NEVEからデスクトップ・タイプのUSBオーディオ・インターフェース88Mが登場した。同社のフラッグシップ・コンソール88RSのテクノロジーを採用した2chのプリアンプとMARINAIRトランスを搭載。コンパクトなボディに詰め込まれたスタジオ・クオリティのサウンドは、制作においてどのように効果を発揮するのだろうか?これまでに現行NEVEの製品を愛用してきたtokuによるユーザー・インタビューも交えて紹介していこう。
Photo:Takashi Yashima(製品写真を除く)
NEVE 88M
Monitor Controls
モニター・レベル・ノブ、ヘッドフォン・レベル・ノブ、ヘッドフォン・アウト(フォーン)を搭載。右上のヘッドフォン・レベル・ノブではモニタリングのモードをダイレクト/ミックス/DAW/モノラルで切り替え可能。
Preamp Controls
インプット端子(XLR/TRSフォーン・コンボ)、ファンタム電源、ゲイン・ノブを2ch分搭載。ゲイン・ノブは押すことで入力ソースの切り替えスイッチ(マイク/ライン/DI)として動作する。
Rear Panel
上部には2ch分のインサート・センド/リターン(各TRSフォーン)を搭載。下部にはADAT入出力、USB-B端子、モニター・アウト(TRSフォーン)が備わっている。
SPECIFICATIONS
●外形寸法:182(W)×76(H)×203(D)mm ●重量:1.675kg ●電流:900mA未満 ●電圧:5V(USB3.0)
POINT 1:コンソールNEVE 88RSと同じMARINAIRトランスを含む回路を搭載
NEVEのフラグシップ・コンソールであり、アビイ・ロードやキャピトルといった名だたるスタジオに設置されている88RS。88Mには、その88RSと同じトランス・バランス回路が搭載されており、MARINAIR製トランスも採用されている。
POINT 2:デジタル含む10イン/10アウトの入出力&USB3.0接続のバス・パワー駆動
最大入出力は10イン/10アウトで、アナログ2イン/2アウトに加え、ADAT入出力を1系統(各8ch分)搭載する。また、88MはUSB3.0接続によるバス・パワー駆動に対応。さらに最高24ビット/192kHz対応のESS Sabre AD/DAコンバーターにてマスタリング・グレード音質のAD/DA変換を提供する。
POINT 3:2chのインサート端子でアウトボードも接続可能
88Mのリア・パネルには2ch分のインサート端子を搭載。インサート接続するだけでEQやコンプなどのアウトボードを取り入れたレコーディングを行うことが可能なため、自宅やスタジオなどさまざまな環境での制作に適応させて使用することができる。
AMS NEVEスタッフが語る88M
●コマーシャル・マネージャー:マット・ターナー氏
「妥協せずNEVEのサウンドクオリティを保ったまま、より多くの人に使っていただけるようなオーディオ・インターフェース」
●プロダクト・スペシャリスト:ジョー・ヒートン氏
「88RSコンソールとそのままのクオリティのバランス・マイクプリ搭載」
tokuが使うNEVE 88M
GARNiDELiAのコンポーザー、プロデュース、ソロ作品など多岐にわたる活動を行うtoku。かねてより現行NEVEの製品を愛用してきた彼に、オーディオ・インターフェース88Mをテストしてもらった。
自宅環境でNEVEのプリアンプが使える
これまでAMS NEVE設立以降のNEVE製品を愛用してきたtoku。まずはNEVE機材の使用遍歴を尋ねてみよう。
「初めて買ったAPI 500モジュールのマイクプリがNEVE 1073LB×2で、NEVEサウンドが得られる上にホーム・スタジオでコンパクトなシステムを組めるのが良くて導入しました。エンジニアの淺野浩伸さんのSplash Sound Studioに入っているコンソールGenesys Blackも好きですし、アウトボード類もいろいろなスタジオで使っています。NEVEのマイクプリはオールマイティでありながら、中域が濃いギターなどの楽器にすごく合いますし、歌ものはガッツがあるようにも繊細にも録れるんです」
NEVEのフラッグシップ・コンソール88RSのサウンドをデスクトップ・サイズで得られるのが、このたび登場したオーディオ・インターフェース88Mだ。tokuはファースト・インプレッションをこう語る。
