「BEHRINGER Pro-1」製品レビュー:ビンテージ・シンセの名機を元に開発したデスクトップ型モノシンセ

BEHRINGERPro-1
 Model DやOdyssey、K-2など、有名なアナログ・シンセのクローンを次々と発表しているBEHRINGER。今回新たにモノシンセの名機を元にしたPro-1が発売された。レイアウト、デザイン、ノブに至るまで丁寧に再現されているのはもちろん、回路もこだわりの再現がなされている。

3340の回路を再現した太い音
LFOは複数の波形を組み合わせ可能

 まず最初にPro-1の参照元であるオリジナル機について触れておきたい。アメリカのシンセ・ブランドが手掛けたオリジナル機は、ビンテージのモノフォニック・シンセとしては後発の1981年に発売されている。同社にはポリフォニック・シンセの名機中の名機と呼べるモデルがあり、それをモノフォニック版にしたような仕様となっていたが、ポリモジュレーション・セクションがリファインされていたり、ステップ・シーケンサーやアルペジエイターも装備していた。さらに当時としてはかなり低価格で発売され、非常に優れた製品だった。Pro-1はその機能とサウンドを完全に再現したシンセということで、非常に興味深い。

 Pro-1のパネルにはオリジナル機と全く同じレイアウトでパラメーターが並ぶ。オシレーターは2つあり、OSC Aはノコギリ波とパルス波をオン/オフで混ぜられて、オシレーター・シンクも装備。OSC Bはノコギリ波/三角波/パルス波のオン/オフに、LFOとしても使用できるLO FREQモード、入力したMIDIノートにかかわらず一定の音高となるKYBD/OFFスイッチなどが用意されている。

 サウンドは、グループ会社であるCOOL AUDIOのV3340を使用しているため非常に太い。その音はノイズまたは外部入力をミックスできるミキサーを経由し、フィルター、アンプ・セクションへとつながっていく。フィルターもV3320を使用しており、非常に効きが良く、レゾナンスを上げると強烈に自己発振する。エンベロープ・ジェネレーターはフィルターとアンプそれぞれに用意。LFOは1つだが、先に述べたOSC BをLO FREQモードにすれば最大2つ使用できるようになる。LFOも波形はノコギリ波/三角波/パルス波の3つがオン/オフ可能で、組み合わせるとほかでは聴いたことがないような面白いLFOの動きになるのも特徴だ。

シーケンサーとアルペジエイターを内蔵
MODEによる発音表現の幅が広い

 オリジナル機の最大の特徴になっているのが、パネル左側にあるモジュレーション群だ。Pro-1でもその内容は忠実に再現されている。

▲トップ・パネル左側に備わったモジュレーション・セクション。ソースはFIL   ENVとOSC B、LFOの3種類、反映先はOSC A FREQ、OSC A PW、OSC B FREQ、OSC B PW、FILTERの5種類がある。それぞれに用意されたWHEEL/DIRECTスイッチは、モジュレーションのかかり方が切り替えが可能。WHEELにするとモジュレーション・ホイールの信号によってモジュレーション反映量が増減し、DIRECTではAMOUNTの値で一定となる ▲トップ・パネル左側に備わったモジュレーション・セクション。ソースはFIL ENVとOSC B、LFOの3種類、反映先はOSC A FREQ、OSC A PW、OSC B FREQ、OSC B PW、FILTERの5種類がある。それぞれに用意されたWHEEL/DIRECTスイッチは、モジュレーションのかかり方が切り替えが可能。WHEELにするとモジュレーション・ホイールの信号によってモジュレーション反映量が増減し、DIRECTではAMOUNTの値で一定となる

 フィルター・エンベロープ、OSC B、LFOという3つのモジュレーション・ソースから、OSC Aの周波数、OSC Aのパルス・ワイズ、OSC Bの周波数、OSC Bのパルス・ワイズ、フィルターという5つのパラメーターをモジュレート可能。モジュレーション・ホイールを経由あるいはダイレクトにモジュレートができるようになっており、3つのソースそれぞれでアマウント量が設定可能だ。オシレーター・シンクしたOSC Aをフィルター・エンベロープでモジュレートした音はオリジナル機の定番だが、これも気持良く再現できた。

