今年創業100年を迎えたドイツのブランド、beyerdynamic。100周年を記念したヘッドホンDT 770 PRO X Limited Editionのプロモーションのために、同社のグローバルセールス担当者であるゲルハルト・ハーマン氏が来日を果たした。サンレコWebでは、4月27日に開催された『春のヘッドホン祭 2024』の会場で氏にインタビュー。ヘッドホンのみならず、beyerdynamicのプロオーディオ向け製品を中心に広く話を聞くことができた。
100周年モデルに続くヘッドホンやマイクも新製品を計画中
−−今回の来日目的を教えてください。
ゲルハルト・ハーマン 昨年よりbeyerdynamic全製品の日本のディストリビューターがオーディオブレインズとなったこともあり、日本におけるブランドの流通体制と、マーケットを視察する目的で来ました。もう一つは、私たちの100周年モデル、DT 770 PRO X Limited Editionのプロモーションです。4月19日に全世界で発売となります。
−−DT 770 PRO X Limited Editionの世界的な反応はいかがですか?
ゲルハルト・ハーマン 非常に好評です。限定生産のため、世界中のディストリビューターからの注文は既に締め切りました。ご予約いただいたお客様に届くよう、9月にかけて生産を続けていきます。このヘッドホンは、弊社を代表するモデルかつ最も人気の高いDT 770 PROと、DT 700 PRO XやDT 900 PRO Xの新しい技術を組み合わせたものです。ご覧の通り、デザインはDT 770 PROを継承しています。そこに最新のSTELLAR.45ドライバーを使用してチューニングを施し、DT 770 PROを踏襲したサウンドに仕上げています。ケーブルを着脱可能にするなど、DT 770 PROから幾つか変更を施し、旧来のモデルをリニューアルしました。このDT 770 PRO X Limited Editionの成功を受けて、今年から来年にかけてこうしたアプローチでの新製品も計画しています。
−−具体的にはどんな新製品を計画されていらっしゃるのですか?
ゲルハルト・ハーマン 弊社内部はクリエイター向けのプロオーディオ、リスニング向けのコンシューマー、ゲーミングのセグメントに分かれていまして、今年は特にゲーミングの新製品が登場する予定で、DT 770 PRO X Limited EditionやDT 700 PRO Xと同じSTELLAR.45ドライバーを搭載したヘッドセットを計画しています。また、プロやコンシューマーでも新製品を計画中です。コンシューマー向けは市場のニーズを考慮してワイヤレスモデルを予定しています。
−−マイクについてはいかがですか?
ゲルハルト・ハーマン 昨年、私たちはスタジオ市場向けにMシリーズのマイクを刷新し、大変好評をいただいております。ただ、これはデザインの一新であって、50年前から我々の製品として、多くのプロに愛用され続けているものです。今年、マイクの新製品をリリースする予定はありませんが、私たちはマイクの新製品の開発にも取り組んでいます。プロの分野では、“beyerdynamic”と言えば、マイクを表すことが多いです。市場規模で言えばもちろん、ヘッドフォンの方がより大きなわけですが、しかし、マイクも我々のビジネスによって重要なセグメントであり、またブランドの伝統を守るためにも成長を続ける必要があると考えています。
−−コンシューマーとプロマーケットの違いをどのように考えていらっしゃいますか?
ゲルハルト・ハーマン プロ分野では、私たちはマーケットやユーザーと非常に近い位置にいると感じています。プロオーディオに携わる人々は伝統を重んじる方が多く、愛用機器を変更したくないという意見も多く聞きます。快適さや音質はもちろんですが、製品の安定性も重視されます。私個人の意見ですが、こうした傾向があるが故に、beyerdynamicはプロオーディオ分野で名を馳せ、多くのユーザーに受け入れられているのではないでしょうか。我々のヘッドホンはすべてのパーツが交換可能であり、すなわちスペアパーツを入手して修理することができます。プロ向けの製品は、ユーザーが創造的に仕事をするために私たちが提供しているツールです。プロギアの世界にファッションを売り込もうとしているわけではありません。彼らが何を必要としているのか、何が問題になっているのかを聞き、それらの問題点を可能な限り満たすように努めています。
プロジェクト管理と協力体制が製品開発の鍵
−−社内の製品開発体制はどのようになっているのでしょうか?
ゲルハルト・ハーマン 開発チームはデザイン、設計、製品管理などさまざまなセクションに分かれています。例えば、プロオーディオのプロダクトマネージャーが新製品を開発したいと考えている場合、彼はさまざまなチームに“こういう製品を作りたい”という説明を行います。それぞれのチームが、その意向に基づいて調査や部材の調達、部品の開発などに取り組みます。コア・コンピタンス……beyerdynamicの核となっているのはこの点で、強力なプロジェクト管理と、これらすべての段階で各所の調整を行う協力体制にあると思います。また、研究開発部門には、研究だけを行うチームがあります。ドライバーに採用する新テクノロジー、新しい材料、新しい設計、ドライバー材料の選定などはここで行い、設計担当エンジニアや生産担当者と非常に緊密に連携しています。
−−つまり、各セグメントとは別に、基礎技術の研究セクションがある?
ゲルハルト・ハーマン はい、私たちは独自の研究チームを持っています。また、社内にインダストリアル・エンジニアリングのチームもあり、彼らが使用する多くの機械はダイアフラムの整形やコイルの製造などに使われるものです。弊社はこうした核となる部分を市場にあるものをあまり使用せず、beyerdynamic内部で生み出せるように努めています。
−−プロ分野の製品について、日本のクリエイターへ向けたメッセージをお願いします。
ゲルハルト・ハーマン DT 770 PROはヨーロッパや米国でスタンダードとなっている製品です。しかしながら、多くの国内メーカーを擁する日本のプロ・マーケットにおいては、私たちは他国から来た新参者であるとも言えるかもしれません。ですから、ぜひbeyerdynamicの製品を試してみていただきたいですね。我々の製品のサウンドと快適性は、比類ないものだと私は確信しています。そしてそれは、世界中の多くのスタジオで証明されています。多くの有名なアーティストがbeyerdynamicのマイクでレコーディングし、多くのプロデューサーやエンジニアがbeyerdynamicのヘッドホンでミックスしているのですから。選択肢として考慮していただければ、あなたに適した新しいツールとしてbeyerdynamic製品を“見つけて”いただけると思います。
5月25日発売のサウンド&レコーディング・マガジン7月号では、編集部スタッフがドイツbeyerdynamic本社を訪問! CEOへのインタビューを掲載する予定です。