Pro ToolsでのNatural Lag「What Time」のアレンジ工程 〜後編〜|解説:MEG.ME

Natural Lag「What Time」のアレンジ工程 〜後編〜|解説:MEG.ME

 こんにちは、音楽クリエイターのMEG.ME(メグミー)です。Avid Pro Tools連載2回目は、前回に引き続きNatural Lag「What Time」の編曲作業をご紹介していきます。

ストリングスのキースイッチ切り替えにはバーチャルMIDIキーボードを活用

 まずはストリングスの打ち込みから。この曲では生演奏での差し替えなしの、打ち込みストリングスで完成を目指しました。私の場合、音色に細かいニュアンスや生感を出すために、ソロストリングス音源とアンサンブル音源をレイヤーしています。トラック数はかなり増えてしまいますが、ストリングス全体としてのまとまりを出すために、各トラックをバスに送ってStringsという1つのAUXトラックにまとめ、ストリングス全体の音作りをしやすくしています。

 ではまず、ソロの第1バイオリン(トラック名:Violin1)から。音源はbest service Emotional Violinを使用しました。ストリングスの打ち込みでは奏法を変えるキースイッチを多用しますが、そこで大活躍するのがバーチャルMIDIキーボードです。これは1オクターブの範囲をコンピューターのキーボードで打ち込める機能。バーチャルMIDIキーボードのオクターブをキースイッチの音域に合わせれば、左手はコンピューターキーボードでキースイッチを、右手では鍵盤でフレーズを弾き、リアルタイムレコーディングできてしまいます。

第1バイオリン(Violin1トラック)のMIDIエディタ画面(赤枠)とバーチャルMIDIキーボード(黄枠)。バーチャルMIDIキーボードはコンピューターのキーボードで1オクターブの範囲の演奏を行える機能。Shift+Kで呼び出せる。外出先など鍵盤がないシチュエーションでも打ち込み作業ができて便利だ。白鍵はA〜Kキー、黒鍵はW〜Uキーを使用する。Z/Xキーでオクターブの変更、C/Vキーでベロシティの変更を行う(コンピューターのキーボードはベロシティに対応していないので、ここで数値を変えない限り一定のベロシティとなる)。筆者はストリングスを打ち込む際、右手で鍵盤を弾きながら、左手でバーチャルMIDIキーボードを使ってキースイッチを切り替え、リアルタイムレコーディングしていく

第1バイオリン(Violin1トラック)のMIDIエディタ画面(赤枠)とバーチャルMIDIキーボード(黄枠)。バーチャルMIDIキーボードはコンピューターのキーボードで1オクターブの範囲の演奏を行える機能。Shift+Kで呼び出せる。外出先など鍵盤がないシチュエーションでも打ち込み作業ができて便利だ。白鍵はA〜Kキー、黒鍵はW〜Uキーを使用する。Z/Xキーでオクターブの変更、C/Vキーでベロシティの変更を行う(コンピューターのキーボードはベロシティに対応していないので、ここで数値を変えない限り一定のベロシティとなる)。筆者はストリングスを打ち込む際、右手で鍵盤を弾きながら、左手でバーチャルMIDIキーボードを使ってキースイッチを切り替え、リアルタイムレコーディングしていく

 88鍵のA-1より低い音域にアサインされたキースイッチも打ち込み可能です。なお、リアルタイムレコーディングしたMIDIノートはクオンタイズしますが、打ち込み感が出ないように、クオンタイズの強さを60〜70%程度にしました。

 第1バイオリンの次は、続けて第2バイオリン(Violin2)、ビオラ(Viola)、チェロ(Cello)を打ち込みました。Natural Lagはベーシストがいるバンドサウンドなので、低音のコントラバスは使っていません。また、今回はイレギュラーでViolin3トラックも追加。これは第2バイオリンが2声に分かれるイメージです。これらの打ち込みでは、前回もご紹介したようにMIDIエディタ上に5トラックをすべて表示し、MIDIノートをトラック別に色分けした状態で和声を確認しながら作業しました。この方法だと縦のラインも確認しやすくなります。

 ソロ音源の次はアンサンブル音源の打ち込みです。ここで注意したいのは、音源が変わると同じベロシティのMIDIデータではニュアンスが違ったり、音の立ち上がりや伸びが違ったりしてしまうこと。そこで面倒ではありますが、ソロのMIDIデータをコピペするのではなく、もう一度同じフレーズをリアルタイムレコーディングしていきました。この一手間でリアルな雰囲気を出せるようになります。

