誰にでも扱える配信ミキサーの秘密〜MACKIE.プロダクトスペシャリストが語るDLZ CREATOR

DLZ CREATOR使用イメージ

MACKIE.が発表した配信向けデジタル・ミキサーDLZ CREATOR。そのコンセプトを日本に伝えるべく、先ごろプロダクトスペシャリストのジェイソン・タン氏が来日した。氏にインタビューする機会を得たサンレコでは、この新しいカテゴリーの製品について率直にお話を伺う機会を得た。

どんな機能を「搭載すべきでないか」を熟慮した

MACKIE.プロダクトスペシャリストのジェイソン・タン(Jason Tan)氏

MACKIE.プロダクトスペシャリストのジェイソン・タン(Jason Tan)氏。在シンガポールで、もともと音楽制作プロダクションとスタジオを運営。2014年よりMACKIE.チームに加わる

−DLZ CREATORは、ネット配信やポッドキャストを想定したデジタル・ミキサーではありますが、マルチトラックでのレコーディングや、パッドでのBGM/SEのポン出しなど、いろいろな機能を備えています。MACKIE.ではDLZ CREATORを、どのような製品と位置づけていますか?

ジェイソン DLZ CREATORは、一言で言えば「コンテンツクリエイター向けのミキサー」と言えます。事前収録のポッドキャストだけでなく、ネット配信を含むライブでの放送やいわゆるライブキャストなど、それに類する用途ももちろん含みます。また、マルチトラックレコーディング機能やトリガーパッドもありますから、「単なるミキサー」とは言えないかもしれません。ただ、さまざまな入力をまとめるという意味では、やはりDLZ CREATORはミキサーであると言えます。

今夏発売予定のDLZ CREATOR。ポッドキャストや配信を想定し、ビギナーからプロまで扱いやすいように設計されたデジタルミキサー

今夏発売予定のDLZ CREATOR。ポッドキャストや配信を想定し、ビギナーからプロまで扱いやすいように設計されたデジタルミキサー

−DLZ CREATORは用途を限定するとともに、EASY/ENHANCED/PROという3モードを設け、ユーザーの習熟度に合わせて操作できる要素を増減させているのもポイントですね。

ジェイソン この機能を設けたのは、ミキサーを初めて使う方からプロのエンジニアまで、みんなでDLZ CREATORを横断的に使うことを想定したからです。通常、私たちメーカーが製品を作るとき、ユーザーにその使い方を学んでもらい、その機器に適応してもらいたいと考えます。しかし、ご存じのように、世の中の多くの方はサンレコ読者のようにオーディオ機器に習熟した方ばかりではありません。ですから、「いつもの逆をやる方法」を考えたのです。初心者の方から経験豊富な方まで、さまざまな人の使用レベルに合わせた機器を作り、一人の人のための機器ではなく、とても便利なツールにするのはどうかと。その意味でDLZ CREATORは「スケーラブル」……誰でも使えるアイテムであり、なおかつ強力なデジタル・ミキサーであると言えます。

DLZ CREATORにはユーザーの習熟度に合わせてEASY、ENHANCE、PROという3つのモードが用意されている

DLZ CREATORにはユーザーの習熟度に合わせてEASY、ENHANCE、PROという3つのモードが用意されている

−MACKIE.のミキサーと言えば、誰にでも分かりやすい詳細な説明書が付属することで有名です。それでもより簡単に扱えるものを作る必要があった?

ジェイソン MACKIE.の創業者であるグレッグ・マッキーが最初にミキサーLM-1602を出したときのコンセプトは、「初心者のミュージシャンが本当に扱えるミキサー」でした。ただ、それは当時の基準であって、現在はミュージシャンでない人も、それこそ配信で音声を扱うケースが増えていますし、音楽制作もミュージシャンでない人が始められるようになりました。現在のMACKIE.も、この技術の進んだ現在に、グレッグ・マッキーの考えたコンセプトを継承しようとした。それがDLZ CREATORという形になったと思います。そのために我々は、オーディオ・エンジニアはもちろんのこと、例えばTwitchで配信をしている方にもリサーチをして、どんな機能を搭載すべきか、そしてどんな機能を「搭載すべきでないか」を熟慮したんです。配信にはステレオ出力があればいい、サブミックス・バスや複雑なバスは要らない。そういう判断を積み重ねてDZR CREATORは生まれました。

