「CYCLING '74 Max 8」製品レビュー:パフォーマンスが向上した音楽や映像に適するプログラミング・ソフト

CYCLING '74Max 8

CYCLING '74 Maxは、主に音楽制作での利用を中心に、非常にカバー範囲の広いビジュアル・プログラミング・ソフト。豊富に用意されたオブジェクトをパッチ・コードで接続していくことで、感覚的にプログラミングすることができます。Maxだけでさまざまな機能を持ったソフトを作ることができますが、ほかの音楽ソフトとの連携も強力。オーディオ・プラグインのホストにもなり、ReWireでDAWソフトとの接続に対応します。特にABLETON LiveはアドオンのMax for Liveによってシームレスな連携を実現しており、独自デバイスの開発も可能です。

私はほぼすべての制作活動にMaxを使用してきました。理想のサウンドを追求したシンセやエフェクター、自分の作曲手法を反映したシーケンス・システムなどを構築し、楽曲制作だけでなくライブ・パフォーマンスにも使っています。インタラクティブな展示作品のサウンドを手掛けることも多いのですが、そのような場合はほかのコンピューターやセンサーなどと連携させて、リアルタイムでサウンドを生成するシステムを構築します。

まさにこれがなければ始まらない、最も重要なツールとなっています。今回はそんなMaxの最新バージョン、Max 8のレビューです。

オブジェクトのグルーピングが可能に
マルチチャンネル処理を強化

ユーザー・インターフェースのリニューアルを伴うことが多いMaxのメジャー・アップデートですが、今回は一見大きな変化はありません。しかし実は、随所でパフォーマンスの向上や、作業の効率化が図られています。例えばMax自体の起動速度やパッチのロード時間、パッチ編集画面の描画速度など、常に触れるプロセスが高速化されており、Max 7と比較して軽快に動くようになりました。標準オブジェクトの一部やモジュラー・シンセの要領で映像を扱うVizzieなども大幅に高速化しており、総合的なパフォーマンス向上を実現しています。

パッチ・エディターは、作業を効率化する改良が数多く施されています。例えば、これまでありそうでなかった機能、オブジェクトのグルーピングが実装され、いっそうグラフィック・ソフトに近い感覚でパッチ編集ができるようになりました。地味ながらも便利だと思ったのは、接続された2つのオブジェクトの間に別のオブジェクトを挿入する際、Shiftキーを押しながらドラッグすることで一発で挿入できるようになったこと。こういったユーザー目線に立った改良が印象的です。

オーディオ処理では、マルチチャンネル処理を強化する新機構、MCが導入されました。これは従来1chのシグナルが流れていたパッチ・コードがマルチチャンネルに対応するとともに、オーディオ処理オブジェクトもマルチチャンネルで動作可能になるというもの。サラウンドなどのマルチチャンネル音響用途に限らず、同じ処理が多数並列する部分をシンプルに作成できる汎用的な仕組みとなっています。

▲ランダムに動くバンドパス・フィルターがホワイト・ノイズにかかる簡単な例。画面左側は普通に1ch、右側はMCを使って64chが合成される。基本的にはオブジェクト名の先頭に“mc.”を付けるだけでマルチチャンネル処理となる ▲ランダムに動くバンドパス・フィルターがホワイト・ノイズにかかる簡単な例。画面左側は普通に1ch、右側はMCを使って64chが合成される。基本的にはオブジェクト名の先頭に“mc.”を付けるだけでマルチチャンネル処理となる

MCを用いることで全く新しいことが可能になるわけではないのですが、音響合成では同じ要素の集合“クラスター”で表現されるものが多くあり、そこに素早くアプローチできることは大きなメリットと言えるでしょう。例えばデチューンされたSaw波形を多数束ねるSuper Sawオシレーター、音を小さな断片にして集合させたグラニュラーなども、クラスターの一種ととらえることができます。MCはそういったところで威力を発揮するのです。

UIオブジェクトへのMIDIマップ機能
JavaScript環境のNode.jsに対応

MIDI関連では、ハードウェアMIDIコントローラーを使うときに便利な“MIDIマップ機能”が搭載されたのががうれしいところ。ABLETON LiveのMIDIマップとほぼ同じ使用感で、UIオブジェクトに対して素早くコントローラーをアサインできます。Maxをライブ・パフォーマンスで使う方は、本番前夜にあわててこのあたりのパッチを作った経験があると思いますが、それはもう過去の話となるわけです。

コード・ベースのプログラミングができる方にとってはNode for Max、つまりNode.jsに対応したことが一番の驚きではないでしょうか。Node.jsは主にサーバー上で用いられるJavaScript環境です。Maxで利用する際のメリットとしては、既存のJavaScriptライブラリを利用しやすいことが挙げられます。Maxは従来からJavaScriptに対応していますが、やや独特な(そして少々時代遅れの)仕様であるため、既存のライブラリを流用することが困難でした。今回導入されたNode.jsは本格的かつモダンな環境で、日々進化するWebテクノロジーの恩恵をライブラリという形で取り入れられます。それには例えば機械学習のような近年話題の技術も含まれます。今後どのような利用例が出てくるのか非常に楽しみです。

今回のアップデートは徹底してパフォーマンスの向上と作業の効率化に取り組んでおり、パッチ作成が非常に快適になった印象。新機能の追加は少なめですが、Node for Maxについては大いに可能性を感じました。ちなみに、私はパフォーマンス向上だけでも十分アップデートの価値を感じています。逆に言えば、Max 7ではそこに少々不満があったわけです。というわけで、いつもなら徐々に新バージョンに移行する私も、早々にMax 8に完全移行となりました。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2019年1月号より)

CYCLING '74
Max 8
オープン・プライス(市場予想価格:40,556円前後)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS 10.11.6以降、INTEL Core 2 Duoプロセッサー(Core I5以上推奨) ▪Windows:Windows 7以降、64ビット INTELまたはAMDマルチコア・プロセッサー ▪共通:4GB以上のRAM(8GB以上推奨)、インターネット接続環境(インストールおよびオーサライズ時)