▲64音対応のシーケンサー×2基とアルペジエイターを搭載。ポリチェインやリトリガー/レガートなど、発音のモード設定セクションも用意している ▲64音対応のシーケンサー×2基とアルペジエイターを搭載。ポリチェインやリトリガー/レガートなど、発音のモード設定セクションも用意している

 非常に使いやすいシーケンサーとアルペジエイターもPro-1の大きな特徴だ。シーケンサーは2基装備。入力は実に簡単で、テンポはLFOをクロックとして使用する。オリジナル機は最大40音だったが、Pro-1は64音を使用可能だ。1980年代、ハワード・ジョーンズがオリジナル機のこの機能を駆使して素晴らしいライブを1人で再現していたのは圧巻であった。今ならRD-8などのリズム・マシンと組み合わせてシンセのベース・ラインを同期させるのが面白そうだ。

 MODEのボタン群も充実しており、NORMAL/RETRIGスイッチをRETRIGにすると毎回エンベロープが働くアルペジオに、NORMALにするとレガートなアルペジオになったりと、表現の幅が非常に広い。REPEAT/EXT NORMALスイッチは、1つの音をシンプルにリピートするもの。DRONEスイッチは信号入力無しで持続音を出す機能だ。さまざまな音の出し方が選べるのもPro-1の特徴となっている。なお、シーケンサーやアルペジエイターを作動させるとMIDIも生成される。コンピューターとのUSB接続でDAWを経由させている場合などでは、MIDIが再びPro-1に送られてしまい発音やノート情報に問題を起こすので、MIDIがスルーしないようにDAW側の設定で注意が必要だ。

 同社から既に発売されているクローン機同様、OSC CV、GATE/CLK、LFO CV、CUTOFF CV、RESONANCE CV、EXT(外部音声)といった入力と、LFO SHAPE、GATE、MIXER、FILTER ENV、AMP ENVなどの出力がパネル上部に装備されている。本体はEurorackケースに装着できるので、Model DやK-2、Neutronのほか、単体のモジュールなどと組み合わせてモジュラー・シンセの一部として音作りするのも楽しそうだ。16ボイスのポリチェーン機能も備えているので、複数台でポリフォニック演奏したときにあの名機のようなサウンドになるのか?と期待が膨らむ。

 Pro-1の筐体の作りはかなりしっかりしていて、金属製のパネルに木製のサイド・パネルという組み合わせ。ノブも適度な重さを感じるし、コンパクトにまとまっているといっても、ノブの間隔は無理が無く非常に使いやすかった。今後もBEHRINGERからは多彩なクローン機が発売されるようなので、楽しみにしたい。

▲リア・パネル右側にはアウトプット(フォーン)、MIDIチャンネルを切り替えるDIPスイッチ、MIDI OUT/THRU端子、コンピューターと接続してMIDIの送受信を行うためのUSB端子(タイプB)が備わっている。対応OSはWindows 7以降またはMac OS X 10.6.8以降 ▲リア・パネル右側にはアウトプット(フォーン)、MIDIチャンネルを切り替えるDIPスイッチ、MIDI OUT/THRU端子、コンピューターと接続してMIDIの送受信を行うためのUSB端子(タイプB)が備わっている。対応OSはWindows 7以降またはMac OS X 10.6.8以降

サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)

BEHRINGER
Pro-1
オープン・プライス(市場予想価格:37,600円前後)
▪シンセシス:アナログ・モノフォニック ▪VCO:3340×2基 ▪LFO:1基(OSC Bを2基目のLFOとしても利用可能) ▪VCF:3320 4ポール・ローパス・フィルター ▪シーケンサー:64音(キーボード・モード/ステップ・モード) ▪アルペジエイター:UPまたはUP/DOWNモード ▪外形寸法:424(W)×95(H)×136(D)mm ▪重量:1.8kg