
ピーク出力1,600Wのアンプを内蔵
12インチ径ウーファーで45Hzまで再現
DRM212は、中小規模のライブ・ハウスや宴会場、教会、簡易PAシステムのメイン・スピーカー、もしくは中規模以上のライブ・ハウスにおけるウェッジ・モニターなどを想定して設計されていると思います。12インチ径のウーファーと1.4インチ径のコンプレッション・ドライバーから成る2ウェイ仕様。内蔵クラスDアンプの最大出力は低域+高域で1,600W(ピーク)。周波数特性は45Hz〜20kHzとなっており、12インチ・ウーファーで45Hzまでカバーしているのは驚きです。
DRMシリーズのパワード・モデルは、MACKIE.独自開発の“Advanced Impulse DSP”を搭載しています。機能としては高精度なクロスオーバー、ドライバー間の干渉や位相を補正するタイム・アラインメント、ち密なチューニングを施したFIRフィルターによる音質向上などがうたわれています。そしてこれらにより、かつてはスタジアム用のハイエンド・システムでしか実現できなかった明りょうかつ高解像度なサウンドを再生するそう。さらにパワー・ファクター・コレクション・テクノロジーを備えたユニバーサル電源を採用し、電源が不安定な会場でも安定した運用ができるとのことです。“戦車級に頑丈な木製エンクロージャー”に先進的な機能を詰め込んだ、汎用性の高い製品と言えるでしょう。
実際に触れてみると、一般的な12インチ・スピーカーに比べて一回りほど大きく感じます。電源を入れると正面の緑色のLEDインジケーターが点灯しますが、これは任意に消灯可能。DSPの諸機能については、背面のフルカラー・ディスプレイを見ながらノブ1つで設定します。ディスプレイは標準状態でMAINメニューとなっており、出力音量などを変更可能。ノブを押し込むとMAIN、MODE、SUB、EQ、DELAY、CONFIGという6つのメニューの選択画面に変わります。
ディスプレイの下には音声入出力や入力ゲイン・ノブが用意され、ch1とch2はマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)とダイレクト・アウト(XLR)、ch3/4はライン・インL/R(ステレオ・ミニ)を装備。これら4つのチャンネルをミックスして出力できるミックス・アウト(XLR)もスタンバイしています。

音圧感がありつつダブつきの無い低域
下までしっかり伸びるのは特筆に値する
それでは肝心のサウンドをチェックしてみましょう。SHURE SM58でのボイス・チェックと音源を再生してのテストを行います。DSPのスピーカー・モード(周波数キャラクターを変える機能)はフラットな特性の“Live”に設定し、それ以外はデフォルトの状態。声を出してみると、すごく良いです。低域がタイトで余計な部分が一切無く、すっきりとした印象。MACKIE.のスピーカーは低域が強過ぎると感じたこともあるのですが、これは別物ですね。ダブつきが全く無く、高域にもシャリっとするようなところが全然ありません。全体の周波数バランスも良好です。ウェッジ・モニターとして床置きも試してみたところ、ある程度音量を出しつつマイクを向けてもハウリングしませんでした。Advanced Impulse DSPの効果でしょうか、プロ用ハイエンド製品とうたっているだけあると思います。
次に音源でのテスト。普段ライブ時のスピーカー・チェックに使用しているクラブ系の4つ打ち曲を再生し、声では分かりづらい45〜63Hz辺りの確認を行います。これにも驚きました。欲しいところまで、きちんと低音が伸びています。12インチ・ウーファーで、なぜここまで低い帯域をカバーできたのでしょうか? 恐らくバスレフ・ポートの設計も優れているのでしょう。ダブつきの無い本当にすっきりした出音ながら、音圧も感じます。音に関しては文句無し!といった感じです。
音に続いてDSPの機能も見てみましょう。主立ったところは3バンドEQ、スピーカー・モード、そして時間補正ディレイ。まずEQについては、ローシェルビング/ミッドピーキング/ハイシェルビングといった一般的な構成です。音源を再生しながらメニュー画面に入ると、リアルタイム・アナライザーが付いています! ただEQそのものは、画面も小さくシングル・ノブでの操作なので、正直なところ個人的には使いやすいと思いませんでした。ざっくりとした調整に使って、細かい音作りは別途単体のEQを用意した方が良さそうです。
スピーカー・モードに関しては、LIVEからCLUBに切り替えてみると100Hz辺りを中心に持ち上がる印象。SPEECHというモードでは低域が程良くカットされ中高域がやや強まるので、声をより聴き取りやすくなります。MONIへ切り替えると、ハウリングの起きやすい800Hz〜1kHzがカットされました。これも非常に的を射たセッティングだと感じます。そしてディレイ。これが搭載され、ディレイ・スピーカーやサラウンド・スピーカーとしての運用も視野に入りました。

今回、何よりもプロ用途として十二分な音質は特筆すべきものだと感じました。パッシブ・モデルも用意されており、現場の幅広い要望に対応できる頼もしいシリーズです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年7月号より)