16ステップ・エンベロープをアサイン可能
原音のブレンドにも対応
Portalは複雑なグラニュラー合成を用いたプラグイン・エフェクト。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VSTに準拠しています。音をチョップしてリズミカルにリピートするディレイやリバース、複雑に絡むピッチ・チェンジやハーモナイズ、あるいは元音からかけ離れた幽玄なアンビエント・サウンドなど、未知のサウンドを生成可能です。ポインターを動かすだけでエフェクトが変化するXYコントロールを用いて、従来では難しかった劇的な音色変化を簡単に作り出します。
Portalを使う上で重要な、グラニュラーについて説明しましょう。一般的なディレイなどのエフェクトやサンプラーは、入ってきた音を取り込んでそのまま頭から再生しています。一方、グラニュラーは取り込んだ音を0.5~数十ms単位で粒のように分割して再生するのです。たとえば元音のABCDという粒の並びをAABBCCDDという並びで再生させれば、2倍の長さにできます。粒の長さや数、ピッチを変更したり、粒同士にクロス・フェードをかけて滑らかにしたりと、さまざまな手法で音を作り変えることをグラニュラー(粒)シンセシスと呼ぶのです。
このような要素をコントロールしてグラニュラー・エフェクトをかけ、ディストーションやコンプ、リバーブ、ディレイ、ビット・リデューサーといった内蔵エフェクトも併用して、複雑な音を作れます。また、原音のブレンドも可能です。
Portalの大きな特徴が、パラメーターを動かすモジュレーションとマクロの存在。どちらもPortalのほぼすべてのパラメーターにアサインできます。モジュレーションは16ステップのループするエンベロープを2つ備えており、カーブを描くことで単純なLFOやステップ・シーケンサーのような使い方が可能です。マクロはアサインした2つのパラメーターを、XY軸の座標を示すXYパッド上で数値を指定できます。
プリセットは250種類以上
XYコントロールで効果が劇変
お勧めの使い方は、プリセットを切り替えてXYコントロールを動かしていく方法です。プリセットは全部で250種類以上。上からSTART HEREやDRUMS、VOCAL、BASS、RHYTHMICといった11種類のカテゴリーに分けられていて、カテゴリーごとに24種類前後のプリセットが入っています。
それではエレピ音源を立ち上げて、手弾きをしながらプリセットを試していきます。XYコントロールと、ドライ/ウェットのスライダーをMIDIコントローラーにアサインしました。
START HERE内のDIGITAL TAPE TOYSというプリセットは、ぐわんとアンビエントな広がりが得られます。リバーブのかかったパッドのようにうねる音と、オクターブ上にピッチ・シフトした逆再生のリピート音が混ざって幻想的です。アンビエント・パッド的な用途オンリーかと思いきや、XYコントロールの座標を中央から左下に動かすと、コーラスやリバーブ成分が一気に消えて、8分音符でリバースして戻ってくるディレイ音だけになりました。そこで演奏をリズミカルなバッキング・フレーズにすると、リバース音が絡んで面白いサウンドに。さらにXYコントロールを右上へ素早く移動させると、まるでバケツの水を投げ放ったような別世界がやってきました。ドライ/ウェットを動かすと、リズム良く変化していいですね。
今度はシンセ・ベースに切り替えて、BASS内のBASS GROOVESをテスト。ここでも座標を左下にしてみると、スタッター・エフェクトのように16分音符でリピートします。16分だと遅いので、GRAIN CONTROLSセクションのDENSITYノブで32分音符にしました。簡単に設定できますね。
最後にドラム・ループで遊んでみます。DRUMS内のFLAM BOYは、すべての音が蜂が飛んでいるような音に変化。部分的にドライ/ウェットを切り替えると格好良くなります。SMEAR CAMPAIGNでは破壊的なローファイ・ループに豹変。水色のマクロを上げ下げすると、グラニュラーのテンポが急激に落ちることでザラザラの粒が見え始め、最後には粒一個になるような効果を見せました。これ、ものすごく楽しいです。ほかにはピッチを上げたリバース音が足されるSCUTTBUGSといった、使いやすそうなプリセットもありました。
いろいろと実験しましたが、とても楽しめました。もうPortalだけで10曲ぐらいできるのでは?と思っています。プリセットはあくまでも便宜的なジャンル分けなので、例えばドラムのプリセットをキーボードやボーカルにかけたりしても、良い結果が得られると思います。とにかくいろいろな音にプリセットをひたすら試していくのが吉ですね。Portalはエレクトロニックなギミックを付けるにはものすごく便利なプラグイン・エフェクトでした。超お薦めです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)