リアパネルの一部。アナログ出力はL/Rのモニター出力のみ。その代わり、独立したバランス調整が可能な4系統のヘッドフォン端子を備える

リアパネルの一部。アナログ出力はL/Rのモニター出力のみ。その代わり、独立したバランス調整が可能な4系統のヘッドフォン端子を備える

−EASYモードとENHANCEDモードの違いは?

ジェイソン EASYは、Mix Agentの指示通りに設定したら、基本的にフェーダー操作のみで済ませられるようになっています。そこから、例えばもう少し声のトーンを調整したいなと思ったら、ENHANCEモードにすると、BASS/MID/HIGHの3バンドスライダーが登場します。エフェクトも同様に、ENHANCEのリバーブやディレイは、タイプを切り替えて、ワンノブで操作するシンプルな形です。

Mix Agentソース選択
Mix Agentゲイン
Mix Agentを使った入力設定。マイクタイプなどを選び、音声をテスト入力するだけで自動的にゲイン調整が行われる

コンデンサーマイクのEM-91CでMix Agentの実演をするタン氏

コンデンサーマイクのEM-91CでMix Agentの実演をするジェイソン氏

−では、PROモードは?

ジェイソン PROになると、リバーブだったらプリディレイやリバーブタイムなどのパラメーターが出てきます。でも、「リバーブをかけたい!」というポッドキャスターが、リバーブのプリディレイのことを理解しているかと言われたら疑問です。我々は、EASYからスタートし、使う中でユーザーが「もっとこういうことがしたい」と感じたらENHANCE、さらにはPROにレベルアップしていくような使い方をイメージしています。

感度の低い配信用マイクに対応するOnyx 80プリアンプ

インプット1〜4に実装されたONYX 80プリアンプ。ダイナミックマイクやコンデンサーマイクはもちろん、ライン、ギター/ベースなどのHi-Z入力に対応する

インプット1〜4に実装されたONYX 80プリアンプ。ダイナミックマイクやコンデンサーマイクはもちろん、ライン、ギター/ベースなどのHi-Z入力に対応する

−ポッドキャストを念頭に置いて、4基のマイクプリアンプを搭載しています。これはどのようなものですか?

ジェイソン ONYX 80です。ONYXは、MACKIE.のミキサーをご存じならばおなじみですね。そのトーンを保ったまま、ゲインレンジを80dBまで拡張しました。

−80dB!? 初心者でも扱えるものに、そこまで高性能なものが必要なのでしょうか?

ジェイソン 理由はSHURE SM7B。マイケル・ジャクソンのボーカルマイクとしても知られていますよね。ポッドキャストなどの配信トークでは、非常に人気があるダイナミックマイクで、「マイケルも使っていた名機」と聞くと誰もがあこがれます。頑張ってSM7Bを手に入れて、いざ自分の機材につなげて、ゲインを上げても音量が足りず、ゲインを最大まで上げてもダメだった、ということが、しばしばあります。インピーダンスマッチングが取れていないからです。私はもともと音楽制作の仕事をしていましたが、私のスタジオでSM7Bを使うときには、例えばAVALON DESIGNのVT-737SPなどと組み合わせていました。そこまで高級な機材でなくてもよいのですが、SM7Bにマッチするゲインを持ち、ローノイズな単体のマイクプリは、少なくとも400ドルくらいの追加費用が必要です。しかも4chだと4台分。SM7Bにあこがれて買って、自分の機材につなげてみたけれど、うまく扱えない……そういう「落とし穴」に配信者が陥らないようにしました。

−つまり、SM7Bを使う前提の仕様なわけですね。

ジェイソン DZR CREATORには、マイクのタイプに合わせたプリセットを用意しています。一般的なダイナミックマイクやコンデンサーマイクのほか、MACKIE.のマイクではモデル名の指定ができますが、他社製品では唯一「SM7B」を機種名指定のプリセットとして入れてあるのはそのためです。

