、世界的に活躍。海外アーティストのリミックスも多数。高橋幸宏を中心としたMETAFIVEのメンバーとしても活動

 

いろいろな音が点在する新曲を制作

 「20年くらい前に、『Point』というアルバムのDVDを作ったときに、当時あったヘッドホンで体験できるサラウンド・システムを使いました。ヘッドホンでサラウンドや立体音場を聴くのはそれ以来ですが、だいぶ進化した感じがしましたね。やっぱり音の定位感というか、“そこから音が出ている感じ”が、より分かりやすくなったんじゃないかと思います」


 そう語る小山田。当初、編集部では「あなたがいるなら」を題材として提案したが、360 Reality Audioの試聴をしてもらったところ、新曲を作るという逆オファーが。


 「歌ものの「あなたがいるなら」は音数が多く、ビートが割とはっきりある。そういう曲ではなくて、いろんな音が点在していて、それが全体を通して楽曲として聴こえるみたいな。で、音の数を割と減らして、一つ一つの音の役割を360°ということを想定しながら曲を作った方がより分かりやすいじゃないかなと思ったんです」


 その新曲「Forbidden Apple」、タイトル通りリンゴをかじる音を中心としたコラージュ的なインスト楽曲だ。


 「音の動きはほぼ決めていましたね。音階や音程がある音じゃなくて、物音とか、現実に存在する音みたいなものを使いたいなと思って。それで、リンゴをかじる音がいろいろなところから聴こえてくるようにしました。リンゴをかじる音って、すごく気持ちいい音じゃないですか? そそる音というか。それがいろいろな距離感でひたすら聴ける。髙山さんには、最初に刻んでいるシンセはひたすらグルグル回ってるっていうのだけ伝えて。後は髙山さんにラフを作ってもらって、そこから一個一個調整していく感じでした。音数が少ないとはいえ、たくさんのことが同時に起きると、定位がちょっと分かりにくくなったりとかして。ただ、音を配置できる場所は増えているので、一個一個の音を聴かせるのは楽なのかもしれないです」


 この立体音場をスピーカーで聴いてもらいたいと小山田は言うが、それが再生環境を限定することも意識している。


 「やっぱりスピーカーを用意するのは大変ですから。これがもっとどんどん進化していったら、すごく面白いんじゃないかと思います」

インタビュー・ムービーはこちらから

 

AUXの活用でフェーダーやバス・コンプを使う

f:id:rittor_snrec:20210419101506j:plain

【髙山徹 Profile】コーネリアス全アルバムをはじめ、D.A.N.、スピッツ、竹原ピストル、indigo la Endなどの作品に携わってきたレコーディング・エンジニア。Switchback Studioを主宰。コーネリアス『Sensurround+B-sides』でグラミー最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネート

 

 これまで数多くのコーネリアス楽曲をサラウンド・ミックスしてきた髙山氏。これまでのフォーマットとの大きな違いは、上下の表現にあるという。


 「Dolby Atmosには上があるんですけれども、360 Reality Audioではそれに加えて下の感じが出せるのは新しい感覚ですね。あとは、ヘッドホンでここまで再現できる手軽さはすごいなと思いました。上下感って、感情に訴えやすい要素だという気がするんです。上の方ってさわやかな感じだったり、軽いイメージがあったり、下の方だったら不安なイメージだったりとか、深層心理的なものをコントロールする定位っていう、新しい考え方ができるのかな」


 小山田から髙山氏に渡ったオーディオは24trほど。髙山氏はこれらを360 Reality Audio Creative Suiteに送る前にAUXトラックでオブジェクトごとにまとめたそうだ。


 「360 Reality Audio Creative Suiteをインサートしたトラックのフェーダーは無効になるので、その前段階でフェーダーを使いたいというのが一つ。それとオブジェクトにはマスター・バスという概念が無いので、ある音が鳴ったときにほかの音をコンプで下げるということができないんですね。なので、全トラックにキー・インできるマルチバンド・コンプを入れ、キー信号としてセンドのサミングを送るというコントロールをしました。それとは別に、ヘッドホンでマルチチャンネル・スピーカーの定位を再現する関係上、全体的に音が遠くなるので、EQとコンプでアタックを強めにして、普通の2ミックスで聴いた印象との違いを減らしています」

f:id:rittor_snrec:20210421190432j:plain

Pro Toolsの編集ウィンドウ。上半分がオーディオ・トラックで、いったん下半分のAUXトラックに送られ、ここに360 Reality Audio Creative Suiteをインサート。オートメーションでオブジェクトの動きを描いている。また、AUXトラックにはWAVESのマルチバンド・コンプ、C6をインサートし、ポストフェーダーのAUXから送った全体のサミングをキー入力。これによって各トラック=オブジェクトの相関関係を作り、コンプレッションをかけている

 髙山氏は最後にこうまとめてくれた。


 「手間はかかりますが、大きなキャンバスを与えられるのは楽しいです。聴いていただいたら、すごく面白いものができたと思ってもらえるでしょう。将来的に通常のステレオと360 Reality Audioのオブジェクトが同居できるようになれば、その音像のギャップを楽しむミックスもできると思います」

インタビュー・ムービーはこちらから

 

360 Reality Audio公式情報

 

関連記事