天月-あまつき- 10th Anniversary Live Final!!〜Love&Pop/Rock&Cool〜 at 幕張メッセ

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メロウなハイトーン・ボイスで魅了する天月 -あまつき-が、活動10周年の締めくくりとして幕張メッセで2デイズ無観客ライブを敢行。ストリーミング配信で高度なエンターテインメントを披露した。本人のコメントも交えつつライブ制作の舞台裏に迫るとしよう。

TEXT:辻太一 PHOTO:Tatsuya Kawasaki[isai.inc](ライブ)、小原啓樹(機材)
DATE:2020年8月29(土)、30日(日)
PLACE:幕張メッセ 幕張イベントホール

 

同期モノに空間系エフェクトを細かくかけ
大会場の空気感を再現した響きに

 2010年に動画共有サイトで音楽活動を開始し、2014年以降はメジャー・レーベルからも作品を発表するアーティスト、天月 -あまつき-。活動10周年の取り組みとして、今年4月に幕張メッセ 幕張イベントホールでの2デイズ・ライブを予定していたが、新型コロナ・ウィルスの状況を憂慮し一度は延期をアナウンス。8月29日と30日に振替公演を予定していたものの、ついには中止を決断するに至った。しかし後日、ストリーミング配信での無観客ライブを告知。先の振替公演と同じ日程で、初志貫徹の幕張イベントホール2デイズというのも手伝い、多くのファンが色めき立った。「集客を絞っての開催も考えたのですが、4月に来てくれるはずだった方々から選出するような形になるのが納得できなかったんです」と天月。

 

 「でも無観客で配信なら良いかもしれないと。僕はライブ・ハウスや路上が出自ではなく、インターネットで顔の見えない人たちと対話するところから始めたので、無観客ライブを幕張メッセで行うことに意味を感じたし、普段から聴いてくれる人たちにも楽しんでもらえるのではないかと思ったんです。ライブって、対話やコミュニケーションがある上で音楽が届くという部分に一番の醍醐味があると思うから、配信であってもエンターテインメントとして成立させようという意気込みでした」

 

 演目については、各日程のテーマに合った楽曲をチョイス。初日の“Love&Pop”、2日目の“Rock&Cool”に即して特別なアレンジを施したものが多かった。「ポップス感やロック感をいかに表現するか、伝えるか。最初に考えたのは、そこです」と語るのは、バンドマスターでギタリストのyas nakajima。例えば“ロック感”の表現はどのように行ったのだろう?

 

 「あえてチェロを入れたんです。音源としてリリースされている曲には壮大な弦楽が入っていたりしますが、それを再現する以上に新しいことをやりたいという話になって。チェリストの村中俊之君は独創的な人で、チェロだけでいろいろな音を奏でるから、これまでに実践したことのなかったアプローチにも挑戦しがいがありました」

 

 チェロはソリッドな音色が際立っていたが、アグレッシブに聴かせるべく高域を立てる処理を施したり、ソロでは“チェロ特有のおいしい帯域”を生かすなど、エンジニアリング面でのサポートもあったという。「ライブのときは、kain君がPAエンジニアの方に“こういうバランスにした方がより良くなるのでは……?”などと掛け合ってくれるんですよ」とnakajima。天月作品の大半のミキシングを手掛けるkainだが、今回は実作業にコミットしたのだろうか? 尋ねてみると「例えば同期モノ。空気感を与えるために、リバーブやディレイを使って細かく音作りしました」との答え。

 

 「いつもは会場の響きを計算に入れて作るのですが、今回はイヤホンなどで聴かれることも想定して“ライブ感”を演出するような処理を行ったんです。また、バンドのメンバーから音をもらって“こういうバランスで配信してみては?”というミックスを何パターンか作ったりもしました。各パートの緩急については個人的な意見もあったし、お客さんが普段から音源を聴いて感じている“曲のイメージ”をキープしつつ新しいものとして見せたかったんです。だから、yasさんやPAチームの方々とはよく話し合いましたね」

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⽥辺貴広のドラム・キット。オーバーヘッドにはAT4040、キックにはATM25といったAUDIO-TECHNICAのマイクが立っている。キックのビーター側にはエレクトロニック・ドラム・ユニットのYAMAHA EAD10が取り付けられていた

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クラッシュとライドの間にセットされたASTON MICROPHONES Aston Spirit

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kuwa-cchiのキーボード群。左側にROLAND Fantom6、YAMAHA CP4 Stage、右手側にYAMAHA MX61が設置されている

