Solid State Logic(以下SSL)は、音楽に携わる人間ならば、知らない人はいないであろう名門ブランドだ。そんなSSLが2020年のNAMM Showで発表して話題になったのが、コンパクトなオーディオ・インターフェース・シリーズ、SSL 2(写真左)、SSL 2+(写真右)。今回は、SSL 2+を発売当時から愛用しているアーティスト/プロデューサーのGIORGIO CANCEMIのインプレッションを交えつつ、あらためてその2機種の魅力を深掘りする。
Photo:Hiroki Obara(製品写真を除く)
コンパクトなオーディオ・インターフェース SSL 2 & SSL 2+
❶48Vファンタム電源、LINE、Hi-Zスイッチ
LINEスイッチは、入力をラインに切り替えるもので、Hi-Zスイッチは、ギターやベースなどを接続する際にインピーダンスを補正するもの
❷ゲインつまみ
SSL 2、SSL 2+に搭載されているマイク・プリは、ゲイン・レンジが62dBと広いのが特徴だ
❸Legacy 4Kスイッチ
これをONにすると回路が切り替わり、コンソールSL 4000シリーズの質感を付与できる。ポイントは、高周波帯域がブーストされることと、微妙なハーモニクスによるひずみが付加されること
❹モニター・レベルつまみ
モニター・スピーカーに接続されるライン・アウトL/R(TRSフォーン)の出力レベルをコントロールする
❺モニター・ミックスつまみ
直接入力される音と、DAWからの音のバランスを調整してモニターできる。STEREOスイッチは、ステレオ・ソースをch1、ch2を使用して録音する場合にオンにすると、入力音声がch1:L、ch2:Rのステレオとして聴こえる
❻USB LED
緑色に点灯していれば、USBから正しく給電されていることを表す
❼PHONESつまみ
ヘッドフォン出力のレベルをコントロールする
❽PHONES Bつまみ
ヘッドフォン出力(B)のレベルをコントロールする。左の“3&4”スイッチを押すと、ソースがUSBのプレイバックからの3chと4chに切り替わり、Aとは異なるミックスを作成してモニターできるようになる
❾PHONES Aつまみ
ヘッドフォン出力(A)のレベルをコントロールする
リア・パネルもチェック!
❿USB-C端子
コンピューターと接続する
⓫ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)
SSL 2+は2系統装備
⓬ライン・アウト(TRSフォーン)
モニター・スピーカーを接続する
⓭マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2
マイクや楽器を接続する
⓮MIDIイン/アウト
キーボードやリズム・マシンを接続する
⓯ライン・アウト(RCAピン)
左側はUSBの3&4chを出力。右側は右隣のアウトと同じソースを出力。これらはDJミキサーなどとの接続に使用可能
Impression by GIORGIO CANCEMI
ここでは、SSL 2、SSL 2+のアーティスト・インプレッションを紹介。プロデューサーとしても数多くの楽曲を手掛けているGIORGIO CANCEMI は、SSL 2+を発売当時から愛用し続けているそうだ。今回は出力数の異なるSSL 2も併せて試してもらい、その魅力について話を聞いた。
ラップは多くの場合4Kスイッチをオンにする
CANCEMIは以前からSSL MatrixやSSL G-Compなど、同社の製品をよく使用していたという。
「SSLというブランドがすごく好きなんです。だから、SSLがコンパクトなオーディオ・インターフェースを出すという話を聞いたときは、とてもわくわくしました」
海外などの外出先でボーカリストやラッパーのレコーディングをすることも多く、さまざまなポータブル・タイプのオーディオ・インターフェースを試してきたというCANCEMI。その中でSSL 2、SSL 2+が持つ強みについて話してくれた。
「僕が特に気に入っているのは4Kスイッチです。普段スタジオでは、マイクプリやコンプレッサーなどのアウトボードを通して録音していますが、それと似たようなことがこれ1台でできるんです。あらかじめある程度整った音にしておくことで、アーティストのパフォーマンスも全然変わってきます。これまで外出先では素の音をモニタリングしてレコーディングすることもあったのですが、アーティストのやる気が出ないこともあって。4Kスイッチは押すだけで軽くコンプがかかるので、すごく歌いやすくなるんですよ」
ある程度仕上がった音でモニタリングできるのが4Kスイッチの魅力だと話すCANCEMI。一方で、その録り音自体も非常に気に入っているという。
「ラップを録るときには高確率で4Kスイッチをオンにしていますね。それだけで派手でかっこいい音になって、ガッツが出るんです」