Mix Agentの入力ソース選択には、ダイナミックマイク、コンデンサーマイク、ライン、楽器(Hi-Z)に加え、MACKIE.のElementシリーズのマイク、そして唯一他社製品としてSHURE SM7Bが表示されている

Mix Agentの入力ソース選択には、ダイナミックマイク、コンデンサーマイク、ライン、楽器(Hi-Z)に加え、MACKIE.のElementシリーズのマイク、そして唯一他社製品としてSHURE SM7Bが表示されている

−「スケーラブル」、つまりアマチュアからプロまでを想定したというDLZ CREATORの思想にかかわっていますね。

ジェイソン DLZ CREATORのクオリティはプログレードですが、ではポッドキャストを始めたばかりの人がコンプレッサーについて知りたいか?と言えば、「?」と思うでしょう。また、マイクのゲイン調整とフェーダーでの音量コントロールの違いを理解するのも難しいと思います。ですから、EASYモードでは、マイクの種類や機種を指定して、テスト入力をすると、自動的にゲインを調整してくれます。EQもコンプも適した設定をプリセットに用意していますから、あとはフェーダー操作だけでOKです。バックグラウンドで何が起こっているのか……エンジニアとしてそれを理解して使うことは重要ですが、「ユーザー」にとっては、接続して、フェーダーを上げれば適正な音量になって当然……「ミキサーとはそういうものだ」と思っているはずですから。

誰のための製品なのかを熟慮している

−レベルに合わせた3つのモード以外にも、配信を意識した機能はあるのでしょうか?

ジェイソン ミックス自体もDLZ CREATORに任せられるようAUTOMIX機能も搭載しています。これでマイクのバランスはDLZ CREATORに任せられますし、優先度として司会者をHIGH、そのほかの出演者をMIDなどのように設定できます。また、ダッキングプロセッサーもあるため、声を入力した時点でBGMが下がるといったこともDLZ CREATORが行ってくれます。

ハウリングを回避しながら4つのマイクのバランスを自動的に調整してくれるAUTOMIX画面

ハウリングを回避しながら4つのマイクのバランスを自動的に調整してくれるAUTOMIX

−ところでDLZという名称は? アナログミキサーのVLZは「Very Low Impedance」の略でしたが……?

ジェイソン 私はマーケティング担当ではないので、その質問には答えられませんが、恐らくVLZと、これまでのMACKIE.のデジタルミキサーDLとを組み合わせたものだと思います。VLZの歴史を継承していこう、という意味もあるのではないでしょうか。

効果音やBGMを鳴らすのに便利なパッドも用意。ループ再生や、パッドでのオン/オフなど、再生モードも各種あり、用途に応じて使い分けることができる

効果音やBGMを鳴らすのに便利なパッドも用意。ループ再生や、パッドでのオン/オフなど、再生モードも各種あり、用途に応じて使い分けることができる

−その意味では、DLZもシリーズとしての展開はある?

ジェイソン 具体的な計画についてはまだお話できる段階にはありません。ですが、振り返ってみると、私たちが全世界で初めてiPadをコントロールサーフェスとして使用したデジタルミキサーDL1608を発売したとき……つまりすべての操作をタブレットのアプリから行う形のデジタルミキサーを世に送り出したとき、当初は多くの人からそのコンセプトは理解されませんでした。「物理フェーダーの無いミキサー……?」という感じで。しかし、1年未満で同様のコンセプトの製品が他社から登場しました。これは、マーケットにDL1608のアイディアが支持されたのだと思います。DLZ CREATORは、誰でも扱いやすいように物理フェーダーを備えていますし、DL1608とは全くコンセプトが異なる製品ではありますが、誰のための製品なのかは熟慮しています。ですので、ユーザーからもきっと広く受け入れられると思っています。

USBメモリーやmicroSDカードへ録音可能(ステレオ/マルチ)。コンピューター無しでの収録も可能となっている

USBメモリーやmicroSDカードへ録音可能(ステレオ/マルチ)。コンピューター無しでの収録も可能となっている

製品情報

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