世界的人気ホラー・ゲーム『サイレントヒル』シリーズの劇伴作家として知られるAKIRA YAMAOKA。オーケストラ・アレンジはもちろん、ロックやテクノ、ポップスまで幅広く手掛ける彼が、2022年にNetflixにて独占配信されたSFアニメ『サイバーパンク: エッジランナーズ』の劇伴を手掛けたという。ここでは同作の劇伴で使用したNKS対応ソフト音源や、NATIVE INSTRUMENTSのソフトウェア・バンドルKomplete 14に収録されたソフト音源など、YAMAOKAが愛用する制作ツールのこだわりを伺ってみよう。
Photo:AmonRyu
独断と偏見に基づいた自分なりのサイバーパンク感を反映した
「まずは監督と打ち合わせをし、送られてきた映像に合わせて音楽を作るという流れでした」と語るのはAKIRA YAMAOKA。監督の今石洋之氏からは、こう伝えられたという。
「監督からは“現代の解釈”で劇伴を作ってほしいと伺いました。というのも『サイバーパンク: エッジランナーズ』の原作は、2020年発売のRPGゲーム『サイバーパンク2077』になるのですが、さらにこの『サイバーパンク2077』の原作が、1993年にリリースされたゲーム『サイバーパンク2.0.2.0』にあたるのです。この『サイバーパンク2.0.2.0』にはヴァンゲリスが作曲した、1982年公開のSF映画『ブレードランナー』のサントラの印象が色濃く残っている人も多いため、おそらく監督はこれを踏襲した劇伴にならないように、ということを言いたいんだなと思ったんですよ」
そこでYAMAOKAは、今石監督が言う“現代の解釈”を自身なりに想像して制作を進めていったそうだ。
「実際に曲を作りながら試行錯誤していったところが多いのですが、具体的に取り入れたのはグリッチ・ノイズやひずんだビートなどです。いわゆる“シネマティック”と言われるような壮大な雰囲気の楽曲もありますが、それだけじゃなく、独断と偏見に基づいた自分なりのサイバーパンク感を反映した楽曲も用意しました。また『サイバーパンク: エッジランナーズ』はアニメなのですが、なんとなくミュージック・クリップっぽい一面も持っているように感じたので、従来の劇伴……つまり、あるシーンを引き立たせるための音楽というより、それ自体が映像に負けないくらいの存在感を持った曲も作ったんです。全体的には、こういったところのバランスを意識して制作を進めていきました」
劇伴然とした楽曲では、民族音楽にインスパイアされたソフト音源のSPITFIRE AUDIO Albion Solsticeや、ストリングスと木管楽器を専門とするソフト音源British Drama Toolkitのほか、シネマティック・アンサンブル・サウンドに特化したソフト音源PROJECT SAM Symphobiaシリーズなどを使用したという。
「Albion SolsticeやBritish Drama Toolkitはナチュラルな質感のサウンドなので、柔らかい雰囲気を演出するのに向いています。特に、主人公が街中を歩くシーンで活躍しました。SymphobiaシリーズのSymphobia 4: Pandoraはライザーやフォールといった緊張感を高めるようなブラス・サウンドが得意なので、主人公がボスと戦うシーンで多用しています。壮大なオーケストラ・サウンドが必要なシーンでは、SymphobiaとSymphobia 2をよく使いましたね。一方、部屋で会話するようなシーンでは、ファンタジーっぽい雰囲気が得意なSymphobia 3: Luminaがお気に入りです」
世の中のサード・パーティ製プラグインがすべてNKSに対応してくれたらいいなと思います
YAMAOKAが挙げたこれらのソフト音源は、いずれもNATIVE INSTRUMENTSの規格NKS(Native Kontrol Standard)に対応するため、デスク右側にセットしたキーボードNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61 MK2でコントロールしていると話す。
「Komplete Kontrol S61 MK2のトップ・パネルに備わる2つのディスプレイを見ながら、音源ライブラリーをブラウジング&試聴しながら音色選択できるのがとても便利。いちいちコンピューターのディスプレイを見なくていいので楽ですね。また、世の中にはタッチ・パネル式ディスプレイを搭載したハードウェアもありますが、自分はKomplete Kontrol S61 MK2のように、4方向プッシュ式エンコーダーやボタンを直接指で触って操作するのが好みです。ソフト音源の各パラメーターは自動でマッピングされていますし、キー・スイッチは各鍵盤の上部にあるLEDライトで色分け表示してくれるので、この点も非常に使いやすい。世の中のサード・パーティ製プラグインが、すべてNKSに対応してくれたらいいなと思っていますね(笑)」
続けてYAMAOKAは、最近アップデートしたというソフトウェア・バンドルNATIVE INSTRUMENTS Kompleteの最新版、Komplete 14についても絶賛する。
「最初は一体何が起こったんだろう!と思いました。Komplete 14になって、中身が大きく変わった気がします。これまでは実機をシミュレーションした系統の音源が多いイメージでしたが、今回はそれこそ劇伴向きというか、“こういったシーンで使える!”というようなシチュエーションに特化した音源が増えた印象を受けました。普段、自分はKontaktのライブラリー音源をよく使うんですが、Choir: Omnia、Lores、Piano Colors、Sequis、Ashlight辺りは大活躍しています。どれも“この音源じゃないと出せない”という音ばかりで、汎用(はんよう)性の高いサウンドが多く収録されていますね。今後発売されるホラー・ゲームの劇伴でも、これらの音源をたくさん使用しています」
さらにKomplete 14は、YAMAOKAの制作工程においても影響を与えているという。
「基本的にこれまでは頭の中に曲のイメージがあって、それに合う音を探すような作業から始めていたのですが、Komplete 14に収録されたソフト音源に限っては、どれか一つの音源を試し弾きしてから曲の方向性を決めていくということも増えました。どの音源も最初から完成度が高いため、弾いているうちにインスピレーションが次々と湧いてくるんです。ここにはこんな音が入ったら面白いなとひらめくので、制作がどんどん進んでいくんですよ」
こうして完成した楽曲群を今石監督へ聴かせたところ、「まったく修正がなかったので、逆にちょっと心配になりましたね(笑)」と話すYAMAOKA。最後に劇伴作家を目指す読者へ、このような言葉を残してくれた。
「制作ツールの進化に伴い、昔に比べると今は誰でも劇伴音楽にチャレンジできる時代となったように感じます。ですので、楽器が演奏できないという理由で音楽制作の夢をあきらめてほしくないと、強く思っていますね!」
AKIRA YAMAOKA
【Profile】作編曲家/音響監督/ゲーム・デザイナー。ホラー・ゲーム『サイレントヒル』シリーズの1〜4のほか、『BEMANI』シリーズや『Dance Dance Revolution』、『pop'n music』などの音楽を手掛けている。