
スマート・デバイスと接続することで
リモート・コントロールや音声入力が可能
今回の改良で特筆すべき点は、コンピューター(Mac/Windows)やスマートフォン、タブレットとの連携機能。D-Box+の専用アプリをインストールした端末とBluetoothで接続することで、ほとんどの機能をリモート・コントロール可能です。ほかにもスマートフォンをトークバック・マイクとして使ったり、音楽をデジタルのまま送って再生する、なんてこともできてしまいます。

まずはモニター・セクションから紹介。ヘッドフォン(HP)とコントロール・ルーム(CR)があり、個別に入力ソースを選べます。基本的にHPはプレイヤーが耳にするモニターで、CRはエンジニア側のモニターです。いずれもヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)は、フロントとリア両方に用意されています。4Ωまでドライブできるので、ヘッドフォンのインピーダンス次第では外部でパラって複数のヘッドホンをつなげることも可能ですね。CRにはステレオのスピーカー出力(TRSフォーンL/R)を3系統装備。ラージ・モニターとニアフィールド・モニター、ラジカセをつなぐことが多いかと思いますが、1系統にサブウーファーをつないで再生することもできます。
入力ソースはアナログ(XLR/TRSフォーン・コンボ)、AES/EBU(XLR)、8chのサミング(D-Sub 25ピン)、USB(Mac/Windows)、Bluetoothを網羅。アナログ入力はセットアップで信号レベルを+4dBuか−10dBVのどちらかへ切り替えられます。AESはTHRU端子を装備しているので、マスター・レコーダーやVUメーターへ信号を送るのもいいでしょう。これらのアサインには自照式のスイッチを使用。オフの状態でも弱く光っているので、暗い環境でも認識しやすいです。ボタンを1秒以上長押しすると、手を離すまで一時的に切り替わります。一瞬だけ別の音を確認したいときに便利な機能です。
右端のボリューム・コントローラーはノッチ無しで、ボリュームの大きさは周囲を取り囲むLEDランプが示します。ボリューム・コントローラーは押しボタンにもなっており、ワンクリックすることでDIM(ディマー)が動作。どれだけレベルを下げるかは、専用アプリでセットアップできます。
トークバック・マイクはフロント・パネルに搭載されており、ENGAGEボタンでオンになります。リミッターが入ってるような音質でSN比は良くありませんが、会話はしやすいです。当然ですがトークバック・マイクはヘッドフォン・アウトからしか聴こえない仕様になっています。
そしてD-Box+の大きな特徴の一つである、8chのサミング・アンプ。各チャンネルのシグナルはLEDで確認できるようになっており、SUM TRIMノブで全体のボリュームが調整できます。奇数/偶数チャンネルはそれぞれステレオ・ペアになるように定位が固定されていますが、ch7とch8だけにはMONOボタンを搭載。ここにバス・ドラムやベース、ボーカルなどをアサインして、位相ずれの無い“どセンター”の定位を得ることができます。
定位感の良いスピーカー・アウト
温かみのあるサミング・アンプ
ここからは肝心の音質について。まずスピーカー・アウトの素晴らしさに心をうばわれました。筆者のスタジオで使っているものに決して不満は無いのですが、よりパンチのあるアタックと優れた定位感が感じ取れます。アナログからAES/EBUに切り替えたときの変化はよりそのキャラクターが顕著。全体の印象は大きく変わりませんが、デジタル入力の方が低域にスピード感があり、ふくよかに感じられます。同じD/Aを経由するUSBとBluetoothも、全く同じ傾向でした。
続いてヘッドフォン・アウトもチェック。なるほど、再生能力の高さが感じられます。高域まで非常に伸びた音でかつ硬さが無く、いわゆる高級なヘッドフォン・アンプのサウンドです。低域と高域のバランスに優れていて、良い感じにまとまっているように思いました。
そしてサミング・アンプ。これはまた違ったキャラクターを持っていて、アナログ感の強いウォームな傾向です。DAWのデジタルくささを解消するために使われることを想定しているのか、L/Rの2chだけで入れてもメインのアナログ入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)とはまた違った有機的なキャラクターです。多くの人に歓迎される質感だと思います。
録音ブース側に送る信号がヘッドフォン・アウトしか取れないため、別のキュー・システムを間にはさみたい方にとっては工夫が必要になるかもしれませんが、全体を通してやはり価格以上のクオリティと機能を持った製品だということが感じられました。アプリがとても使いやすかったのも良かったです。モニター・コントローラーとスマート・デバイスとの連動機能が、今後のトレンドになっていくかもしれませんね。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)