 打ち込み後は、全トラックをコミット機能でオーディオ(WAV)に変換し、クリップゲイン ラインを表示して各トラックのボリュームを大まかに調整しました。各トラックの音量はこの後にインサートするコンプやEQのかかり具合に影響するので、この段階で行うのです。クリップゲイン ラインでの音量調節は、波形のグラフィックにも反映されるので、目視でも確認できて便利です。その後、各トラックの音色や音量、パンもさらに調整。特にストリングスでは音量のオートメーションでリアルな表現を心がけています。

上から2段目がViolin1トラックで、その下にViolin2、Violin3、Viola、Celloとソロ音源のトラックが並び、さらにその下にViolins1、Violins2、Violins3、Violas、Celliとアンサンブル音源のトラック、そしてこれらのストリングスパートをまとめたAUXトラックのStringsトラックが並ぶ。これらはMIDIで作成された後、コミット機能でオーディオ化されたもの。また各トラックにはクリップゲイン ラインが表示されており、音量調節が施されている

上から2段目がViolin1トラックで、その下にViolin2、Violin3、Viola、Celloとソロ音源のトラックが並び、さらにその下にViolins1、Violins2、Violins3、Violas、Celliとアンサンブル音源のトラック、そしてこれらのストリングスパートをまとめたAUXトラックのStringsトラックが並ぶ。これらはMIDIで作成された後、コミット機能でオーディオ化されたもの。また各トラックにはクリップゲイン ラインが表示されており、音量調節が施されている

エンジニアとのやりとりはセッションファイルで レコーディング後はプレイリストでテイク編集

 この時点でギター以外の形が見えてきましたので、ギタリストに現状デモのインスト音源を送り、ギターのプリプロをしてもらいました(今回は書き出したインストのWAVとコードのMIDIデータで作業していただきました)。その後、何度かやり取りして演奏の方向性を決め、届いたギターのデータをエディット。アレンジの最終イメージを固めていき、ドラム、ベース、ギターのレコーディング用データを作りました。

 ここまでくるとトラック数やデータ量が多くなるので、ドラム、FX、キーボード、ベース(デモ)、ストリングスの各トラックをステムにして書き出します。そして、新規にレコーディング用セッションを作り、ステムをインポートしてレコーディングエンジニアの方にお渡しします。

レコーディング用のセッションファイル。上からクリック、ボーカルのデモ(Vo Demo)、キーボード(Key)、ドラムのデモ(DemoDr)、エフェクティブ系サウンド(Fx)、ベースのデモ(DemoBass)、ストリングス(Strings)、そして4本のギターデモ・トラックが並んでいる。このセッションファイルをレコーディングエンジニアの方に渡して、デモを本番の演奏に差し替えていく

レコーディング用のセッションファイル。上からクリック、ボーカルのデモ(Vo Demo)、キーボード(Key)、ドラムのデモ(DemoDr)、エフェクティブ系サウンド(Fx)、ベースのデモ(DemoBass)、ストリングス(Strings)、そして4本のギターデモ・トラックが並んでいる。このセッションファイルをレコーディングエンジニアの方に渡して、デモを本番の演奏に差し替えていく

 その後、レコーディングが終了したら、そのデータをセッションごといただき、必要に応じて各楽器へさらにエディットを加えていきました。これはバンドメンバーの意向も反映しつつ、タイミングを調整したり、テイクを差し替えたりといった作業です。その際は、プレイリスト機能が大変役に立ちます。プレイリストは1つのトラック内に幾つもテイクを保存でき、その中のベストなテイクの範囲を選択してStart+Alt+V(Windows)/control+option+V(Mac)を押すと、メインプレイリストに貼ることができるというもの。グループを組んでおくと、同じグループ内でのエディット結果が反映されるので、ドラムなど一度に多くのマイクを使って録音する楽器や、ギターやベースのようにアンプとラインを同時に録音する場合にすべて同時にエディットできて非常に便利です。