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kain(写真左)とyas nakajima(同右)。kainは天月 -あまつき-の作品でアレンジや歌録り、ミキシング、マスタリングなどを手掛けており、今回のライブでは同期モノのトリートメントやPAミックスへの助言を行った。nakajimaはバンドマスターでギタリストだ

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nakajimaのエレキギターはGIBSON Les Paul Special。アンプ・ヘッドはTWO-ROCK Custom Reverb Signatureを使用していた

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nakajimaのエフェクター・ボード。中央の赤いペダルは自身がプロデュース/ビルダーとの共同開発を手掛けた1115 Drive(オーバードライブ)。そのほかPEDALOGIC Buff6(バッファー/ブースター)、SUHR Riot(ディストーション)、BOGNER Lyndhurst(コンプレッサー)、FREE THE TONE Flight Time FT-1Y(ディレイ)などが用意されている

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たるとのマニピュレート・セクション。ノート・パソコンやRME MADIface Proのほか、DJコントローラーNATIVE INSTRUMENTS Tr aktor Kontrol S2 MK2などの姿も見える

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菊池真義のギター。左からYAMAHA LLX26C AREとFENDER Stratocaster(ADDICTONEモディファイ)

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菊池の足元。左のボードにはVEMURAM Shanks ODS-1、Jan Ray、1115 Drive(以上、オーバードライブ)、 LIMETONE AUDIO Focus(コンプレッサー)、KEELEY ELECTRONICS Katana Boost Pedal(ブースター)、SUHR Eclipse(ディストーション)といったモデルが、右の方にはEMPRESS EFFECTS Buffer+(バッファー/ブースター)などが見える

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梅⽥潤の持ち場。P.G.Mのベース(写真左)やERNIE BALL MUSIC MAN StingRay 5(同右)がスタンバイ

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梅田は3LEAF AUDIO Doom(ファズ)、DIAMOND GUITAR PEDALS Bass Comp Jr(コンプレッサー)、MOOER Pre Boost(ブースター)、XOTIC Bass BB-Preamp(プリアンプ)などのペダルを使用

カメラは全11台がスタンバイ
画と音声はFA-1010でエンベデッド

 PAはMSI JAPAN TOKYOが担当した。AVID Venue|Profileシステムをメイン・コンソールとして、モニター卓にはYAMAHA CL5を使用。FOHのミキシングを手掛けたエンジニア石崎竜太氏は、kainとも共通する処理を行っていた。

 

 「ライブの現場では音にホール・トーン(会場の響き)が付くんですけど、配信だと体感しづらい部分なので、各パートへリバーブをかけて大会場での鳴りを再現しています。AVID ReVibeなどを使い、パートごとにアルゴリズムやリバーブ・タイムを設定しました。2ミックスはカメラ・チームに送っていて、モニターのCL5からもバックアップの信号を渡しています」

 

 撮影やビデオ・エンジニアリングは要堂が担当。「カメラマンが扱うカメラ8台と固定3台の計11台で臨みました」と、カメラ・チーム制作進行の太田希真知氏が語る。

 

 「PMW-F55、HDC-3100、α7 IIIといったSONYのカメラを使用していて、画はビデオ・エンジニアがリアルタイムに色みや明るさを調整しています。その結果が同時にビデオ・スイッチャーのPANASONIC AV-HS410へも反映され、FA-1010に送られているのです」

 

 FA-1010とはFOR-Aのフレーム・シンクロナイザーで、画と音声のエンベデッド(統合)をはじめ、さまざまな機能を有している。ビデオ・エンジニアの安藤孔一氏に聞いてみよう。

 

 「FA-1010の中では音声にディレイをかけていて、画との同期を図っています。また、カメラ本体でカバーし切れない映像レベルの調整なども行い、正副(メインとバックアップ)の2つの信号としてエンベデッドした後、HD-SDIで配信チームに送りました」

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FOHのミキシングを手掛けたMSI JAPAN TOKYOのエンジニア、石崎竜太氏。背後にはAVID Venue|Profileシステムのサーフェスが見える

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会場にはラインアレイなどは吊られておらず、FOHのモニタリングにはELECTRO-VOICE SX300が使われた

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D&B AUDIOTECHNIK V8×2とV-Sub×2。ステージ手前左右に1列ずつ置かれ、アリーナに音が伝わるようになっていた

