beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition レビュー:ブランドの100周年を記念して従来機をアップデートした密閉型ヘッドホン

beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition レビュー:ブランドの100周年を記念して従来機をアップデートした密閉型ヘッドホン

 今年創業100周年を迎える老舗beyerdynamicから、密閉型のDT 770 PRO X Limited Editionが登場。1985年の発売以来スタジオ録音モニター用ヘッドホンの定番であり続けるDT 770 PROに、最新ドライバーが搭載された限定生産モデルだ。2021年にPRO Xシリーズとして発売されたDT 700 PRO Xと同じドライバーを搭載した本機が、どのような仕上がりになっているのかチェックしていこう。

ミニXLRの着脱式ケーブルを採用 触り心地良いイヤーパッドの優れた装着感

 遠目では従来機とほとんど同じデザインに見えるが、本機を手に取って細部に見入ると細かい変更があちこちに確認できる。ハウジングが少し高くなり、アームが接続されるヒンジ部分、スライダー入り口のエンブレム部分などはDT 1770 PROに似ている。エンブレム裏側のネジはプラスネジからトルクスネジに変更となった。上位機種のノウハウが生かされた細部のリニューアルで、従来パーツからの使い回しなどはかなり少ないと思った方がいいだろう。

スライダーの接続部のエンブレム。“LIMITED EDITION”“1924 2024”の表記は、本機が100周年を記念したモデルであることを表している。中央の“y”はbeyerdynamicの社名ロゴマーク

スライダーの接続部のエンブレム。“LIMITED EDITION”“1924 2024”の表記は、本機が100周年を記念したモデルであることを表している。中央の“y”はbeyerdynamicの社名ロゴマーク

 一方、大きな変更点は、3mの付属ストレートケーブルがミニXLRの着脱式になってリケーブルが可能になったこと。これはDT 700 PRO Xと同じもののようで、変換部分のネジ山の径がさらに細くなりモバイル機器のケース穴に接触しない工夫が施されている。さらにヘッドバンドカバーの内側にはV字型の切り込みが付いて、頭頂の装着感が改善されている。

ヘッドバンドの内側、頭頂が当たる部分にはV字の切り込みが入れられている(赤枠)

ヘッドバンドの内側、頭頂が当たる部分にはV字の切り込みが入れられている(赤枠)

 本体の重さは305gで、ケーブルは実測65g。DT 770 PROの32Ωモデルがケーブル込みで325gなのでそれよりは重いが、250Ωモデルよりは10g軽い。ヘッドバンドは8段階のスライダーで調整可能。シルバーで肌触りの良いイヤーパッドは見た目よりもしっかりとした固さがあり、落ちそうな気がしない。

イヤーパッドはベロア生地を採用。触り心地の良さと、しっかりした装着性が実現されている。別売りで用意されているイヤーパッド、EDT 770 Vに交換することも可能だ

イヤーパッドはベロア生地を採用。触り心地の良さと、しっかりした装着性が実現されている。別売りで用意されているイヤーパッド、EDT 770 Vに交換することも可能だ

 何より装着感が素晴らしく、側圧は5.5Nとやや強めの数値で、遮音性能が16dBAもあるため音漏れは少ない。背中側に位置するヒンジの脇に隠れた小さな穴から、少し低域が出ていることが確認できたが、録音には全く問題にならないだろう。また別売りのDT 770 PROの交換用イヤーパッドがそのまま使えるのもうれしいところ。

DT 700 PRO Xと同じドライバーを搭載 録音時のモニタリングに向いた高域の伸び

 本機に搭載されているのは、DT 700 PRO Xと同じSTELLAR.45と呼ばれる45mmドライバー。能率(音圧レベル)は98dBだが、48Ωと低インピーダンスなので実用上では大きな音量に感じる。オーディオI/Oや単体ヘッドホンアンプ、各種モバイル機器までどの接続でも満足できる音量が得られた。中でもApple iPadとの相性がピッタリで、豊かな低域とともに耳に聴こえやすい高域がうまく鳴っていると感じた。密閉型ながら音色はドライにコントロールされ、箱鳴りは少ない。プラグの挿しやすさも含めスマートフォンとの相性もかなり良い。

 1985年に発売されたDT 770シリーズの周波数特性は、400Hz~2kHzまでのニュートラルな中域、その両脇の200~300Hz、3~4kHzにそれぞれ6dBほどの谷があり、さらにその上下には大きめの強調があるというスマイリーフェイス型が特徴となっている。本機もそれを受け継ぎながらさらにSTELLAR.45ドライバーの特徴が加わっているものと思われる。6kHzからハイエンドまでの伸びがかなり良い。また300Hz辺りの中低域の谷はよりなだらかなので、全体的に見ると中抜きサウンドに感じられる。ローエンドに関してもDT 700的なカーブが加わり、60Hz辺りは下がりながらもそれ以下の帯域が多めに出ていることで、チェックの際などにトラックの問題点を早めに知ることができるだろう。

 なおドイツのbeyerdynamic本社サイトにはFAQがあり、DT 700 PRO Xの特性はDT 770 PRO X Limited Editionよりもリニアという記述があるので、比較購入時の参考にしていただきたい。

 スタジオ録音時のDAWトラックの音質はミックス、マスタリング処理する前の音であり、演奏者用モニターとしては本機のように高域や低域が聴きやすい機種が好まれる(ミックス~リスニング用としては、よりリニアな特性を持つオープン型の上位機種をという選択肢もあるだろう)。DT 770 PROシリーズは高い耐久性、交換パーツの充実、運用コストの低さなど、演奏者のモニター用としてのメリットが大きい。特にDT 770 PRO X Limited Editionは高性能ドライバーによって声の高域成分がしっかり強調されているので、ボーカル録音からじっくりと試してみていただきたい。

 

原口宏
【Profile】長年のミキシングエンジニア業に加えて、2023年よりHiroshi Haraguchi名義で完全ソロの自作アルバムを配信開始。最新曲はSEQUENTIAL Prophet系音源を多用した「Far East Xmas」。

 

 

 

beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition

オープンプライス(市場予想価格:38,860円前後)

beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition

SPECIFICATIONS
▪形式:密閉ダイナミック型 ▪周波数特性:5Hz〜40kHz ▪インピーダンス:48Ω ▪音圧レベル:98dB(1mW/500Hz) ▪全高調波ひずみ率:0.05%未満(500Hz) ▪重量:305g(ケーブルを除く) ▪付属品:着脱式ケーブル(3m)、6.3mm変換アダプター、専用バッグ

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