東京・神田に店を構えるDining & Music BAR 音STAGE(オンステージ)。前身の店舗で、楽器が演奏できる音楽バーとして多くの支持を受け、そのノウハウをもとに2022年5月、リニューアル・オープンを果たした。今回は、店舗の音響調整から機材選定に至るまでを手掛けたK.M.D Sound Designのエンジニア、小松久明氏と、店長の山田純也氏に話を伺い、同店の音響設備をレポートしていく。
オーバースペックにならないスピーカーに
2017年6月に、東京・神田にオープンした音楽バー“音ステージ”は、楽器が演奏できるというコンセプトで、仕事帰りの会社員から学生まで、男女問わず多くの音楽ファンが訪れていたという。店長の山田氏が振り返る。
「以前の音STAGEは、今よりも規模が小さく、PA機器も最小限でした。ギターとベースはアンプを鳴らし、ドラムは生音、ボーカルだけマイクで収音して出すというもの。PAがきちんとできていなかったので、リニューアルするにあたっては、音響面を特に改善したいと思いました」
Dining & Music BAR 音STAGEとしてリニューアルした新店舗は、半円の形をしたフロアに33席を設け、演奏ステージには段差を設けず、フラットなしつらえに。演奏や歌を歌いたい人はミュージック・チャージを払うシステムで、もちろん食事やライブ観覧のみでも入店可能だ。ギターやベース、キーボードなどもレンタルしているので、手ぶらで来ても演奏を楽しむことができる。リニューアルに際して、音響面の設計を小松氏に依頼したというが、どのようなコンセプトで進めたのだろうか? 小松氏が答えてくれた。
「僕はこれまでに、ライブ・ハウスなどいろいろな施工実績がありますが、音STAGEでは、スケルトンの状態から打ち合わせをして、図面も自ら引き、スピーカーやラックの配置、PA卓の場所など、最初からスタッフと意見交換できたんです。それが良かった。機材の選び方で特に意識したのは、オーバースペックにならないこと。この店にちょうど良い音とサイズのスピーカーを選び、卓もスタッフが扱いやすいデジタル・コンソールにしました」
音STAGEのメイン・スピーカーはTURBOSOUND TBV123。パッシブ/バイアンプの2種類のアンプ接続方式を切り替えて使える機種で、パッシブ駆動時の許容入力は最大2,400W。2ウェイで、ローの口径は12インチだ。小松氏が続ける。
「TBV123のサウンドの特徴は、クリアで分かりやすく、音量もこのスペースにちょうど良い。天井に設置するのに、ギリギリまで高さを上げてもらったのですが、頭にぶつからないサイズで、まさにここにぴったりでした」
TBV123の外側には、アウトフィル用に低域6.5インチ径の2ウェイ機、TURBOSOUND NUQ62を設置。ステージ中のL/Rサイド・モニターとしてNUQ102がそれぞれ天井のレールに取り付けられている。さらにフット・モニターとしてTFM122Mのほか、サブウーファーNUQ115Bも用意されており、演奏する側も聴く側にも、万全の音響環境が整えられている。山田氏も「演奏するお客さんからは、細かくモニター調整できるので、すごくやりやすいと好評なんです」と話す。
パワー・アンプは、LAB.GRUPPENのD20:4LとPD3000を使用。D20:4Lは、4イン/4アウトで、合計2,000Wの出力を誇る。Lake Processorを搭載し、EQやディレイ、リミッター、フィルターなどによるシステム制御が可能で、TBV123とNUQ115B、NUQ62に接続されている。また、1,500WのクラスDアンプを2ch分搭載するPD3000は、NUQ102とTFM122Mで使用。小松氏は、「まさにベストな組み合わせで、パワーにおいても素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれるアンプですね」と語る。
操作性の良さからM32 Liveを導入
楽器用DI/マイク・スプリッターは、KLARK TEKNIK DN100-V2 とDN200-V2を用意。いずれも2chのアクティブ・モデルで、ヘッドルームの余裕と48Vファンタム電源によるダイナミック・レンジの広さを特徴としている。小松氏も使いやすさと機能面から長く愛用しているそうだ。そしてPA卓として導入されたのがデジタル・コンソールMIDAS M32 Live。小松氏が解説する。
「お店には常駐PAがいないため、スタッフが手分けしてオペレートするので、まず操作性の良さを考えました。ミキシングはもちろん、モニターの返しの要望にもすぐ応えられるように。そしてすぐリコールできる点で、デジタル・コンソールであるM32 Liveがベストな選択でしたね。リニューアルする前に僕が音の調整をしたんですけど、ポイントは低音をスッキリさせたことと、うるさく感じない余裕のある音量です。それを基準にしたプリセットを作り、段々お店独自の音になるように微調整してもらえばよいと思いました。先日、久しぶりにここでライブを観たときは、音もお店になじんできたなと感じましたし、スタッフのオペレートの腕も上がっていて、素晴らしかったですよ!」
実際にオペレートもしている山田氏も「最初は操作に戸惑いましたが、小松さんが調整してくれた設定を元にレクチャーしてもらったので、だいぶ慣れてきました。APPLE iPadによるリモート操作も可能で、ステージ中でのモニター調整ができるのも便利です」と、演者からのリクエストにも、うまく対応できていると語ってくれた。
最後に、今回の施工について小松氏がこう振り返る。
「最初からコンセプトがはっきりしていましたし、機材導入もやりやすかったです。上階のお店への音漏れをチェックしたり、ステージ天井に吸音材を入れて音の反射を調整したりと、細かい部分まで妥協なくできたので、とても気持ちの良い仕上がりです。あと、ぜひ皆さんこのお店に来てください。純粋に音楽の楽しさを実感できるし、人前で演奏する楽しさを知ってもらえるはずですよ!」
「今回の機材選定とサウンドの調整で、以前の音STAGEではできなかったことが、実現できたのが何よりうれしいです。仕事や学校帰りにフラッと立ち寄り、演奏を楽しんでほしいですね。あと、ぜひ自慢のハンバーガーを味わってください!」と山田氏も笑顔で締めくくってくれた。