「NEKTAR TECHNOLOGY Bolt」製品レビュー:フィルターの代わりに変調での倍音変化で音作りを行うソフト・シンセ

NEKTAR TECHNOLOGYBolt
USB MIDIキーボード/コントローラーが評判のNEKTAR TECHNOLOGYがBoltというソフト・シンセをリリースしました。百花繚乱(りょうらん)なシンセ市場に参入したこのシンセを早速レビューしていきましょう。

倍音の並びやレベルを自在に変化
オシロスコープで波形を視認できる

Boltは最大16音ポリフォニックに対応するソフト・シンセ。Mac/Windowsで動作し、AU/VST2.4/VST3に準拠します。画面左右上部に並ぶ2つのオシレーターはそれぞれサブオシレーターとノイズ・ジェネレーターを持ち、FMとクロス・モジュレーションが可能。エンベロープは各オシレーターのアンプ用に1基ずつと変調用に1基の計3基で、LFOも3基搭載されています。また、EQやコーラス、ディレイ、リバーブというエフェクト・セクションやグライドなどのコントロール系も装備。プリセット数は500ほどを収録します。この概要だけを見て既存のシンセと比較した場合、特に飛び抜けた特徴は無いように思いますが、一番の違いは“フィルターが無い”という独特の考え方に基づいた音作り方式にあります。

現在主流となっているシンセサイザーは、ノコギリ波や矩形波といった元波形を組み合わせて複雑な倍音を生み出し、フィルターでカットすることで音を作る“減算合成”と呼ばれる方式になりますが、Boltには元波形やフィルターという概念がありません。一応オシレーターという名前こそ付いていますが、そこにはサイン波だけがあり、この波形に倍音を加えて変調を与えることで音を作る“ハーモニクス・シンセ”となっているのです。デフォルトのパッチを呼び出した段階ではサイン波が現れ、オシレーター・セクションにあるHARMONICSノブを右に回していくと、倍音が次々と加わっていきます。それぞれのオシレーターごとに倍音の調整が行えるため、2オシレーターというよりは、2台のシンセを1つの鍵盤でコントロールしていると考えることができるでしょう。

▲Boltの基本の波形はサイン波。OSC 1/OSC 2ともに備わっているHARMONICSノブ(赤枠)を右に回していくとサイン波に倍音が付加されていき、複雑なサウンドを作り出すことができる。HARMONICSノブの上に並ぶODD/INV/DEEPボタンや、ROLLOFFノブ、NOISEノブなどを組み合わせることで、倍音の変化にバリエーションを持たせることが可能。倍音変化を視覚的に確認できるのもポイントだ ▲Boltの基本の波形はサイン波。OSC 1/OSC 2ともに備わっているHARMONICSノブ(赤枠)を右に回していくとサイン波に倍音が付加されていき、複雑なサウンドを作り出すことができる。HARMONICSノブの上に並ぶODD/INV/DEEPボタンや、ROLLOFFノブ、NOISEノブなどを組み合わせることで、倍音の変化にバリエーションを持たせることが可能。倍音変化を視覚的に確認できるのもポイントだ

Boltは画面中央部にオシロスコープがあり、波形とスペクトラルを切り替えて表示できるようになっているので、倍音がどのように加わり、その結果どんな形になるのかが耳と目で確認できるのも興味深いところです。

音というのは各倍音の並びとレベルの組み合わせで決まりますから、HARMONICSノブだけではあまり多くのバリエーションを生成できません。しかし、Boltのオシレーターには音色変化を加えるさまざまなツールが用意されています。例えば、ODDボタンを押すと奇数倍音のみが生成されますし、DEEPボタンはローエンドを強調します。またROLLOFFノブは、文字通り高周波における倍音の並びにスロープを付けるもので、エンファシスのような効果が得られます。このようにサイン波1つに対して、あの手この手で倍音の並び具合やレベルを変化させ、さまざまな音を生成することが可能になるというわけです。

音を重ねるVOICE DOUBLEや
ひずみを加えるDRIVEを装備

音作りにおいて、時間軸での音の変化をどのように実現するのかも肝心なポイントです。いわゆる“ミャウミャウ”とか“ファーン”などに代表されるアナログ・シンセでおなじみの音は、フィルター・エンベロープでカットオフを動かすことが必須。Boltでは、MODULATION EGや3つのLFOを使って各パラメーターをコントロールします。例えばMODULATION EGで前述のHARMONICSやROLLOFFなどをコントロールすることで、あたかもフィルター・カットオフやレゾナンスを時間軸で変化させているような効果が得られるのです。往年のシンセ・ベースやブラス・サウンドなどの音作りにトライしてみたところ、思った以上にそれらしい結果が得られた上、さらに発展させてBoltならではの新しい音も次々作れたことは驚きでした。

搭載されている3基のLFOはとても強力。速度が0.01Hzから10kHzまで調整可能なことに加え、13種類の豊富な波形を持ち、モジュレーション・ソースとして使うことで何百倍もの音色バリエーションをもたらします。また、一度だけ波形を出力するワンショットというモードを選べば、第2、第3の変調用EGとして使うことができますし、MIDIクロックとの同期も可能ですから、FX系やウォブル系ベースなどの個性的なサウンドを練り上げるには持ってこいのツールでしょう。

Boltの音は、デジタルならではのクリアで硬質な感じですが、太い/荒っぽい音も簡単にこなします。例えばVOICE DOUBLEという音を重ねる機能では、ボイス数やステレオ幅などかなり細かく設定可能なので、嫌味の無いレベルから超分厚い低域までお好みで増量することができ、アナログ慣れした筆者でも十分納得できる太さだと感じました。

DRIVE(オシレーター・レベルの横にある三角マーク)もなかなか使える太さのある音。ほかのパラメーターとの組み合わせにより、冷たいひずみから柔らかいひずみまで、あるいは微妙なオーバー・ドライブからスピーカーに音が張り付くようなファズなど、隠し味としても大胆に使う場合でも外せない調味料的存在です。

“倍音をコントロールするシンセ”というと敷居が高そうなイメージを抱くかもしれませんが、Boltは直感的に扱えるので初心者でもすぐに触れると思います。とがったひずみやLFOで生成できるリズミカルなフレーズ、アナログとは一味違う独特のサウンドは、特にEDMやアンビエント、サウンドスケープといったシーンで歓迎されることでしょう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年7月号より)

NEKTAR TECHNOLOGY
Bolt
7,408円(beatcloud価格)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS X 10.9以降、AU/VST2.4/VST3で動作 ▪Windows:Windows 7以降(64ビット)、VST2.4/VST3で動作 ▪共通:インターネット環境(ダウンロード、アクティベーション、ディアクティベーションに必要)