Dining & Music BAR 音STAGE|音響設備ファイル【Vol.69】

Dining & Music BAR 音STAGE|音響設備ファイル【Vol.69】

東京・神田に店を構えるDining & Music BAR 音STAGE(オンステージ)。前身の店舗で、楽器が演奏できる音楽バーとして多くの支持を受け、そのノウハウをもとに2022年5月、リニューアル・オープンを果たした。今回は、店舗の音響調整から機材選定に至るまでを手掛けたK.M.D Sound Designのエンジニア、小松久明氏と、店長の山田純也氏に話を伺い、同店の音響設備をレポートしていく。

オーバースペックにならないスピーカーに

 2017年6月に、東京・神田にオープンした音楽バー“音ステージ”は、楽器が演奏できるというコンセプトで、仕事帰りの会社員から学生まで、男女問わず多くの音楽ファンが訪れていたという。店長の山田氏が振り返る。

 「以前の音STAGEは、今よりも規模が小さく、PA機器も最小限でした。ギターとベースはアンプを鳴らし、ドラムは生音、ボーカルだけマイクで収音して出すというもの。PAがきちんとできていなかったので、リニューアルするにあたっては、音響面を特に改善したいと思いました」

左から音STAGEの副店長の柳澤澄人氏、店長の山田純也氏、サウンド・エンジニアの小松久明氏、導入機器の輸入代理を務めたビーテックの武井靖明氏。柳澤氏と山田氏は、自身でPAオペレートや楽器演奏もするそうだ

左から音STAGEの副店長の柳澤澄人氏、店長の山田純也氏、サウンド・エンジニアの小松久明氏、導入機器の輸入代理を務めたビーテックの武井靖明氏。柳澤氏と山田氏は、自身でPAオペレートや楽器演奏もするそうだ

 Dining & Music BAR 音STAGEとしてリニューアルした新店舗は、半円の形をしたフロアに33席を設け、演奏ステージには段差を設けず、フラットなしつらえに。演奏や歌を歌いたい人はミュージック・チャージを払うシステムで、もちろん食事やライブ観覧のみでも入店可能だ。ギターやベース、キーボードなどもレンタルしているので、手ぶらで来ても演奏を楽しむことができる。リニューアルに際して、音響面の設計を小松氏に依頼したというが、どのようなコンセプトで進めたのだろうか? 小松氏が答えてくれた。

 「僕はこれまでに、ライブ・ハウスなどいろいろな施工実績がありますが、音STAGEでは、スケルトンの状態から打ち合わせをして、図面も自ら引き、スピーカーやラックの配置、PA卓の場所など、最初からスタッフと意見交換できたんです。それが良かった。機材の選び方で特に意識したのは、オーバースペックにならないこと。この店にちょうど良い音とサイズのスピーカーを選び、卓もスタッフが扱いやすいデジタル・コンソールにしました」

東京・神田駅から徒歩2分という好立地にあるDining & Music BAR 音STAGE(オンステージ)。店内は半円状で、奥が演奏ステージとなっている。客席は33席用意されており、自由にレイアウトして、貸し切りのイベントなども可能。スピーカー・システムをステージ天井に設置するため、できるだけ高さを設け、その天井部分には吸音材を入れ、ドラム音の反射を抑えている。また店内の土壁も、音を吸収する役割を担っているとのこと

東京・神田駅から徒歩2分という好立地にあるDining & Music BAR 音STAGE(オンステージ)。店内は半円状で、奥が演奏ステージとなっている。客席は33席用意されており、自由にレイアウトして、貸し切りのイベントなども可能。スピーカー・システムをステージ天井に設置するため、できるだけ高さを設け、その天井部分には吸音材を入れ、ドラム音の反射を抑えている。また店内の土壁も、音を吸収する役割を担っているとのこと

 音STAGEのメイン・スピーカーはTURBOSOUND TBV123。パッシブ/バイアンプの2種類のアンプ接続方式を切り替えて使える機種で、パッシブ駆動時の許容入力は最大2,400W。2ウェイで、ローの口径は12インチだ。小松氏が続ける。

 「TBV123のサウンドの特徴は、クリアで分かりやすく、音量もこのスペースにちょうど良い。天井に設置するのに、ギリギリまで高さを上げてもらったのですが、頭にぶつからないサイズで、まさにここにぴったりでした」