ベースのアンプ録りトラックとライン録りトラックのプレイリストを表示してエディットを行っているところ。両トラックをグループ化しているので、片方を選択すると、もう片方も選択される。なおプレイリストはトラック・ビュー・セレクタから“プレイリスト”を選択すると、表示させることができる(下の画面の赤枠がトラック・ビュー・セレクタ)

ベースのアンプ録りトラックとライン録りトラックのプレイリストを表示してエディットを行っているところ。両トラックをグループ化しているので、片方を選択すると、もう片方も選択される。なおプレイリストはトラック・ビュー・セレクタから“プレイリスト”を選択すると、表示させることができる(下の画面の赤枠がトラック・ビュー・セレクタ)

 次に、ストリングスやピアノなどのステムトラックを、ステム作成以前のセッションからインポートして差し替え、あらためて調整が必要な箇所をブラッシュアップ。例えば、ピアノのフレーズを変更したいときは、ピアノのインストゥルメントトラックのMIDIデータを調整して、そのMIDIクリップをピアノのオーディオトラックにドラッグすれば、簡単に必要な部分だけをオーディオに書き出せます。

上段がピアノのインストゥルメントトラック。修正した部分のMIDIクリップを下のオーディオトラックへドラッグするオーディオに変換される

上段がピアノのインストゥルメントトラック。修正した部分のMIDIクリップを下のオーディオトラックへドラッグするオーディオに変換される

 最後に幾つかの箇所でインパクトを加えたり、セクションの切り替わりを印象づけるためのFX的なサウンドを数点追加。全トラックが出そろったら、あらためて音色や音量、パンなどの調整を行ってアレンジ作業は完了です。

 ここまできたら、いよいよ納品。セッションファイルごとミックスエンジニアの方にお渡しします。

ミックスエンジニアの方への納品用セッションファイル。クリック、ボーカルのデモ、そしてドラムの各楽器とそれらをまとめたAUXトラックが並び、その下にはベースとアンプとライン、FX、ピアノ、バイオリンと並ぶ。セッションファイルでのやりとりは、データの書き出しといった手間を減らすことができて非常に便利。エンジニアの方とのやり取りだけでなく、コライトなどの制作においても、データのやり取りをスムーズに行えるだろう

ミックスエンジニアの方への納品用セッションファイル。クリック、ボーカルのデモ、そしてドラムの各楽器とそれらをまとめたAUXトラックが並び、その下にはベースとアンプとライン、FX、ピアノ、バイオリンと並ぶ。セッションファイルでのやりとりは、データの書き出しといった手間を減らすことができて非常に便利。エンジニアの方とのやり取りだけでなく、コライトなどの制作においても、データのやり取りをスムーズに行えるだろう

 リバーブやディレイといった空間系エフェクトはお任せしたいので、トラックには直接インサートせず、センド&リターンでかけています。エンジニアさんに意向を伝えつつ、AUXをインアクティブにすれば簡単にオフにできるため、ウェットとドライの両方のパラデータを用意する手間も不要、工程もデータ量も減らせます。音量やパンなどもこちらの意向を伝えつつ、お任せすることができます。作り手にとっても、受け取る側にとっても、セッションファイル納品はまさに良いことずくめなのです。

 今回は、納品までの私の作業をご紹介しました。次回からは2回にわたり、書き下ろし楽曲のゼロイチからの制作過程をご紹介していきますので、お楽しみに!

 

MEG.ME

【Profile】3歳からピアノ、7歳で作曲を始める。数々のコンクールで受賞歴を持ち才能が注目される中、大学では作曲を専攻し音楽知識をさらに深める。その後、シンガーソングライターの活動を経て、2011年8月よりMEG.ME名義で作家活動をスタート。クラシックからポップスまで多様なジャンルを得意とし、ミュージカルや舞台音楽なども手掛けるほか、キーボーディストとして世界各地で演奏活動をするなど、作詞/作曲/編曲家、プレイヤーとしてマルチに活躍するクリエイター。

【Recent work】

『GRLOW』
Natural Lag
(avex)
Da-iCEのメンバー花村想太がボーカルを務めるバンドNatural Lagの初フルアルバム。本連載のお題であるMEG.MEが編曲を手掛けた楽曲「What Time」も収録

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac
▪最新版のmacOS Monterey 12.7.x、またはVentura 13.6.x
▪M2、M1あるいはIntel Dual Core i5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのIntel Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2023年12月時点

製品情報

Avid Pro Tools

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