
独自のワイド定志向性ホーンにより
斜め方向の放射パターン劣化を最小化
DXR MKⅡシリーズの大きく改良された部分はドライバーです。これまでのDXRシリーズより大口径かつ軽量な1.75インチのボイス・コイルを使用したネオジム高精度HFコンプレッション・ドライバーは、スピーカー全体の軽量化と20kHzに達する中~高域再生の両立を実現しています。
スピーカー・ユニットも、新しく選定/カスタマイズ。非常に高出力なウーファー・ユニットは4つのフルレンジ・モデルで構成されており、低ひずみかつはっきりと低域を再生します。
特に変化を感じるのは独自開発のワイド定指向性ホーンです。大型の高域トランスデューサーにはYAMAHA独自開発の新しい定指向性ホーンを組み合わせ、従来のホーンでは避けることのできなかった斜め方向の放射パターン劣化を最小化。より理想的で安定したカバレッジを実現しています。このホーンの効果によって音声は長方形に近いパターンで広がっていくため、水平90°×垂直60°のカバレッジ領域のすみずみまでしっかりとフルレンジ・サウンドを届けられます。
また、クロスオーバーには、リニアな位相特性を持つFIRフィルターを採用した独自の“FIR-X tuning”を適用。FIR-X tuningは、低域/高域ユニット間のタイム・アライメントを調整しつつ、振幅特性と位相特性を最適化し、クロスオーバー帯域におけるレスポンスをスムーズにしています。音声信号はすべて48ビット高性能プロセッサーがち密に処理を行い、精度の高い音質を実現。また、優れたSN比とダイナミック・レンジを持つ24ビット・ディスクリートAD/DAコンバーターを採用しています。
また、内蔵の高域/低域ユニットに最適化された新設計の高効率クラスDアンプを搭載。出力は1,100W(ダイナミック・パワー)を誇ります。最大出力音圧はDXR10MKⅡで132dB SPL、DXR12MKⅡでは134dB SPLを実現しました。
ハイパワーかつ立ち上がりの良い
ナチュラルな高域再生を実現
早速現場に持ち込んでテストしてみました。1つ目の現場は200人クラスのイベント・ホール。こちらでスピーチ主体の接客コンテストが行われ、DXR10MKⅡを片側につき1台使ってみました。
取り出してみると、筐体は以前と同じなのですが1kgほど軽くなっています。DXR10MKⅡが13.9kg、従来のDXR10が14.6kgです。DXR10のときにもそれほど重い印象は無かったのですが、さらに軽量化されたことで取り回しがはるかに楽になりました。わずかでも軽量化を行う開発姿勢には好感を持ちます。女性スタッフでもスタンドの上にセットするのは簡単です。
当日は、FOHモードでハイパス・フィルターを100Hzに設定し、無指向性のヘッドセット・ワイアレス・マイクを使用していました。改良されたHFコンプレッション・ドライバーと定指向性ホーンがとても良くできており、扱いやすいサウンドです。ハウリングの心配も無く、ナチュラルな高域がホール全体に届いていました。
2つ目の現場は、月に一度ほど伺っているライブ・ハウスで行われた、100名ほど収容のフロア・ライブです。常設のスピーカーにブーストする形でDXR12MKⅡを片側につき1本持ち込み、本番のライブを行いました。こちらも軽量化によって楽にセッテイングできます。DXR12の19.3kgからDXR12MKⅡの18.6kgへの少しの差が非常に軽く思えます。
まずはライブ・ハウスのサブウーファーとのマッチングを試しました。コンソール側で位相の設定など行ってアライメントを調整。本体のアンプはFOHモードで、ハイパス・フィルターは100Hz。入力感度は+3dBに設定しました。出力も全く問題無く、特にDJチームからもハイパワーで立ち上がりの良いサウンドが好評です。スピーカーの直近と後方のサウンドも大きな差が無いことを確認しました。本番時にアンプのシグナルなど背面をたまにチェックしましたが、余裕で動いている様子で安心です。
2つの現場を通じて感じたのは高域の聴こえ方がとても滑らかでナチュラルなこと。高域の能率を上げてハイ上がりなサウンドになってしまっているのではないかと想像していたので、良い意味で裏切られました。低域と高域のつながりが良いスムーズな音色はどんな現場でも使いやすいことでしょう。 価格を抑えながら大幅な改良がなされたDXR MKⅡシリーズ。ますます死角のないオールラウンダーとして、今後も受け入れられていくことは間違い無いと確信しています。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)