近接効果を狙いやすくするために
前面を開けたCutawayショック・マウント
ケースにはマイク本体と、ROSWELL PRO AUDIOのマイクでおなじみ、Cutwayショック・マウントが収められています。マイクのグリルは、Mini K47とほぼ同じです。こういったところで価格を抑える努力をしているであろう点に、創業者マット・マクグリン氏の堅実で技術者的な思考がさりげなく感じられて、好感が持てます。Mini K87を手に取ってみると、しっかりとした頑丈な作りであることが伝わってきました。小ぶりなボディでありながらもK87スタイルのラージ・ダイアフラムを搭載し、クリアな収音を目指してトランスフォーマーレス回路を採用しているコンデンサー・マイクです。
ショック・マウントは近接効果を狙いやすいように、マイクの前面を遮ることのないデザインが施されています。この形状が最も生きてくるのは、ギターのキャビネットにマイキングするときでしょう。以前Mini K47をレビューした際も感じたのですが、筐体が小さいおかげで本当にマイキングがしやすいのです。このサイズ感が、マイクの設置場所やソースを選ばない理由の一つであることを強調しておきます。
まずはアコースティック・ギターを弾きながらチェックしていきます。第一印象は感度の良さ。ずっと弾き続けてしまうほど気持ち良いサウンドです。アルペジオは引き締まったサウンドで指で弾く柔らかいニュアンスを描写し、ストラミングでは各弦がさらさらと流れていくような美しい質感でキャプチャーしてくれました。Mini K87はメーカーのWebページで“透明感のあるニュートラルな音質でありながら、ソースのエモーションも十分にとらえることのできるマイク”といった旨の内容で紹介されているのですが、まさにその通りのキャラクター。この雰囲気からするとアコースティック・ギターをはじめバイオリンやピアノなど、メジャーなアコースティック楽器はほとんどカバーできるのではないでしょうか。
次に最も使われることが多いであろうボーカルで試してみました。ポップ・ガードを立てずに使用してもシビランスは目立たず、アコースティック・ギターで試したときと同様にニュートラルな印象。中域の柔らかさを有する情報量の多いサウンドで、素晴らしい表現力を持っています。ナレーションやブロードキャストに適していそうな印象で、特にナレーション録りはニュー・スタンダードになってもおかしくないポテンシャルを持っているように思います。今までの経験上、こういった素朴で気取ったところが無いサウンドのマイクは飽きがこないので、長い付き合いができそうです。
狙ったサウンドを作りやすい
ニュートラルで情報量の多い音色
以前Mini K47を試したときも自然でニュートラルなマイクだと感じましたが、ニュートラル具合ではMini K87に軍配が上がります。ROSWELL PRO AUDIOの中でMini K87はちょうどMini K47とDelphos IIの中間に位置するサウンドのマイク、といった印象を受けました。この製品ごとのコントラストは、とても興味深く思います。
説明書を見ると“ドラムのオーバーヘッドにも良い”と書いてあったので、モノラルでトップに立ててみました。金モノに嫌なピークが付くこともなく、全体的に明るくオープンなサウンドです。そしてダイナミクスの表現力も見事。ルーム・マイクにも向いていそうですね。
そして、特筆すべきはEQのかかり方が抜群に良いこと。独特の柔らかさがあり、ねらった音質にぴたっと決まるんです。これは情報量の多さや、ノイズの少なさなどから起因していると考えられます。選定した部品をハンドビルドし、出荷前にすべての個体を自社で厳しくチェックしている成果の現れでしょう。ここまで良いとマッチド・ペアでトップを録って、さらにルームも……と夢は広がります(写真②)。
これほどまでの哲学とアティチュードをこの小さなボディに詰め込む試みに、脱帽するばかりです。ROSWELL PRO AUDIO製マイクのすごさは、エンジニアリングの基本を押さえた大切なサウンドをしっかりと体現しているところ。レコーディングでは定番となっているマイクの良さを低価格で実現しつつ、現代のニーズにあったチューニングを施すというバランス感覚は、幾多のマイクを観察してきたマクグリン氏からこそ成せる技だとあらためて感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)