
独自の三角形振動板を採用
周波数特性は驚異の7Hz〜87kHz
EHRLUNDというブランドは筆者も初めて聞く名前だ。スウェーデンのダーラナ県シリヤンスネースを拠点とし、電機回路設計に長年携わってきたヨラン・アーランド氏開発のトライアングル・メンブレン・カプセルという三角形型のダイアフラムを使用したマイクを取り扱うブランドだという。EHR-Hは日本国内発売モデルとしては、スタジオ用マイクEHR-Mに続く製品である。
本機の第一印象はグリルが大ぶりでしっかりとしており、グリップ部分の中央が膨らんだ独特なフォルムだが、ちょうど手の平のくぼみにしっかりとフィットしそう。スタジオ・マイクから受け継いだモデルということでしっかりとした重量感もあり、黒のつや消し塗装もシックな印象を与えている。なお本体の材質はアルミニウム製で、サイズは直径53mm×長さ182mm、ニッケル・メッキ高靭性ステンレス製のグリルが大ぶりで立派だ。グリル・ネットのすき間も多めに取っているようで、音をしっかり受け止めそうである。重量は272gとなっており、グリップの曲線のフィット感もあるかとは思うが、重厚な印象とは対照的に持ってみると意外に軽く感じた。
構造的にはカーディオイド・タイプのコンデンサー・マイクとなっており、使用に際しファンタム電源(48V)が必要だ。端子は標準的な3ピンXLR。なお周波数特性は、驚異の7Hz~87kHzが示されている。特殊な技術として、EHRLUND独自のトライアングル・メンブレン・カプセルと特許取得済のリニアな位相カーブを採用したプリアンプの組み合わせを掲げている点も特徴。トライアングル・メンブレン・カプセルというのは従来の円形や四角形型の振動板に比べて速く共振を弱める構造で、三角形の表面を伝わる音波を細かくとらえることで複雑な信号を自然な形で表現できるという。また2.0mA以下という低エネルギー消費も実現。あらゆるインピーダンスにも対応するそうで、200Ωと2kΩのコンソールで比較しても同じ周波数特性を得られるようだ。
高域の落ち着いたフラットなサウンド
低域が充実した密度の濃いキャラクター
今回は野外イベントで、3ピースバンド(vo&g、b、ds)の女性ボーカル用マイクとして使用してみた。コンソール・ゲインをほかのコンデンサー・マイクと同程度で出してみたが、マイク本体のゲインが高いのか、かなり大きく15~20dBくらい絞って使う感じだった。声は最近のマイクの色付けによく見られる高域上がりでギラギラとしたものとは全く違い、かなり落ち着いたフラットな印象。比べて低域の充実感がすごく、低次倍音をよく拾っている密度の濃いキャラクターだ。また400Hz~1kHzの声成分の基となる中心周波数帯のレスポンスも良く、実際に聴いてみると声が近く感じ、歌詞がよく聴き取れ、ビンテージのスタジオ・マイク的なニュアンスもあるようだ。10kHz以上は特に落ち着いた感じで、ハイ上がりの音を好む人には向いてないかもしれないが、逆にギター・アンプやパーカッションなどの速いパッセージを含む楽器には向いているかもしれない。
また、スタジオ・マイク・メーカーのライブ用途という機種には、繊細で耐久性が怪しく扱いに注意が必要だったり、音は良いものの感度が良過ぎてほかの楽器の音を拾いすぎて使いづらいものがよくある。しかし、本機はその辺りもあまり気にせずに使っても問題無さそうだ。付属のマイク・ホルダーは、マイク部と接触し挟み込む部分全体がゴム製という初めて見る構造で、防振効果になっている。さらに、ナイロン製のポーチ型ケースも、乗り込みエンジニアやボーカリストの運搬を考えていると感じた。

筆者が所属するLSDエンジニアリングは野外フェスの現地PAを受け持つことが多く、同時にたくさんのエンジニアを迎え、各人がそのバンドに合わせてさまざまなマイクを持ってきて使っている。現地でいつも用意しておく定番のものと、バンドに帯同するエンジニアが出したい音の個性に合わせて持ってくるものとがある。このマイクはブランドとしての歴史も浅く、音のキャラクターもルックスも超が付くほどに個性的なので、逆にこれからどのようなエンジニアが、どのように使うのかが楽しみなマイクだ。
個人的にはぜひEHR-Hを楽器で使ってみたいと思った。メーカーのWebサイトでは、ホーンやパーカッションに向いているコンデンサー・マイクや、アコースティック・ギター用のピックアップとプリアンプなども既にラインナップされており、そちらの輸入販売も期待したい。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)