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要堂カメラ・チーム制作進行の太田希真知氏(写真左)とビデオ・エンジニアの安藤孔一氏(同右)

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カメラ・チームのビデオ・エンジニアリング・セクション。写真中央辺りに、画と音声のエンベデッドに使われたフレーム・シンクロナイザーFOR-A FA-1010をラック・マウントしている

計3ポイントで信号の様子を監視
ラウドネス・レベルのモニタリングも重要

 配信を担当したのはCandee アポロ・プロダクション。エンベデッド済みのフルHDビデオ信号は、ビデオ・スイッチャーのBLACKMAGIC DESIGN ATEM 1 M/E Production Studio 4Kに入力され、静止画やテロップを追加した後、ビデオ・プロセッサーのTeranex AVを経てキャプチャー・デバイスUltra Studio HD Miniへ送られた。Ultra Studio HD Miniは正副の2台分があり、個別のAPPLE MacBook ProにThunderbolt 3で信号を伝送。MacBook Pro内のライブ・ビデオ・ストリーミング・ソフトTELESTREAM Wirecastでエンコード〜送出を行い、イープラスのStreaming+より配信された。「万一のアクシデントに備えて、3つのポイントでモニタリングできるようにしているんです」と語るのは、技術担当の岩田将昌氏だ。

 

 「私のセクションでは、カメラ・チームから届いたばかりの音声と送出直前の音声をTeranex AVから抽出し、デジタル・ミキサーのYAMAHA 01V96Iに立ち上げてモニタリングしています。また01V96IをパソコンにUSB接続して、TC ELECTRONIC Loudness Radarに音声を送り、ラウドネス・レベルの監視も行っているんです。最近はライブ・ストリーミングの世界でもラウドネスへの意識が高まっているので、常にモニタリングできるようにしておく必要があります」

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Candee アポロ・プロダクションの技術者である岩田将昌氏(写真左)と榊原槙氏(同右)

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配信セクション。カメラ・チームから届いた信号をさまざまなステータスでモニタリングできるようになっていた

音声のみを予備信号に切り替えることも可能
ショウの様子を立体的に伝えた配信

 3つめのモニタリング対象は“配信中の音”だ。「別途MacBook Proを用意し、Webブラウザーでリアルタイムに監視しています」と技術担当の榊原槙氏。併用されたオーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Arrowである。

 

 「キャプチャー・デバイスから分岐させたHD-SDIの信号をBLACKMAGIC DESIGN Mini Converter SDI to HDMI 6Gでアナログ音声のみにして、Arrowに入力しています。なので、モニタリング・ソースを切り替えれば、私の方でも送出直前の音声を監視できるようになっているのです」

 

 このほか、配信チームは正副のビデオ信号の切り替えに加え、音声のみをバックアップの方にスイッチできる仕組みも整えていた。まさに盤石の体制だったわけだ。本番の内容は、演奏とダンス・パフォーマンス、ステージ映像などが高度に一体化したエンターテインメント。カメラワークも変化に富み、ショウの様子を立体的に伝えていた。天月は「いざステージに立ってみると、お客さんが目の前に居ないのは不思議な光景でしたが、一人一人がリアクションしてくれていることを信じてパフォーマンスしました」と、達成感を漂わせる。

 

 「昨今はインターネットで音楽を聴くことが当たり前になっていて、テレビが中心だった時代に比べると、アーティストの顔がリスナーの中から薄れつつあると思うんです。より偶像的なミュージシャンも増えていますし、そういう人たちもオーディエンスを楽しませています。だからこそ、アーティスト自体へフォーカスする以上に、ショウとしての見せ方が大事になってくるのではないかと思っていて。極端な話、本人が登場しなくても熱量を感じさせるものであったり、感動してもらえるなら正解だと思うし、僕もさまざまな表現方法にトライしていきたいと考えています」

 

MUSICIAN
天月(vo)、yas nakajima(g)、菊池真義(g)、梅⽥潤(b)、⽥辺貴広(ds)、kuwa-cchi(k)、たると(manipulation、perc)、NARI(sax)*、シーサー(tp)*、村中俊之(vc)**、めろちん(dancer)、明⾹⾥(dancer)、ANDY(dancer)*、it-k@(dancer)*、72KI(dancer)**、Moena(dancer)** *=29日のみ、**=30日のみ

STAFF
PA:MSI JAPAN TOKYO カメラ:要堂 配信:Candee アポロ・プロダクション

amatsuki.jp

 

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