
軽妙な動作と“即戦力の音”を両立
奏法をキー・スイッチに割り当て可能
スカイウォーカー・サウンドで録音されたForzo : Modern Brassは温かみのあるサウンド。12本のフレンチ・ホルン、4本のトランペット、8本のトロンボーン(テナー、バス、コントラバス)、2本のチューバというシネマティック向きの大編成となっており、3種類のマイク(クローズ、ルーム、ホール)で収録されています。もちろんマイク別に音量調整など細かな設定も可能です。個人的には、テナー・トロンボーンとバス・トロンボーンが個別に収録されているのがうれしい点。音源によってはこれらが一緒になってしまっているものもあり、オーケストラをシミュレートする際に不便なのですが、Forzo : Modern Brassはその点も問題ありません。
僕が普段制作しているゲームやアニメ、劇伴制作の現場を踏まえ、Forzo : Modern Brassを評価するなら、“ブラス音源もついにここまできたか”という感じです。まず約25GB(無圧縮時)という大容量のサンプルにもかかわらず、動作がとても軽い。サウンドは無加工ながらいわゆる即戦力の音で、制作の速度が求められる現場にフィットします。音の印象としてはEASTWEST Hollywood Brassほどギラギラしておらず、PROJECT SAM Orchestra Brass Classicよりは抜けが良く明るい音と言えば分かりやすいでしょうか。双方の良いところ取りをしており、とても使いやすく感じました。制作では予算の兼ね合いから弦と木管は生音だけど金管は打ち込みで、ということも頻繁にありますので、そういう場合にこのようなミックスがしやすい音はとても重宝しそうです。
奏法も必要なものは一通り網羅されており、これらはキー・スイッチに任意で割り当てることが可能。使わない奏法はパージしたり、自分好みにカスタマイズできる点がクリエイター目線でとてもありがたいです。
また、音源によっては音の立ち上がりにばらつきがあるものも存在し、打ち込む上でストレスを感じることも少なくありません。しかし、Forzo : Modern Brassはアタックが一定のためそのようなことがなく、べたっと打ち込んでも“それっぽい音”で鳴ってくれます。これは後で生音を収録することを前提としたモックアップの制作にとても役立ちます。その中でもスフォルツァート・サンプルの音の立ち上がりが非常に良く、速いパッセージに大変有効でした。唯一ソロ・セクションの収録が無い点が残念ですが、価格に対するクオリティを考えるなら無いものねだりと言わざるを得ないでしょう。
独自のリズム・エフェクトを用いた
重厚なグラニュラー・サウンド
Forzo : Modern Brassは、Brass DesignerとBrass Loop Designerという、従来のブラス音源にはない2つの機能を兼ね備えています。Brass Designerでは最大3種類のブラスを重ねたレイヤー・サウンドを制作することが可能。

最大の特徴は高度なリズム・エフェクト“Cycle”を用いた、効果的なグラニュラー・スタイルのサウンド作成です。これはブラス・サウンドに、シンセ的な音色とリズム・パターンをもたらしてくれます。触ってみたところ、現代的なハリウッド・サスペンスやホラーなどで“あるある!”といった音を、直観的な操作ですぐに作ることができました。
3種類のレイヤーは任意に選択が可能で、プリセットから選ぶだけでもサウンド・カラーがガラッと変化して楽しいです。サウンドの根幹を成すCycleも同じくプリセットから選べますし、作り込みたい人は各パラメーターを調整してどこまでもエディットできます。こうした音をゼロから制作するとなると通常かなりの手間がかかるものですが、この音源を使えばすぐにイメージの音を出すことができ、ピンポイントな用途に絶大な力を発揮してくれそうです。
次にBrass Loop Designerですが、こちらは打って変わってハリウッド・アクション的なブラス・リズム・サウンドを手軽に鳴らすことができます。

帯域別に分けられた3種類のリズム・モチーフを組み合わせてブラス・リズムを作ることができるのですが、膨大なプリセットから適当なものを選んで鍵盤を押すだけでも“これ!”といったサウンドが鳴ります。ずるいと感じてしまうほど良い音です。現場では曲数は多いが納期は早いという場合が多々あり、そうした際の時間短縮にも効果を発揮してくれるのではないでしょうか。その場合、これでリズム・モチーフを作り、上にほかのセクションを重ねていく使い方が良さそうです。
これまでにもイメージの音を求めて多数のブラス音源を試してきましたが、今回Forzo : Modern Brassが制作の際の新たなマスト・アイテムに加わりました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年1月号より)