ポニーキャニオン タワーサイドスタジオは、東京都内にある老舗スタジオを2022年2月より全面リニューアルして誕生した。バンド・レコーディングなどが可能な“T1 スタジオ”と、ボーカルや楽器ダビングに適した“T2 スタジオ”を保有しており、“T1 スタジオ”にはSOLID STATE LOGIC(以下SSL)の最新スタジオ・ミキシング・コンソールOriginが導入されている。スタジオ改修の経緯とOriginの使用感についてレポートしていこう。
バンド・セッションに適したT1スタジオ
“ポニーキャニオン タワーサイドスタジオ”の歴史を振り返ると、1979年“日音スタジオ”の開業まで遡る。その後、スタジオ・オーナーが変わり、“サンライズ タワーサイド スタジオ”の時代を経て、 2014年より“サウンドシティ アネックス スタジオ”として運営されていた。2022年1月に閉鎖され、翌2月よりポニーキャニオン管轄の社内スタジオとして運用するべく、機材、空調、内装などの全面的なリニューアル化を進め、2022年10月よりテストを兼ねながらスタジオ運用を開始。まずは、今回のリニューアルについて、ポニーキャニオンスタジオ 制作技術部部長の能瀬秀二氏に話を聞いた。
「2021年ごろから、ポニーキャニオン内のレーベル、IRORI Recordsの制作部内で、所属アーティスト専用スタジオを確保できるといいよね、という話が上がり始めたんです。その後、サウンドシティ アネックス スタジオの譲渡の話を聞いて、一度スタジオを試しに使用させてもらいました。スタジオは、地下1階にメイン・フロアと2ブースを有したT1と、地下2階にボーカルやギターなどのダビングに適したT2の2つあり、特にバンドによるセッションができることを重視していたので、T1はピッタリでしたね」
サイズに関してはクリアとなり、次に考えたのは内装と機材について。居心地の良さを追求するため、ロビーは全面改装されたという。さらに、SSL SL4000Gが備えられていたT1スタジオには、SSLの最新スタジオ・ミキシング・コンソールOriginが導入された。その経緯について、ポニーキャニオンの所属エンジニア、小林寛将氏が語ってくれた。
「スタジオを受け継いだ後にスタジオ運営の方針を話し合っている中で、従来の商業スタジオではなく社内スタジオなので、設備を絞り、より気軽に使えるようにしようとなりました。海外スタジオのように広いコントロール・ルーム内にアーティストの機材を持ち込んで録音できる環境も作りたかったので、大型のSSLではなくコンパクトな卓に変えたらどうかなと。外部エンジニアにも意見を聞いて候補が出てきていた中で、スタジオとしてはリズムが録れる広いブースもあり、卓としてのオペレートのしやすさや卓自体のヘッド・アンプの数を考えたときに、その両方を兼ね備えているOriginを導入しようと決めたのです。まだ発売直後だったためデモ機での確認の機会もいただいたのですが、社内の他スタジオでもSSLの卓を使っていたので、所属エンジニアが直感的にすぐ使用できるという点も大きかったですね」
明瞭な印象のマイク・プリアンプを搭載
Originは2019年にリリースされ、SSL SL4000Eシリーズを受け継ぐEQ、定評あるバス・コンプ、Origin独自のPure Driveマイクプリなど、これまで培ってきた技術を引き継ぎながら、DAWを核とした現代のプロダクション・スタイルにも対応する機能を併せ持ったフル・アナログのインライン・コンソールだ。チャンネル数は16chと32chが選択でき、本スタジオでは32chモデルが導入された。実際に使用してみた印象を小林氏はこう語る。
「中央のマスター・コントロール・セクションにはさまざまなツールが備えられていますが、SSL伝統のバス・コンプももちろんあります。レシオの設定が1.5〜10となっており、1.5からしっかりとかかりますね。個人的には1.5は止めてくれる印象で、2からコンプ感が強く出てくる感じでした。サイド・チェイン・フィルターを入れるとコンプレッションしつつ、リズム感も強く出せて好みの音ですね。音質はとてもクリーンで、ひずみ感などの音色変化は感じられなかったです」
マスター・コントロール・セクションにはバス・コンプ以外に、16系統のトラック・バスへのアサイン・スイッチを装備したルーティング・マトリックスのほか、ソロ・マスター、ミックス・バス、モニタリング、4系統のステレオ・リターンなどの各セクションを使いやすくレイアウト。消費電力を抑えるためのオート・スリープ機能も備わっている。Originで新搭載のマイクプリについて小林氏が続ける。
「マイクプリの音については、かなり明瞭な印象ですが、決してハイ上がりではなく、低域から高域までフラットな音質だと感じました。楽器に立てたマイクの特性がそのまま分かるくらいに、ヘッド・アンプによる音色の色づけを最小限にしていると思います。ゲインを上げてもそのままの音色で音量だけを調整できる。これなら楽器ごとにチョイスしたマイクの特性を最大限に引き出せますね。さらにPure DriveのDRIVEボタンを入れてみると、音像が低域から中域にかけてフォーカスされる印象でした。適正な音量感で切り替える場合は、アナログライクなひずみ感で温かみを持たせて、芯のある音作りができると思います。また、こちらの場合だとゲインを上げてドライブさせていく使い方ができるので、そのときのドライブ感は少しアナログ・テープにも似た印象を持ちました」
さらに本機搭載のチャンネルEQについては「音の変化が明確で、EQ自体の操作性も分かりやすいので的確に削る/足すの判断をしやすく、音作りにおいてやはり優秀だなと思います」と語ってくれた。
本格的な運用はこれからということだが、最後に、Originを使った本スタジオにおける今後の展望についてこう締めくくる。
「最近は録音した後DAW上で音色を作っていくことが多いので、Originのピュアな録り音はそういう意味でプラスに働くと思います。またモニタリングもクリーンな音質でできるので、細部まで音作りを追い込めますね。コンソールを使った録音作業のための機能はしっかり備わっていて、かつ、より柔軟に使いやすい形にデザインされているので、このスタジオとOriginで、たくさんのセッションによる録音やダビングなどをして、多くのヒット作が生まれる場所として活用できると良いですね」