メイン・スピーカーのTURBOSOUND TBV123。パッシブ/バイアンプ切替え可能で、許容入力はパッシブ駆動時に最大2,400W。2ウェイ構成で、12インチ・ネオジム低域ドライバー、ホーンにはTurbosound独自のDendritic Waveguideを備えたアルミ・ドーム1インチ・ネオジム・コンプレッション・ドライバーを2つ搭載する

メイン・スピーカーのTURBOSOUND TBV123。パッシブ/バイアンプ切替え可能で、許容入力はパッシブ駆動時に最大2,400W。2ウェイ構成で、12インチ・ネオジム低域ドライバー、ホーンにはTurbosound独自のDendritic Waveguideを備えたアルミ・ドーム1インチ・ネオジム・コンプレッション・ドライバーを2つ搭載する

 TBV123の外側には、アウトフィル用に低域6.5インチ径の2ウェイ機、TURBOSOUND NUQ62を設置。ステージ中のL/Rサイド・モニターとしてNUQ102がそれぞれ天井のレールに取り付けられている。さらにフット・モニターとしてTFM122Mのほか、サブウーファーNUQ115Bも用意されており、演奏する側も聴く側にも、万全の音響環境が整えられている。山田氏も「演奏するお客さんからは、細かくモニター調整できるので、すごくやりやすいと好評なんです」と話す。

アウトフィル用のNUQ62。6.5インチのウーファーを備える2ウェイ・フルレンジ・スピーカーで、トランジェント・レスポンス向上のための低質量ボイスコイルを採用している

アウトフィル用のNUQ62。6.5インチのウーファーを備える2ウェイ・フルレンジ・スピーカーで、トランジェント・レスポンス向上のための低質量ボイスコイルを採用している

ステージ中のモニター用に設置されたのはNUQ102。10インチの低域ドライバーと縦置き/横置きに合わせてローテーション可能なアルミ・ドーム・コンプレッション・ドライバーを搭載したスピーカーだ。パッシブ/バイアンプ切り替え可能で、許容入力はパッシブ駆動時に1,200W

ステージ中のモニター用に設置されたのはNUQ102。10インチの低域ドライバーと縦置き/横置きに合わせてローテーション可能なアルミ・ドーム・コンプレッション・ドライバーを搭載したスピーカーだ。パッシブ/バイアンプ切り替え可能で、許容入力はパッシブ駆動時に1,200W

歌、楽器、ドラム用のウェッジ・モニターには、TFM122Mを用意。同軸12インチの2ウェイで、客席からの視線を重視したロー・プロファイル・デザインとなっている

歌、楽器、ドラム用のウェッジ・モニターには、TFM122Mを用意。同軸12インチの2ウェイで、客席からの視線を重視したロー・プロファイル・デザインとなっている

サブウーファーは、高出力ダブル・サスペンション15インチのドライバーを搭載したNUQ115B

サブウーファーは、高出力ダブル・サスペンション15インチのドライバーを搭載したNUQ115B

 パワー・アンプは、LAB.GRUPPENのD20:4LとPD3000を使用。D20:4Lは、4イン/4アウトで、合計2,000Wの出力を誇る。Lake Processorを搭載し、EQやディレイ、リミッター、フィルターなどによるシステム制御が可能で、TBV123とNUQ115B、NUQ62に接続されている。また、1,500WのクラスDアンプを2ch分搭載するPD3000は、NUQ102とTFM122Mで使用。小松氏は、「まさにベストな組み合わせで、パワーにおいても素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれるアンプですね」と語る。

パワーアンプは、LAB.GRUPPENのD20:4L(上)とPD3000×2(下)を使用している。D20:4Lは4イン/4アウトの機種で、出力は合計2,000W。1ch使用時は、最大1,600W(4Ω)の出力を得られる。また、ラウド・スピーカー・マネージメントとシステム制御が可能なLake Processorを搭載する。PD3000は、1,500WのクラスDアンプを2ch分備える機種で、ライブ・サウンド向けに設計されている