「まずNEVEが単体のオーディオ・インターフェースを開発したこと自体が興味深いです。オーディオ・インターフェースとして88Mだけで録音OKというコンパクトさはもちろん、大きい卓が入っているスタジオでなく、自宅環境でのプリプロ段階でNEVEのプリアンプが使えるのは大きい利点ですね。USB3.0を採用したバス・パワー駆動をするので給電能力が高いですし、今の時代に合った機材だと感じます」
ここからは88Mの細部に注目して特徴を見てもらおう。tokuはまず筐体に着目。サイズ感に加え、重厚な筐体の素材にも触れながらその印象を語ってくれた。
「このサイズ感や重量なら持ち歩きもできそうですね。ハーフラック・サイズの機材は使用中の転倒が心配になることもあるのですが、88Mは足がしっかりしているので、机上に配置してもずれません。この1.675kgという重さもちょうどいいのかもしれないですね」
続けてtokuは、各機能の操作子の配置をはじめとしたデザイン面について言及する。
「ボリューム・ノブやファンタム電源のスイッチ、アウトプットの切り替えなどの全コントロールがフロント・パネルに集約されていて、見ただけで把握できる感じが最高ですね。ディスプレイなどを搭載しないシンプルな構造で電気周りも余計な汚れ方をしなさそうですし、好感触なデザインです」
ビンテージ・トランスのような中域の凝縮
次に、88Mの入出力を見ていこう。88Mには、88RSと同じMARINAIRトランスを搭載。「MARINAIRトランスを積んだオーディオ・インターフェースというのは新鮮ですし、単体で導入することを考えるとこの価格帯は納得」とtokuは言う。加えて、最高24ビット/192kHz対応のESS製AD/DAコンバーターを装備。アナログ入出力が2イン/2アウト、ADATオプティカル入出力が8chで、合計10イン/10アウトの入出力を備えている。またインサート端子が2ch分搭載されているのも88Mの特徴の一つだ。
「インサート端子が搭載されているのでレコーディングで使うコンプやEQなどのアウトボードをインサート接続できますし、このコンパクトさは比類ないので、今後のシリーズ展開として同じサイズ感のコンプなども出してほしいですね」
88Mのモニタリング・セクションはモード選択が可能。ステレオではプリアンプの入力をそのままモニターするダイレクト・モード、コンピューター内の音色を出力するDAWモード、それらを任意のバランスでブレンドするミックス・モードの3種類が用意されている。
「ダイレクト・モードにするとコンピューターを使わずに単体のプリアンプとして使えるのが良いですね。ミックス・モードにすれば、ボーカルのレコーディング中にオケとマイクの音を両方出力するダイレクト・モニターができます。モニター・ボリュームのノブの中央値は−12dBuで、クリックが付いているのでそこに合わせれば録音レベルを上げすぎる心配がありません。また、プリマスターのミックスでも最適な音量感にしやすいんですよ。特に、Spotify向けにマスタリングするためのプリマスター作りに向く印象です。88Mは今どきのミュージシャンの作り方を理解している設計ですし、この層でNEVEサウンドが得られる機材はなかったですよね」
サウンド面の特徴については「キャラクターがすごくはっきりしている」と語るtoku。「ザ・ビートルズなど60’sの音楽が好きな人たちがうれしく思うような方向性のキャラクターですし、若い人が使ったらまた面白い音楽ができそう」と話す。さらに88Mの活用場面の期待も交えつつ、こう続けた。
「ビンテージのトランスを通したときのように中域に凝縮されるサウンドが得られるので、エレキギターのアンプ録りや明るいピアノのマイクプリとして使うのがすごく良さそうです。ハードウェア・シンセを通せばイケてる感じになるし、ソフト・シンセをトランスに通して戻すことで、欲しい帯域に落ち着かせることができると思います。ギターでは、クランチーな明るい音色変化をしていくのが得意だと思いました。88Mは総じて高品位で、すごく真面目な感じがいいですね」
そして最後には、tokuが88Mの導入を促したいユーザーについてこのように語ってくれた。
「素直な音色なので、ボーカリストに持っていてほしいと思いました。今はヘッドフォンだけで作業をする人も多いですが、歌をちゃんと奇麗に録りたい人、本チャンまで生かせるデモを作りたい人にとって、88Mはうってつけではないでしょうか?」
【Profile】MARiAとのユニットGARNiDELiAのコンポーザーとして活動。昨年アルバム『Duality Code』をリリース。そのほか、さまざまなアーティストのプロデュースと並行し、ソロ・アルバム『bouquet』をリリース
【Recent work】