2023年4月、BOSE CORPORATIONのプロ・オーディオ部門が新会社BOSE PROFESSIONALとして独立することを発表した。旧プロ・オーディオ部門は設備用スピーカーなどの業務用音響機器を扱い、ヘッドフォンや民生用スピーカーを手掛けるコンシューマー・オーディオ部門、そして車載用オーディオ部門と並びBOSE CORPORATIONの主軸を成してきた。新会社はアメリカの投資会社TRANSOM CAPITAL GROUP(以下、TRANSOM)の支援を受け、CEOにTC|GROUP AMERICASやBLUE MICROPHONESでもCEOを務めたジョン・マイヤー氏(写真)が就任。TRANSOMは、大きな組織から独立したBOSE PROFESSIONALが円滑にビジネスを進めるためのサポートを提供しながら、そのポテンシャルを最大限に引き出すべく後押しを行っていくという。独立の経緯と展望についてマイヤー氏に話を聞いた。
ブランドの“隠れた価値”を掘り起こすべく外からの視点を取り込んだ
TRANSOMは、これまでもBLUE MICROPHONESやMACKIE.、EAWといったプロ・オーディオ・ブランドのカーブ・アウト(事業の一部もしくは全部を買い取り、新会社を設立すること)を行ってきた。マイヤー氏はBLUE MICROPHONESのカーブ・アウトが行われたときCEOに就任し、TRANSOMとのパートナーシップを始めた。
「私がCEOを務めていたTC|GROUP AMERICASのオフィスとBLUE MICROPHONESのオフィスは同じビルの中にあり、社員同士の交流もありました。その流れで、BLUE MICROPHONESがカーブ・アウトされた際にTRANSOMの人たちを知るようになり、あるときCEOをやってみないかという誘いを受けたのです」
マイヤー氏は、ハイエンドなレコーディング用マイクが主力であったBLUE MICROPHONESで、ポッドキャストやYouTubeのコンテンツ制作者に向けたUSBマイクなどの製品開発を進め、販路を拡大することで売り上げを約20倍に成長させた。その実績をもって、MACKIE.のアドバイザーとしてボード・メンバーに名を連ね、TRANSOMでの勤務を経てBOSE PROFESSIONALのCEO就任へと至った。
「TRANSOMは、ブランドが持っている隠れた価値の掘り起こしによる事業の拡大を得意としています。そのためにもTRANSOMは、BOSE PROFESSIONALに外からの視点を取り込みたいと考えました。プロ・オーディオ製品や販路に関する知識と経験を持った外部の人間を取り込むことで、新しい戦略がもたらされるのではないかと考えたのです。そこで私に声が掛かりました」
これまで提供してきた価値をベースにより良いものを提供していく
BOSE PROFESSIONAL独立のメリットを氏はこう語る。
「BOSE PROFESSIONALの強みである画期的で革新的なテクノロジーを用いた製品、それをグローバルに販売する才能を持った人たち、お客様にとっての購入のしやすさなどは変わらず提供していきます。その上で、今後はそれらをより良いものにしていく。大きな組織の一部であったときと違って製品開発のスピードを上げられ、加えてプロ・オーディオの市場にフォーカスできますので、よりお客様のニーズに合ったものを素早く提供できるようになります。また、長期的には事業の拡大の可能性も感じています。これまで参入していなかったマーケットへの進出など、大きな組織では難しかったことが、チャンスがあればできるようになります」
現在BOSE PROFESSIONALは、同社がミドルマーケットと呼ぶ商業施設や学校、企業などへの製品納入を得意としている。日本ではこれらのコア・ビジネスに加え、スタジアムなどの大規模施設への納入実績も豊富だ。今後は、こうした地域特有のビジネスを新たなエリアにも展開していくことが考えられる。BOSE PROFESSIONALの製品を見かける機会がさらに増えるかもしれない。
最後に、BOSE PROFESSIONALが目指すビジネスの方向性について聞いた。
「まず、スピーカーの事業は我々にとって最も重要な資産ですので、お客様の要望に応じてさまざまなオプションを提供していくことを考えたいです。さらにはスピーカー、アンプやDSPをシステムとして売るだけでなく、受発注のプロセス、販売後のサポートやリペアなど、一連のオペレーションを1つのソリューションとして高い水準で提供したいと考えています」
生まれ変わったBOSE PROFESSIONALより送り出される新たな製品とユーザー体験に期待しよう。