「ASPEN PITTMAN DESIGNS Spacestation XL」製品レビュー:フロント+サイドの出力で広がりあるサウンドを実現するスピーカー

ASPEN PITTMAN DESIGNSSpacestation XL
Spacestation XLはコンパクトでありながらパワフルなステージ・スピーカーだ。300°という広い指向特性により、室内に限らず屋外などでも会場全体に独特の立体感があるサウンドを鳴らせる。ステレオを超えた3Dサウンドをさまざまなシチュエーションでテストしてみた。

3方向にスピーカー・ユニットを装備
WIDTHで音の広がりを調整できる

Spacestation XLはEMINENCE製1インチ・チタニウム・ドライバーと12インチ・ウーファーをフロントに装備している。また本体左右の側面には6.5インチ・サイド・スピーカーがあり、独自DSPテクノロジーのDTA(Digital Transducer Alignment)と組み合わせて1台で計3カ所から音を出力できるのが特徴だ。

▲Spacestation XL本体左右の側面にはサイド・スピーカーが備わっており、フロント+サイド・スピーカーからの出力によって広がりのあるサウンドを実現している。その広がり方や、フロント・スピーカーとサイド・スピーカーのディレイの調整を行っているのが同社独自のDSPテクノロジー、DTA(Digital Transducer Alignment)だ ▲Spacestation XL本体左右の側面にはサイド・スピーカーが備わっており、フロント+サイド・スピーカーからの出力によって広がりのあるサウンドを実現している。その広がり方や、フロント・スピーカーとサイド・スピーカーのディレイの調整を行っているのが同社独自のDSPテクノロジー、DTA(Digital Transducer Alignment)だ

フロント・パネルにはステレオ2系統(ch1/ch2)のフォーン入力(L/R)、入力系統ごとのボリューム、入力ソースに合わせて–10dBの楽器レベル信号と+4dBのライン・レベル信号を切り換えられるスイッチ、マスター・ボリューム、高域を調整するHFQ、サイド・スピーカー・システムによる広がりを制御するWIDTHがある。背面にはL/Rchそれぞれを個別に出力できるXLRとフォーン出力端子、ミックス・アウト用のXLRとフォーン出力端子があり、FOH卓やフロント・スピーカー・システムを拡張するためのスピーカーなどへ音を送ることが可能だ。特許を取得しているという“offset inputs”というパネル・デザインはケーブル抜けを防ぎ、スピーカーの側面と正面にケーブルがかからないように工夫されている。

まずはレコーディング・スタジオで音の鳴り方をチェックする。Macに入っているプレイリストから幾つかジャンルの違う音楽を再生。HFQ、WIDTHを12時の位置から始めてみた。一般的なJポップをかけてみると少し中域が強めな印象がする。HFQを右側に回していくと高音域が少しずつ出てきて、振り切ると少しハイ上がりな印象の音像となった。逆に左側に回していくと高域はどんどんと無くなっていき、低域が強調されていく。HFQはEQ要素がありつつ、カット・フィルター的な効果も得られるのだろう。周波数帯域は50Hz〜20kHzとなっていて、キックやベースの体で感じる低域、ハイハットやシンセの高域部分のキラキラ感は嫌な感じが全くせず、程良いバランスで鳴る印象だ。

WIDTHを左側へ絞るとフロントのスピーカーからの出力のみとなり、音源をギター・アンプから出しているような音像に。WIDTHを右側へ動かしていくと本体側面に設置されたサイド・スピーカーからも音が出力されていき、ワイド感がぐんぐんと増していった。イメージャー系プラグインの効果と似ているが、単に左右に広げるのではなく、ミッドとサイドに分かれて広がっている感じがした。独自の奥行き感が作られていくので、耳になじんだ楽曲もまた新たなミックスとして感じられる。ただ、右側に振り切り過ぎるとバランスが破たんしてしまい、ボーカルのリバーブ、左右に振っているコーラスやギターが強調され過ぎてしまうと感じた。心地良いポイントを再生しながら探っていくのがよいだろう。

アコースティック系やクラシック、ライブ音源などは息遣いや空気感もしっかり表現されていて、粒立ちの良い明りょうなサウンド。ミュージカル映画のサントラを、WIDTHで広がりを出して目の前で聴いてみたが、映画館で鑑賞したときを思い出すほど臨場感があり興奮した。

ディレイやコーラスの立体感が向上
エフェクティブな3D空間を演出できる

次にキーボードをつないでテストしてみた。ディレイやコーラスなどの左右に広がるエフェクトは普段と同じセッティングでも聴こえ方に違いが出て、立体感が増した印象に。ディレイはピンポンによる左右の広がり方、減衰の仕方が300°の広指向特性を十分に生かしている印象で、部屋全体に音が跳ねている感じが得られた。コーラスも奥行きが一段増した印象で、新しいエフェクターを手にしたようだ。そういったエフェクトが入っている音色のレコーディングの際にSpacestation XLを通して録ってみるのも面白いだろう。

最後に、テストの場所をライブ・ハウスに移して鳴らしてみた。レコーディング・スタジオとは部屋の鳴り方が違うため、会場の大きさに合わせてHFQとWIDTHを調整する。WIDTHを振り切るとやはりミックス・バランスが破たんしてしまっている印象がしたので、最大値から少し絞るくらいにセット。ステージ手前中央に置いてリスニングしてみたのだが、幅広い指向性によって会場のどのポイントでも同じような音の聴こえ方がした。音響機器が常設されていないような会場へ持ち込んでライブをする場合でも、この1台である程度カバーできるだろうし、広い会場でのニア・フィールド・モニターとしても使い勝手が良さそうだ。

コンパクトな作りで大出力を誇るSpacestation XLはその幅広い指向特性を生かし、小規模会場のメイン・スピーカー、大規模会場ではニア・フィールドなどのプラスα用スピーカーとしての使い方のほか、プレイヤーのステージ・モニターとしても使えるだろう。個人的にはギターやキーボードのアンプとして使い、WIDTHの広がり方で一味違ったエフェクティブな3D空間を演出するのが面白いと感じた。

▲リア・パネル。右上からLchアウト(XLR、フォーン)、Rchアウト(XLR、フォーン)、ch1+ch2のミックス・アウト(XLR、フォーン) ▲リア・パネル。右上からLchアウト(XLR、フォーン)、Rchアウト(XLR、フォーン)、ch1+ch2のミックス・アウト(XLR、フォーン)

サウンド&レコーディング・マガジン 2018年9月号より)

ASPEN PITTMAN DESIGNS
Spacestation XL
オープン・プライス(市場予想価格:159,800円前後)
▪ユニット構成:12インチ・ウーファー+1インチ・ツィーター、6.5インチ・サイド・スピーカー×2 ▪ステレオ・サウンドフィールド:300° ▪クラスDアンプ出力:700W ▪周波数特性:50Hz〜20kHz ▪最大音圧レベル:116dB SPL ▪外形寸法:406.4(W)×736.6(H)×431.8(D)mm ▪重量:29kg