ギタリストのレコーディングでSSL 2+を使うときは、4Kスイッチは押さずにノーマル・モードで録音することが多いそうだ。
「ギタリストは自分で綿密に音作りをしているので、それをそのまま録音するということが重要です。僕がモニターに返す音と、ギタリストが作ろうとしている音の間にギャップが生まれてしまうと、レコーディングがうまく進まないのですが、そういうこともなく制作できています。4Kスイッチはあまり使いませんが、“もうちょっとコンプ感がほしい”と言われればためらいなく押しますね。ダイナミクスを保ちつつ音を押し上げてくれるので、楽器にも使いやすいんです」
SSLの音がしっかり受け継がれている
外出先ではSSL 2+と小さいモニター・スピーカー、ヘッドフォンで作業することが多いというが、スピーカーやヘッドフォンの出音についてはどんな印象を持ったのだろうか。
「スピーカーの出音は、ナチュラルだけど少し硬くて、ちょっとした派手さがあるような感じです。比較的フラットな方向性で、悪いところが思いつきません。僕はSSLの製品をずっと使ってきましたが、やっぱりその音がしっかりと受け継がれていますね。ヘッドフォン出力についても、パワフルで無駄なひずみのないクリアな音です。音量をどんなに上げても音色が変わらないのも良いですね。最初のうちはモニター・ミックスの良いバランスを見つけるのが難しいかもしれませんが、慣れてしまえば簡単。つまみをいろいろいじって、自分好みのセッティングを見つけると良いと思います」
本体のサイズ感やつまみについても、非常に使い勝手が良いという。
「持ち運ぶには小さければ小さい方が良いと思いがちですが、実際に作業するにはこのサイズがベストだと思います。ある程度重さがあってしっかりしているのも安心できますね。モニターつまみが大きいところも気に入っています。特にクリエイターはこのつまみをガンガン使う方が多いんですよ。ノブがSSLのコンソールと同じなのもうれしいですね」
総じてCANCEMI は、SSL 2、SSL 2+はクリエイターやアーティストに最適だろうと話す。
「最近は自分のパソコンやオーディオ・インターフェースを持っているクリエイターやアーティストが増えましたよね。みんないろいろなところに行って音楽を作るし、そのときにSSL 2やSSL 2+を使えば、本チャン用でも全く問題のない音でレコーディングできてしまうと思います。僕は、クリエイターやアーティストには、クリエイティブなことに目を向けてほしいと思っているんです。機材の特性やコンプの設定など難しいことは抜きにして、とりあえず4Kスイッチを押しておけばかっこいい音になるので安心ですよ。特に、ヒップホップやロックには4Kスイッチが相性抜群です! 誰かと作業することがあるなら、ヘッドフォン・アウトが2系統付いているSSL 2+がお薦め。自分専用なら、SSL 2で十分だと思います。SSL 2、SSL 2+は、初めてオーディオ・インターフェースを導入する方から、僕のようにずっと音楽をやっている人間も、好んで使えるような機材だと思いますね」
【Profile】イタリア人の父と日本人の母との間に生まれ育つ。19歳でメジャー・デビューし、2002年には@LAS RECORDS(現ATLASMUSIC ENTERTAINMENT)を設立。蔦谷好位置とのDUMMEEZや、ボーカリストTOKOとのSo'Flyといったユニットのほか、ソロ・プロジェクトNERDHEADとしても活動している。
製品情報
SPECIFICATIONS(共通)
▪入力インピーダンス:1.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン)、1MΩ(インスト)
▪出力インピーダンス:40Ω(バランス)、20Ω(アンバランス)
▪ビット&サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz
▪外形寸法:234(W)×70(H)×157(D)mm
▪重量:880g(SSL 2)、900g(SSL 2+)
REQUIREMENTS(共通)
▪Mac:OS X 10.11以上
▪Windows:Windows 10、11。SSL提供のUSBオーディオ(ASIO/WDM)ドライバーで動作
SSL Production Pack(共通して付属)
プラグイン:SSL Native Vocalstrip 2、SSL Native Drumstrip、IK MULTIMEDIA AmpliTube 5 SE、CELEMONY Melodyne Essential
ソフト音源:NATIVE INSTRUMENTS Hybrid Keys、Komplete Start、AAS Session Bundle
DAW:ABLETON Live 11 Lite
サンプル音源:LOOPCLOUDからサンプルとループを厳選