PAカンパニー、トレジャー アイランド コーポレーションが手掛けるリハーサル・スタジオ、TIC Studio 平和島。東京都内では最大級となる、フル・オーケストラにも対応可能な広さを備え、2022年3月にオープンした。
撮影◎八島崇(※を除く)
スタジオが作られた経緯を、トレジャー アイランド コーポレーションの代表者、細合正吾氏はこう話す。
「弊社はもともと東京流通センターに拠点を構えていたのですが、ビルの建て替えが行われることになり移転先を探していたところ、この物件に出会いました。東京流通センターのころよりもかなり広かったので、事務所と倉庫に加え、本番前の機材チェックやライブ・レコーディング音源の編集ができるスタジオを作り、リハーサル・スタジオとして外のお客さまにも使っていただけるようなスペースにしようと考えたのです」
構成は、125帖のメイン・ルームと20帖のサブ・ルームに15帖のコンロトール・ルームを併設したA Studioと、50帖のメイン・ルームと10帖のサブ・ルームに15帖のコンロトール・ルームを併設したB Studioからなり、フル・オーケストラからバンド、ダンスなどのリハーサル、舞台稽古、映像収録や配信が行える。
設計/施工を担当したアコースティックエンジニアリングの入交研一郎氏は「近年、100帖を超えるような大きいリハーサル・スタジオの需要が増していたものの、なかなかできなかった」と語る。
「スタジオを作る上で問題になってくる柱スパンや耐荷重を考えると、適する物件が少ないのです。そんなときに、細合さんからご連絡をいただいてこちらの物件を見させてもらい、非常にいい建物だなと思いました。柱スパンが13mあって、天高も十分、鉄筋コンクリート造というのもよかった」
この建物は、トラックが上階まで直接乗り入れられるランプウェイ方式の大型倉庫で、スタジオはその中に作られているため、機材などを積み込んだ10トン・トラックをスタジオに横付けできるというメリットもある。大規模なリハーサルを行うユーザーにとっては特に利便性が高いだろう。
また、運営するトレジャー アイランド コーポレーションがPAカンパニーであることから、スピーカーやミキサー、マイクなど、ライブに使用する機材が同所にあり、スタジオ使用者もこれらをレンタルできるのも大きな特徴と言える。
スタジオに入ると、ここが倉庫の中であることを忘れてしまうような温かさを感じる。この点に関して、アコースティックエンジニアリングの高野美央氏は次のように話してくれた。
「建物自体が無機質なイメージなので、スタジオの中は温かな電球色を使ったり、壁も真っ白ではなく少し黄色味がかった色にして温かい雰囲気にしています。目隠しのためのブラインドも防炎仕様のウッドブラインドを使いました」
インテリア面でいうと、部屋によって床材の素材が使い分けられ、単調さを感じさせない点も印象に残った。
機能面では、幅広い用途に対応すべくフレキシブルな設定がなされている。A StudioとB Studioのメイン・ルーム、またそれぞれのコントロール・ルームはあらゆる組み合わせで回線を接続可能。2つのメイン・ルームを使ってB Studioのコントロール・ルームからライブ配信を行うといったことができる。また、必要に応じて追加の配線が行えるようメイン・ルームやコントロール・ルームにはケーブルを引き込むための穴=“ネズミ口”も設けられている。
スタジオができたことにより、トレジャー アイランド コーポレーションの業務にはどのような利便性がもたらされたのだろうか。スタジオの運営を担当するディレクターの河本徹氏はこう語る。
「弊社はd&b Soundscapeというサラウンドを使ったライブや演劇を手掛けているのですが、そのプリプロダクションが自社内で、お客さまを呼んで行えるのがありがたいです」
d&b Soundscapeは、d&b audiotechnikが提唱するオーディオ・ソリューションで、観客が会場のどこにいても自然な定位感で音が聴けることに加え、音源の位置をリアルタイムに動かすこともできるなど、自由度の高い表現が可能になる技術だ。これを行うためにはd&bのスピーカーとプロセッサー、ソフトウェアと、広いスペースが必要となる。自社内でサウンド・チェックが行えるメリットが大きいのはもちろん、注目されている技術だけにスタジオのアピール・ポイントにもなるだろう。
そのほか、マイクやスピーカーの試聴会などにも活用されているというTIC Studio 平和島。広さと使いやすさを兼ね備えたこのスタジオから、新たな価値が次々と生み出されていくことに期待したい。
主な使用機材
- コンソール:YAMAHA CL5、Avid VENUE | Profile、VENUE | S6L、DiGiCo Quantum338、SD12
- I/Oラック:YAMAHA Rio3224-D、Rio1608-D、Avid FOH Rack、Stage Rack
- スピーカー:L-ACOUSTICS ARCS、dV-SUB、115FM、MTD115b、d&b audiotechnik M4
- チャンネル・ディバイダー:XTA DP226、L-ACOUSTICS LLC115FM
- アンプ:LAB.GRUPPEN fP2400Q、L-ACOUSTICS LA-24、d&b audiotechnik D20、D40、D80
- マイク:SHURE SM58、SM57、BETA52A、BETA91A、SENNHEISER e 904、e 906、AKG C451 B、audio-technica ATM25
- DI:Radial J48、Rupert Neve Designs RNDI
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2023年改訂版』より転載しています。
1980年代より、長年にわたって全国の専門学校等で教科書としてご採用いただいている音響/映像/照明の総合解説書『音響映像設備マニュアル』。2年振りとなる本改訂版では、随所を最新情報にアップデートしました。