
ノイズの種類を問わず声だけをクリアに
中央のノブ操作だけのシンプル設計
IDCはノイズ成分をプラグインが解析/学習し、主にノイズ成分のみを除去してスピーチを聴きやすくするという従来からあるような方法ではありません。ノイズの中にある声成分にのみフォーカスし、解析/学習することによってスピーチのみを分離して聴きやすくするという、今までとは全く逆と言ってもよい発想によって処理を行うプラグインです。
ノイズと一口に言っても空調や野外などの風に起因するものや、周りに車や動物などのいる環境音系、電源や機材由来のものなど多種多様であり、それらを除去するには細かなパラメーターを設定する必要があったり、複雑なノイズは解析しきれずうまくいかないことなどがありました。その点こちらの製品はノイズではなく、スピーチをいかに取り出すかというところに焦点を絞っているため、ノイズの種類が何かなどということは関係無く処理ができ、操作方法も含めとてもシンプルに仕上がっています。製品名が端的に目的を表しているとあらためて思いました。
そのシンプルな操作方法ですが、センターの大きなBACKGROUNDノブがノイズ成分(声以外)を増減するボリュームになっており、基本的にはこの部分のみでも目的は達成できます。

左に回していけばスピーチのバックグラウンドにあるノイズ成分が下がっていきます。右に回すこと(増幅)もでき、ノイズ成分を目立たせることも可能です。どんなノイズが入っているかの確認をしたり、ノイズ成分を逆に利用するような場面で使えるかと思います。左右のスライダーは微調整のためのもので、右のSPEECHは声成分のみを増減するボリューム、左のSTRENGTHはノイズと声を分離する効果の強さの調整に使います。STRENGTHはあまり上げ過ぎるとサウンドに違和感が出てくるので、音を聴きながら許容範囲を探るのがよいでしょう。下のOUTPUTスライダーは最終的なアウトの音量を調整できるので、メーターを見ながらひずまないように調整するとよいかと思います。


ちなみに、プラグイン自体のレイテンシーはAVID Pro Tools 48kHzセッション上で、2,048サンプル=42msなので若干大きめではあるものの、リアルタイムで整音するような使い方もできなくはなさそうです。実際に筆者が行っている生配信などでは映像のレイテンシーが音に対して4フレーム=133ms近くはあるため、音の処理をする上では許容範囲に収まっていると思います。
トーク番組のBGMもカット可能
声の芯をしっかりと残して処理
手元にあるノイズの含まれた音ファイルに適用してみましたが、本当に簡単にスピーチ成分のみを聴き取りやすくすることができました。今まではノイズに合わせて使用するプラグインをあれこれと使い分けていましたが、ことスピーチのみを取り出すという目的においてはこれ一つでいいかな、という印象です。他社のノイズ処理プラグイン同様に多少のハイ落ち感はあるものの、デジタル・ノイズ感はかなり押さえられており、声の質感はとても良い印象。一番の特徴はローエンド部分がしっかり残っているため、声の芯がしっかりしていることでしょうか。今までのプラグインではどうしても声のレンジ感が上下ともに狭くなる傾向だったので、その部分はかなり評価できるかと思いました。
またスピーチ成分を取り出すという特性があるため、ノイズではないもの、例えばトーク番組でバックグラウンドに流れているようなBGMを下げる、ということもできました。これが可能だということは、演者に付けているラベリア・マイクに収録現場でうっすら流れているBGMがかぶってしまっているときなどに、後から低減させることができるのでよりクリアな声を届けられるでしょう。この辺りは他社のノイズ除去にフォーカスしているプラグインではあまりできない処理なので価値のある機能だと思います。
スピーチの聴き取りやすさに特化することで今までのノイズ除去系プラグインで面倒だった操作を排除。サウンドのクオリティも維持しやすく、映像制作などで誰でも手軽に使用することができるものになっています。最近は誰でも映像制作を行えるようになり、動画のクオリティも上がってきていますが、音声に関してはもう一歩クオリティが低いなと思うことも多いのが実情。ぜひこのIDCを使用し、音のクオリティ・アップを図ってみてはいかがでしょうか。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)