パワーアンプは、LAB.GRUPPENのD20:4L(上)とPD3000×2(下)を使用している。D20:4Lは4イン/4アウトの機種で、出力は合計2,000W。1ch使用時は、最大1,600W(4Ω)の出力を得られる。また、ラウド・スピーカー・マネージメントとシステム制御が可能なLake Processorを搭載する。PD3000は、1,500WのクラスDアンプを2ch分備える機種で、ライブ・サウンド向けに設計されている

操作性の良さからM32 Liveを導入

 楽器用DI/マイク・スプリッターは、KLARK TEKNIK DN100-V2 とDN200-V2を用意。いずれも2chのアクティブ・モデルで、ヘッドルームの余裕と48Vファンタム電源によるダイナミック・レンジの広さを特徴としている。小松氏も使いやすさと機能面から長く愛用しているそうだ。そしてPA卓として導入されたのがデジタル・コンソールMIDAS M32 Live。小松氏が解説する。

 「お店には常駐PAがいないため、スタッフが手分けしてオペレートするので、まず操作性の良さを考えました。ミキシングはもちろん、モニターの返しの要望にもすぐ応えられるように。そしてすぐリコールできる点で、デジタル・コンソールであるM32 Liveがベストな選択でしたね。リニューアルする前に僕が音の調整をしたんですけど、ポイントは低音をスッキリさせたことと、うるさく感じない余裕のある音量です。それを基準にしたプリセットを作り、段々お店独自の音になるように微調整してもらえばよいと思いました。先日、久しぶりにここでライブを観たときは、音もお店になじんできたなと感じましたし、スタッフのオペレートの腕も上がっていて、素晴らしかったですよ!」

 実際にオペレートもしている山田氏も「最初は操作に戸惑いましたが、小松さんが調整してくれた設定を元にレクチャーしてもらったので、だいぶ慣れてきました。APPLE iPadによるリモート操作も可能で、ステージ中でのモニター調整ができるのも便利です」と、演者からのリクエストにも、うまく対応できていると語ってくれた。

KLARK TEKNIK DN200-V2

KLARK TEKNIK DN100-V2

楽器用DI/マイク・スプリッターの、KLARK TEKNIK DN200-V2(上)とDN100-V2(下)。どちらも、高いヘッドルーム設計と48Vファンタム電源よる広いダイナミック・レンジを特徴とするアクティブ・モデル。−20dBのPADやアース・リフト・スイッチなどを搭載する

40インプット/25ミックス・バスを備えたデジタル・コンソールMIDAS M32 Live。MIDAS製のマイクプリが32基ビルトインされ、AD/DAは最高96kHzに対応。デュアルSD /SDHCカード(別売)に録音可能で、演奏を録って持って帰るお客さんもいるそう。APPLE iPhone およびiPad 用のMidas Appsを使用したワイヤレス・リモート・コントロールも可能となっている

40インプット/25ミックス・バスを備えたデジタル・コンソールMIDAS M32 Live。MIDAS製のマイクプリが32基ビルトインされ、AD/DAは最高96kHzに対応。デュアルSD /SDHCカード(別売)に録音可能で、演奏を録って持って帰るお客さんもいるそう。APPLE iPhone およびiPad 用のMidas Appsを使用したワイヤレス・リモート・コントロールも可能となっている

 最後に、今回の施工について小松氏がこう振り返る。

 「最初からコンセプトがはっきりしていましたし、機材導入もやりやすかったです。上階のお店への音漏れをチェックしたり、ステージ天井に吸音材を入れて音の反射を調整したりと、細かい部分まで妥協なくできたので、とても気持ちの良い仕上がりです。あと、ぜひ皆さんこのお店に来てください。純粋に音楽の楽しさを実感できるし、人前で演奏する楽しさを知ってもらえるはずですよ!」  

 「今回の機材選定とサウンドの調整で、以前の音STAGEではできなかったことが、実現できたのが何よりうれしいです。仕事や学校帰りにフラッと立ち寄り、演奏を楽しんでほしいですね。あと、ぜひ自慢のハンバーガーを味わってください!」と山田氏も笑顔で締めくくってくれた。

音STAGEには、ギターからベース、キーボード、ドラムなどを常備しているので、手ぶらで訪れても、演奏を楽しむことができる

音STAGEには、ギターからベース、キーボード、ドラムなどを常備しているので、手ぶらで訪れても、演奏を楽しむことができる

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